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(686) 年齢と血の巡り

 (686) 年 齢 と 血 の 巡 り
 
 歳をとったせいか、このころ「血の巡りが悪くなって . . . 」という言葉をよく聞く。

♣ おっとっと、実は 「その通り」 なのだ。ここで言う 「血の巡り」 の意味は二通りある:――  「物事を理解する力、頭の働き」の意味が第一だ。たとえば 「巡りが悪くて理解が遅い」 などと表現される。あまり良い言葉ではないが、「ウスノロ」の人かも知れず、また 同じ人でも、歳と共に 「巡りが悪くなった」 のかも知れない。

「循環」の元の意味は 「ひとめぐりして、もとへ戻ることを繰り返すこと」、血が心臓から出て一巡りして元に戻ることである。たとえば 「巡りを良くする薬」 なんて聞いたことはないか? の意味なら 「神経活動」 を表すし、の意味なら 「心臓と血管の活動」を問題にしている。病院に行くと ① の神経活動を測定することは困難だが、② なら 簡単に測れる。

♣ ② を知る一番 簡単な方法は 「薬物の静脈内注射」 である。静脈注射されると、ビタミンB1の一種である 「アリナミン」 は、血流に乗って「肺」にたどり着き、すぐに呼気に移って 独特の  “にんにく”  の匂いとして感じられる。ストップ・ ウオッチで 所要時間を測定すれば、これを 「アリナミン時間」 と言う。これは「腕~肺の循環時間」で、約 2 秒 である。これが遅延すると、末梢循環不全が疑われる。

♣ 次に “デコリン” という胆汁製薬の「苦味 (にがみ) 剤」を静脈注射する。デコリンの流れは 腕から右側の心臓~肺~左の心臓~顔(舌)のように 長い距離を通過するから、約 5 秒 掛かる。これが遅延すると、心不全が疑われる。

♣ アリナミン時間やデコリン時間は 「本人の感覚」 に頼る方法であるため、検査法としては感度がにぶい欠点がある。

♣ しかし近年では色素 (ジアグノグリーン) を用いて光 (ひかり) 検出器で循環時間を正確に求める方法が応用されている。この方法によると、「循環時間」 だけでなく、「心拍出量」 1 ~ 2 ) まで調べることが出来る。こんなことをして、何の役に立つのか?

♣ 「循環時間」 ( = 血の巡り) は 年齢と密接な関係があり、血液が心臓から出て体を一回りする平均循環時間は若い 15 歳くらいで一番早く (約17秒)、以後は年齢が進むにつれ直線的に遅くなり 80 歳で 23 秒( 5 割増し)となる。

年齢と血の巡り

♣ 男女では体の長さが大きく異なるので、身長補正すると男女差は消え (図1)、15 歳で 9.6 秒/m、80 歳で 14.5 秒/m…つまり年齢差 65 年間で約 5 割増しの 5 秒遅延する。この数値を印象付けるために、東京の電車 「環状 山の手線」 一周の所要時間(平均 63 分)で表すと、たまたま同じ数字で 若い人( 15 歳)で 63 秒、齢の人( 80 歳)なら 5 割増の 95秒となった。つまり「山の手線」で仕事をするなら、齢をとると 5 割ほど余分な時間が掛かることになる。

♣ 「ワシは血の巡りに関しては どの若者にもヒケを取らぬぞ ! 」 と言う元気なお年寄りがあるが、それは違う。巡り時間は 年々歳々 約 5 割ほど遅くなるのが現実なのだ。

♣ いったい、それは ナゼ? その主な理由は 「心拍出量」 が激減するからだ 。ティーンエイジャーの心臓は毎分 6 ~ 7 リットル程度の血液を送り出すが、80 歳になると半減する(≒ 3.5 リットル)。どうして少なくなるのか?それは「歳をとると体が古び、活性 (基礎代謝量) が低下するから」くらいの答えになる。

♣ もうちょっとマシな答えを出すとすれば、「それはヒトの遺伝子がそのように定めているから」にだろう。遺伝子って、そんなに不親切なものなのか?いや、決して不親切ではない。ちょっと難しい言葉で言い替えれば、「体のエネルギー需要が節約され 寿命が長くなっているのだ」と考えれば良い。

老人と血の巡り

♣ 以前に語ったことがあるが、人の一生は 「蝋燭」 (ろうそく) にたとえられる。つまり ろうそくの芯(しん)を掻き立てると、炎の光は強くなるが、ろうそくの寿命は早く終わる(図2) 。人の体の細胞も同じことである。

♣ 例えば、入浴の時、皮膚をゴシゴシ擦って垢を剥き取り、新しい皮膚を表面に出すことを考えよう。人の皮膚細胞は一生に 55 回 程度しか新品に取り換えられない 3) 。若いうちに健康を目指して皮膚を剥きすぎると、歳をとって 新しい皮膚細胞の補給が不利になる。したがって皮膚はテカテカ光るドライスキンになり、わずかなムリで 皮膚はすり切れ出血してしまう。 つまり、代謝需要を節約することで、お年寄りはもっと幸せな長生きが出来るわけだ。

♣ しかも驚くことに、老人は遅い血の巡りにも拘わらず、決して 思考・精神活動 までもが遅い訳ではなく、国会や社会の至るところで「年寄り、少しは 引っこめ ! 」という罵声が聞かれるほど元気である。ただし、パールの特養にお入りの 90 歳代の方となると、循環時間はきっと遅延しているだろうし、認知症の併発と共に油断はならない。

♣ 血の巡りが遅くなっても、ヒトは さしずめ へこたれていないことを頭に置いておこう。それは心臓が悪いからではなく、単に基礎代謝の年齢性低下によるものである。2078字

要約:  人の血液が心臓から打ちだされて心臓に戻る時間を(平均)循環時間と云い、15 歳で 17 秒、年齢と共に増し 80 歳で 23 秒となり、これを東京の「山手線」一循環に例えると、平均 63 分で回れる電車時間が 95 分に、つまり5 割ほどの遅延となる。 にも拘わらず、政治家・ノーベル賞の活躍でも 分かるように、高齢者の 思考・精神活動 までも遅い訳ではない。 つまり、この遅延は健康な高齢者の「徴( しるし」 なのであって、心臓の病気に原因があるものではない。

参考: 1) 心拍出量 (しん はくしゅつりょう) : 心臓が毎分送り出す血液の量; 正常な大人で 毎分 4 ~ 6 リットル。 2) 図説 色素希釈法 ― 心機能のみかた、新谷冨士雄 ISBN 4-525-24451-8、1986、南山堂  3 ) 新谷: 「入浴時の洗い方」; 福祉における安全管理 # 11, 2010.  

(694) 認 知 症 : 来 し方、行 く 末

(694) 認 知 症 : 来 ( き ) し方、行 く 末 (すえ)    
   
江戸時代まで人々がどんな病気で亡くなったか、統計もなく 西洋医学もなかったから推察するほかはない ―― たぶん、栄養失調・外傷・感染症などであっただろう。

♣ 昭和も 30 年、私が学生で 「公衆衛生実習」 の都内会社めぐりで取材した頃の平均年齢は 50 歳、以前に比べれば 寿命は延びたものの、死因のトップはやはり 結核 だった ! しかし新聞はいつもこう報じていた =「結核が薬で治った例なんて聞いたことがない」と ! それを今 現在の言葉で言えば、「キチンと診断された認知症が薬で治った人は一人もいナイ ! 」 に相当するだろう。その頃は、せめて平均寿命の 50 歳までは生きていたい、だけが念願の時代だったのだ。

♣ ところが 結核に有効な ストレプトマイシン が突如現れ、日本の状況はめまぐるしく変わった。いまや結核の死亡順位は 1 位から 10 位程度に落ちた。だが 幸せは長く続かなかった。結核が落ち込めば、「糖尿病・心臓病・脳卒中・ガン」 がバトンタッチをして猛威を振るう。

♣ しかし、これらの生活習慣病は結核と違い、罹患年齢が中年から初老に延び、病気の年齢が高くなった。これらの生活習慣病は、かなりの程度 予防が可能であるが、昭和 60 年以降のバブル景気に酔った日本人は 真面目な予防に励まなかった。なかんずくガンは死亡者は33%程度を占め、現在もなお 恐怖の王座を占めている。

認知症:来し方、行く末

♣ そんな状況であっても、ガンを乗り越え生き残る人々はどんどん増え、人口はついに戦後の 6 千万人から 1 億 2 千万人へと 2 倍に増え、現在では平均寿命も 50 歳から 87 歳まで、40 年近くも延びてしまった。これほど短期間にこれほどの長命が達成された例は世界広し、といえども 日本が初めてである(図1)。

♣ もし、この「長生き」がハッピーだけで終われば世の中は天国だったハズだったのだが ―― 実は、人知れずにガンの後釜を狙っている変性疾患の「認知症」が待ち構えていたのである。

♣ 考えてみると 死因一位の病気の種類の変遷は、昭和中期までは「感染症 = 結核」、続いて食い過ぎの「代謝病 = 糖尿病」そして病気類の最期を告げるのが「新生物 = ガン」であると思われた。

♣ ところが、世の中はそんなに甘くはない … 従来 聞いたことのない 「脳の変性症」、つまり 「認知症」 が新たに食い込んできたのだ。変性症とは 「使い古してガタが来た」 状態を言い、髪の毛の変性と言えば「毛が少なく白髪になり、禿げてくる」ような状態をいう。つまり、認知症は脳の変性症、禿は皮膚の変性症 .... 眼で見る状態は違うが 疾病レベルで言えば同格の状態なのである。

♣ そこで新しく問題になったのは 「認知症への対応」 である。たいていの人にとって初めての経験となる認知症 ―― 50 年まえには「恍惚」 (こうこつ) と呼ばれ、「痴呆」 (ちほう) と怖れられ、混迷の過去があった。

♣ 2000 年に 「介護保険」 が施行され、多くの痴呆老人は家庭から施設へ移され、家族の負担は著しく減った。そこで よみがえった合言葉は 「お年寄りを大切にしましょう」 で 、「介護保険の親孝行」の新しい時代が訪れた―― つまり、家庭での親孝行は減り、親を施設に預けて孝行をする流れである。

♣ 先進国(スエーデン・デンマーク・イギリスなど)では、すでに 2010 年頃から、親を養う義務を家族から国家へ引き継ぐ制度に変わって来た。つまり年とった親の面倒は国が見る訳だ。日本も徐々にその方向に近づきつつある。この点で認知症は過去の「癌や脳卒中」などの病気の対応とは大きく異なっている。

♣ 認知症は 65 歳頃から始まり、5 年ごとに倍々ゲームで数が増え、100 歳に至ると誰もが認知症になる(図2)。つまり認知症は病気ではなく「長命の華」なのである。したがってそれは家族の責任には属せず、やはり国家が福祉政策によって対応すべきものであろう。

認知症: 来し方、行く末
............ 認知症の頻度 : 横軸 = 年齢  縦軸 = %頻度

♣ だが、ここに 大きな矛盾 があるように感じる。つまり、我々は誰でも長生きを欲する――しかし、長生きすれば必ず認知症が訪れてくる。“長生きしたいけれど認知症はイヤだ” は通らないことを やっと近年になって学んだのだ。「認知症は治療によって治るか?」 の問題は 両立しない矛盾を解くような問題であり、「老化を治す」に等しい。

♣ 病気の歴史は「感染症(結核)→ 腫瘍(ガン)→ 変性症(長命)へと遷移してきた 1 ) 。そして我々は今 人類の遺伝子が許す最大寿命に達している 3 ) 。「認知症は治るか?」 の質問は 「飽くなき延命をどのレベルで妥協するか? 」 に答えるようなものであろう。

♣ すべて物事は “行き過ぎが戒められる” 。深情けの熱中よりも、ある意味で、古くから言い伝えられる 「ルー(Roux)の三法則 」 2 ) こそが 認知症の行く末なのではないだろうか。1938字 

結論: 平成の介護保険で長寿を重ねた認知症の方の心は本当に慰められているだろうか? 「人間の遺伝子寿命を凌駕 (りょうが)するような過大な延寿」を目標にすることは賢明ではないと思われる。 行く末の目標は「治す・看る・慰める」(Cure, Care, Console)で人の心を包み込むことではないだろうか。

参考: 1) 新谷冨士雄: 「ヒトはなぜ病気になるのか(人体と医療のなぜ・不思議)」 ;pp 194、PHP研究所刊、1992年。 2) ルー(Roux)の三法則 : 身体(筋肉)の機能は適度に使うと発達し、 使わなければ萎縮(退化)し、過度に使えば障害を起こす。この「ルーの三法則」は筋肉生理学の教えであるが、実際には私たちの生活のあらゆることに応用の利く法則のようである。 3 ) 新谷: 「3 倍ではまだ不足か?」; 福祉における安全管理 #665. 2018.

職員の声

声1: 誰しも、自分は認知症とはご縁がないと思うけれど、いつの間にかに認知症になり、「幸せな最期」を迎えるのが通例である(答: これぞ神様の「最大の贈り物」であるが、認知症をあらかじめ自覚できる人はイナイのが現実だ ! )。

声2: 欧州の先進国は素晴らしい… 親を養うのは家族ではなく、「国家」である、とは ! (答: それなりに税金も上がりますぞ ! )。

声3: 病気の過去は 結核 → 癌 → 認知症と変遷してきたが … 万一 認知症が治る時代が来たら、人の寿命はどうなるのか?(答: その時には、頭はハゲ、眼は見えず耳は聞こえず、歯は無く、食事は全面介助、屎尿は失禁 … それでも人はきっと生き続けて行くだろう)。

声4: 胃瘻で丁度 10 年お過ごしの 89 歳・認知症の女性が先日亡くなられた … この間ずっと眼も口もつむったまま … 「来し方、行く末」が胃瘻設置の時点から予想できたとしても、意思疎通のないままの 10 年とは何たる生涯かと感慨深い。

(679) 常 同 (じょうどう) って?

(679) 常同(じょうどう)って?

今日は ご利用者の様子の中で “変だな?” と感じることの一つ 「常同」 を考えてみる。

♣ 認知症クラスのデイ・サービスで K 様( 89 歳女性 要介護 3 )、新聞紙を丸める作業をした後、トイレのなかでもペーパーを丸めています。これは進行した認知症の症状とみなしてよいのでしょうか? 精神科の顧問医・O先生にお訊ねしました。

O先生: 精神疾患の中では、同一で 型のはまった 運動・姿勢・言葉 などが 目的もなく繰り返される様子がよく観察される。このような行為を精神科の用語で「常同(じょうどう) と呼ぶ。似たような行為に 「反復語唱」 (はんぷくごしょう) というのもある。「トンデー・トンデー・トンデー」など、本来の言語機能を失い、言葉が常同行為の道具となっている。他の例を幾つか挙げると:―― 「オーイ・オーイ」: 「ちょっとあのねー・ちょっとあのねー」: 「パイププ・パイププ」: 「手叩き また手叩き」: 「オネガイシマース . . .」、 どれか心当たりがあるだろう? 

常同(じょうどう)って?

♣ いずれも 認知症・統合失調・脳の器質疾患 などでみられる。職員がそれを止めようとしたり、たしなめようとしてはいけない。これらの常同語は脳の構造や機能が壊れたための症状であって、むしろ「これが、“常同” なのだな、認知症の症状なのだな . . . 」と理解し、本人を危険のないように見守る姿勢が大事である。

♣ これを見て、慣れていないご家族や初期の訓練生などは ビックリ されることもあるが、特別な薬の処方も必要ない。この様子は半年も一年も続くが、やがて体力の低下に伴って、静かになって行く。

♣ 皆さん、場数 (ばかず)を踏んで下さい。691字

職員の声

声1: トイレット・ペーパー を裂き破り続けたり、ていねいに折りたたむお年寄りがよくあるが、「常同」 の説明で理解できた。

声2: 同じ言葉を長々と話すお年寄りは よく見かけるが、「常同」 という名前を付けてもらうと、納得できる。

声3: 認知症の中でも、「常同」 になりやすいタイプがあるのだろうか?(答: 認知症は 大脳細胞の減少が原因だから、どんな症状も 「アリー」 である; 特別な人がなる訳ではない)。

声4: 私は 「常同」 に興味を惹かれた;もっと知りたいです(答: アルツハイマー; パーキンソン: ハンチントン など、人の名前が付いた病気は その病態生理が不明な点が少なくなく、症状は奇妙キテレツのものが多い)。

(693) 600 歳?

  (693)  600歳 ? 

  人間の人口や寿命についての統計は、第二次大戦後になるまでは信頼性に足るデータは少なかった。なにしろ、貧困・飢餓・戦争・幼児の高い死亡率に邪魔されて、平均年齢の計算などで社会の有様を知ることは困難だった。

♣ その頃の世界人口は約 10 億人、日本の人口は約 6 千万人、平均年齢は 46 歳で、その過半数が 20 歳以下の「多々子・少老」であり、その人口構成の形状は 「人口ピラミッド」 とも呼ばれた。今の「多々老・少子」とは全く逆の姿である。

♣ ご存知、地球の面積は有限だし、養える食物の量も有限である。そこで世界的な 「農業革命」 が開発され、戦後 世界の食糧事情は 6 倍に好転、ところが世界人口も 6 倍の 60 億人に増加し、食糧の需給状態はトントンに留まった。

♣ 日本の場合、人口は 2 倍の 1 億 2 千万人に 、その上 平均年齢も 2 倍にの 87 歳に 増えた ! 老人がこんなに増えたことは もの凄い出来事であって、史上 初めての大事件である。

♣ 事はこれだけに留まらず、世界の人口は 60 億人から更に 70 億人にまで増え、世界中の人々は 「貧乏暇なし」 の状態に陥った。地球の食糧定員は 100 億人と推定され、砂漠や寒冷地を畑にしない限り、余裕は あと 30 億人分。

600 歳

♣ そこで宇宙科学発達の応援を受け、人類は 火星に移住する勢いとなった(図 1)。火星は 2 年かけて太陽を一周するので、地球人は いったん火星に足を降ろすと 2 年後でなければ地球に戻れず、最初の探検隊は 窮乏下で長生き する生活の研究をしておかねばならない。

♣ その一環として、アメリカの病理学者 ロイ・ ウオルフォード はアリゾナの砂漠の中で、「生命圏 2 」という火星探検の耐乏・長寿実験に参加し、想像を絶する孤独な 2 年間の生活を体験した。

♣ その結果、次の四つの意見を述べている: 元気で長生きするためには 「大食はダメ」; 抗生物質を頻用する清潔過ぎる環境は寿命を短くする; 自力で正しい 「自己免疫機能」 を維持すれば、人類の平均寿命はやがて 300 歳 になる; もし 事故さえなければ 600 歳 まで生存できる ! !

③ ④ は聞き捨てにならない ! 人々は 600 歳まで生きていられる傍証を得たのだ。従来 人類の最高寿命は フランスのジャンヌ・カルマンさんは 122 歳だった ―― ここで いきなり 600 歳の提案があったけれど、それを現実のものにするためには、周囲の環境を整え その人の日常生活を支なければなるまい。

♣ そこで私は 600 歳まで生きる展望を考えてみた。まず控えめの仮定として、人は 30 歳で初子を産み、生涯に二人の子を産むとしよう。その人が 60 歳になれば、孫は 4 人( 2 の 2 乗 = 4 )、90 歳なら ひ孫は 2 の 3 乗 = 8 人、こうして、600 歳になるときは 21 代目を迎えるから 子孫の数は 2 の 21 乗 = 2,097,152 人となるだろう。

♣ つまり 人が 600 歳になるまで このパターンで生存できるとすれば、 その子孫は 200 万人を越えますぞ !! イヤー、これは 果たしておめでたい話だろうか?

♣ でも、待てよ ! もし 人が 600 歳まで生き残るなら、介護する側の人だって 600 倍くらいも必要だろう。一人ではなく多数の人が 600 歳になるとすれば、必要な介護人は何万倍以上になるのか?

♣ それは考えただけで気が遠くなり、地球は破滅だ !! つまり? つまり? 人が 600 歳になるのは楽しい夢なんかではなく、地球の破滅に繋がる事件なのだから、アホの高望みとしか言えまい。

♣ 介護保険が実施されて今年は 19 年になる。特養パールのご利用者年齢は、初期 5 年間で約 88 歳、後期 5 年で約 89 歳 … その間 19 年が経過したけれど、手厚い介護を受けたからって、人の寿命は実質的に延びるものではない。この間、日本の総人口の平均年齢も有意に延びてはいない

600 歳

♣ 世の中では「長生き おめでとう!」 (図2) と呼ぶムードが日常的だが、お一人様を長生きさせることだけを考え、お世話のほうは 「他力本願」 (たりきほんがん) で話を進めるなんて、愚(ぐ)の骨頂ではないか。やはり 地道に将来像を考え、普通の 「並みコロ長寿」 でこそ みんなが幸せに暮らせる社会ではなかろうか。つまり 「一人相撲(すもう)の 600 歳」は無茶の夢の領域だろうと思われる。

♣ 「幸せに暮らす」とは決して「唯我独尊」 (ゆいがどくそん) ではなく、みんなが助け合ってこそ到達できる境地。今 与えられている常識的な寿命を 人並みに維持することこそ本物の夢であって、人々が目を見張るような長寿 600 歳は「良い夢」と言える代物ではないだろう。

♣ 夢は大きく持て ! と言われるが、私たちは もう 人類の到達できる最大寿命に達した昨今だ、と思う ーー だって、「幸せの 3 基本」 = 「身・心・社会」の側面で これ以上の喜びが望めるだろうか?介護保険は決して長寿合戦の場を提供するものではない … 「 幸せの 3 基本」が欠けてしまえば、どんな長寿も魅力が失せてしまう。

♣ 皆さんはどう思いますか? 1974字

要約:

世界人口は 近年 10 億 → 60 億 → 70 億人と増え、人間の 「火星移住」 の必要性が叫ばれるようになった。 その研究の結果、人間は 600 歳まで生きられることが判ったが、多数の人が 600 歳になることが出来れば 介護の資金・要員もそれなりに増え、地球は破滅に陥るかも知れない。 介護保険は決して 長寿合戦の場 ではない… みんなが 「幸せ」 になることがもっと大事。決して目標は 600 歳の超長寿を求めることはないだろう。


参考: 厚生労働省 「完全生命表」「簡易生命表」

職員の声

声1: 皆が 600 歳まで生きたら 「介護保険」はどうなるのだろう?(答: 介護保険は、国民寿命 90 歳の現在でも「破綻寸前」ですよ)。

声2: でも、やがて食糧難の時代が必ず来る … どうやって生き延びればよいのか?(答: 長生き望む人は、まず自分の食い扶持 (くいぶち) を自分で貯蓄しておくべきだ。他力本願の保険を利用する長生は、他人にとって迷惑千番、まずは不可能)。

声3: 長生き願望とは、結局 ウサン臭い念願なのか?(答: 600 歳まで生きる唯一の方法は現在の人生の部分経過を それぞれ「 8 倍」することから始めるのが良い。女子の生理期間は 12 歳 ~ 50 歳 …それを 8 倍にし、生理期間は 96 歳 ~ 400 歳 … つまり 399 歳になるまで女性は子を産むべし … 、女性の皆さん方は納得するか?もし、閉経を今のように 50 歳で終わらせ、そのあと 他力本願で 550 年ほど「食っちゃ寝」の長生きするって ムシ が良すぎ ! ムチャ の極み ! )。

(695) 鳥 無 き 里 の 蝙 蝠

(695) 鳥 無き 里 の 蝙蝠 (こうもり)  
   
 さて、「生命」って何だろう? 

♣ 「生命は細胞より成り、代謝を行って子孫をはぐくむものだ」と、簡単に思われていた。しかし「風邪ウイルス」はそんな特徴を少しも持たず、物理的な「結晶」になって生き続ける「生命」である。定義というものは、いったん作成しても すぐに例外に突き当たって立ちすくんでしまうものだ。

♣ では、「病気」って何だろう?考え方にもよるが、今では病気を大きく 三分類 することができる:―― ① 感染症、② 腫瘍しゅよう)、③ 変性(へんせい)である 1 ) 。① ② についてはここで説明を必要としないだろう … 近年問題になるのは主に ③ の「変性」なのである。

♣ ここで 「変性」 について一言。 白髪・老眼・顔のシミなどは「変性」であるが、治療対象とすれば「病気」とも解釈できる。10 年以上使った車はポンコツ (= 変性) かもしれないが、必ずしも故障車ではない。人体の経年変化も しばしば「変性」と呼ばれるが、単なる中古か または病気なのか、その境目は一概に決められない。

図 1をご覧あれ … 昔と違って今の人はなかなか死なない ! 女性で言えば、95 % 以上は「高齢になった後 やっと逝く」。つまりその原因は 「70 歳前後で ガン・脳卒中」、それを免れた 「80 歳代以後は 老化・変性」 が主因である。
鳥無き里の蝙蝠

♣ ならば「老化・変性」って何? 分かりやすい言葉で言えば、「使い古してガタが来た状態」をイメージしよう。そもそも 万物は時間がたてば必ず古くなり老化する。貴金属の「金」でさえ、宇宙が誕生した 138 億年まえには 「水素」 だったのであり、それが星の中で老化・圧縮されて「金」になるのだ 1 ) 。人間の体は 「生命」 だから、生まれて 100 年も経てば古くなることは水素と同じだが、金や銀にはならない。

♣ では何になるのか?これに関して、老科学者の ストレーラー は 1960 年に、老化の原則 として 「普遍・内在・進行・悪化」 2 - 3 ) の 四つ を発表したので、それをここで復習しておこう。

普遍」とは、誰の体にも起こり、例外はないことだ。ソクラテスは死んだ、ナポレオンも死んだ、でも 私の母 だけは例外にして下さい… それはムリである。

内在」とは、老化の機序はその人の体の内側にあることである。つまり他人様はどうであれ、あなたの老化はあなたの DNA の中で進行する。

進行」とは老化は必ず進行する、という意味であり、後戻りすることはない ! テレビで 「若返りのサプリ」 が宣伝されるが、それは不可能であるにも拘わらず、多くの人がこれに引っ掛かる。

有害」とは、老化現象は「健全」の反対、つまり害をもたらす現象であって、白髪・老眼・難聴などの例を挙げるまでもなかろう。つまり老化とは、日々健康から遠ざかることであり、それゆえにエジプトではピラミッドが建設され、日本の「前方後円墳」も造られて、永遠の命が懇願された経緯(いきさつ)がある。

♣ 150 年前まで、人間の老化は天皇や将軍のような保護を受ける身分であってさえ、その生涯は 50 歳前後であった 4 ) 。しかし、現在のように誰しもが 90 歳や 100 歳になる時代になると、老化 ① ② ③ ④ の行きつくところの様相が大きく変わって来た。その典型が 「年寄りボケ」 (認知症)の頻発である。

♣ では、認知症って何か?それは、人間が 「子供の頃から育って得た 大人の知性を、再び失うこと」 であり、その頻度は還暦 60 歳以後 年齢に比例して増え、100 歳になると 100 % 全員がこの認知症に陥る(図2 ――横軸は年齢、縦軸は認知層の頻度 5 )

鳥無き里の蝙蝠

♣ 原子の 「水素」 は老化 して 「金」 になったことは上述通りだが、人間は加齢・老化 して 「認知症」 になることが分かった。人間だけではない … 身の周りの「犬・猫」などの飼育動物も老化 して認知症になる。

♣ 人間は 「知恵によって」 過去 多数の病気を克服して来た。認知症が、「もし病気であるのなら」 これも克服できるハズであり、事実 いくつかの薬物が製造・販売されてきた。

♣ その薬物の効果はどうだったか?正しく診断された認知症が薬で治った、という例が以前にあっただろうか? 過去のレーガン大統領・イギリスのサッチャー首相をはじめ、近年の 三笠宮様 も含めて、認知症への対応は困難を極めている。なぜなら「老化」は ひたすら「進行するのみ」 だからである。

♣ もし認知症を「脳の病気だ」 と思っていたのなら、私たちは眼を醒ますべきである … 脳の症状だけでなく、「全身」を見よ ! 白髪・視力・聴力・残歯・着衣・入浴・トイレ・転倒・骨折など ... すべてに思い当たる節(ふし)が見えることだろう。そして 上記 ストレーラーの 4 原則通り、認知症の正体が 全身の「老化・変性」であることを率直に受け止めることが出来るであろう。

♣ こと ここに至ってフランス政府は従来販売されてきた認知症薬を来月(2018 年 8 月 1 日)から保険適応外とすることを決めた。アメリカの大手製薬会社は同じように、認知症の薬物開発の研究を打ち止めにすると発表。

鳥無き里の蝙蝠

♣ では 華やかに使われている高価な 今の認知症薬物は一体何だったのか?それは「鳥なき里の蝙蝠」 (図 3)だったのだろう。つまり、他に有効な方法が無いのなら、藁(わら)をも掴む努力の実現だったのではないか。このことは その昔 抗生物質の 「ペニシリン」 が出現する前の 「サルファ剤」 に相当するのだろう。

♣ 私たちは結論として、老化の 4 原則を無視せず、「超高齢になるまで生存できる現在の社会」 に深く感謝 し、それ以上の欲張りを慎みながら、心豊かな日々を過ごしたら如何だろうか。2022字

要約: 人々の 95 % 以上が超高齢になったあと逝く 素晴らしい社会、その死因の多くは 「老化・変性」 の認知症である。 従来 認知症に用いられた薬は 変性 (= 認知症」)には無効であることが判明し、フランス ではこれらの薬を保険適応外とした。 しかし薬がなければ不安であろう … そこで、当分の間、日本では 「鳥なき里の蝙蝠」 として従来の薬が用いられるのではないか。 

参考: 1) 新谷:「病気予防はどこまで?」;福祉における安全管理 #648, 2017. 2 ) S trehler BL, General theory of mortality and aging. Science Jul 1960: 132 (3418), pp14~21. 3 ) 新谷:「加齢と老化の今後」; ibid # 626, 2017. 4 ) 新谷:「命の歩幅」; ibid # 620, 2017. 5 ) 幸有会記念病院(千葉市)院長のブログ: 「認知症の有病率」; 2015-01-31 2.
  
職員の声

声 1: 現行の認知症薬は病気の進行を遅らせる効果さえ無いのか?なぜ高価なのか?(答: 当初の期間 「進行を遅らせる」とされているが、 実地臨床ではそのあと 無効だ。 … 老化は自然に進行するものだが、それをを遅らせるって どうして証明できるのだろう?副作用はあるし、これほど難しい目的の薬だから開発費が膨大で、値段も高価になったのかもね)。

声2: フランス・アメリカ では「 認知症は薬で治る性質のものではない」 と率直に受け入れ、高価な薬品代を福祉のケアに回すことにした(答: その通り 天晴れな決断だと思うけど、利益団体からの猛反発を どのように かわしたのだろうか?)。

声3: 薬が無かったら認知症の人はどのように暮らすのか?(答: 「認知症」という言葉を 「老化」 に置き換えてみれば、それが「答」となる ... 上記の 「老化の 4 原則」 を思い出し、心静かな境地を学びたい)。

声4: 製薬会社の努力を認めてあげても良いのでは?(答: もちろんの事だ ... でも 効果が不確かで値段の高い薬を長期にわたって売り続けてきたんですよ … 鳥なき里の蝙蝠 (こうもり) とは、まさに このことではないだろうか?これは 昔 抗生物質の ペニシリン が現れる前の サルファ剤 の位置に相当するのかもね)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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