(636) 元 気 な 百 歳 と は ?

(636) 元 気 な 百 歳 と は ?  

みんなが大好きな標語は 「元気な百歳」。

♣ ここで一つだけ気に留めておきたい知識がある。それは 案外に私たちは知っていて知らない大事な事実 = 「百歳の健康とは何か?」―― それは具体的に “どんな姿のもの” なのかを みんなは悟っているのだろうか?

♣ 「不老不死」 を求める人々の心は、そこに 天国の神さま・女神さまがいらっしゃることを夢見る。現実の科学界にだって、長寿の 600歳 1 ) や 1,000 歳 2 ) を真面目に研究してそれを主張する学者もいる。だから「元気な百歳」の実態を「元気な 50 歳 」の心身と同等くらいに軽く考えるご家族が多い。私は長寿の夢を否定する気持ちは毛頭ないが、長寿時代の今、百歳 の現実を整頓して頭の片隅に置いておくことも必要だと思う。

♣ 以下の筋書きは皆さん方がボンヤリとご存知の現象ばかりである。ここでは 「七つの図」 で 「平均的な 100 歳」を描いてみる。

元気な百歳とは?

図 1 は 「毛髪の太さ」 と年齢の関係を示す。中年を過ぎると、男女共に毛髪の太さは直線的に減少する。人により男は「禿(はげ) 」てくるし、女性も髪の量が減り地肌が見えるようになる。半世紀前までは “人生 50 歳” だったから、私たちはこんな現象にまるで気がつかなかった。一口に言えば、100 歳 の現実とは 「禿」 に近づくことなのである。

元気な百歳とは?

図 2 は 「目の状況」 を示す。視力は白内障などのレンズの劣化に影響されるが、案外に気付かない 「ピントの調節力」 も日々の生活でモノを言う。加齢によって視力が低下すれば、「読書に必な “度” 」の調節も困難になってくる――文字は見えてもピントが合わなくなるのだ。100 歳 には 100 歳 なりの「視力障害」がある ! 
元気な百歳とは?

図 3 は 「聴力の変化」 を表す。若い頃には音の周波数の高低に関係なくみんな聞こえたが、齢とともに 1 K (1000サイクル) を越える高い音に鈍感となる。普段の会話やテレビの音でも、アイウエオの母音(ぼいん)は聞こえるが、カ行・サ行… などの高いピッチの子音(しいん)は 聞くも話すも不得意になる。それに合わせて ご存じの “ゆっくりで大声” の会話だ。

元気な百歳とは?

図 4 は、ご存知、残歯の数を示し 3 ) 、更年期を越えるとそれは 100 歳 に向かって直線的に減って行く。子孫確保のご用が無くなる更年期になれば、遺伝子は歯の世話を怠る、と解釈することが出来よう。かくして 100 歳 で歯無しの総入れ歯はありふれた現象となる。

元気な百歳とは?

図 5 は 「血中アルブミンと年齢」 の関係を示す。アルブミンは健康状態の指標として用いられる “生命の基礎タンパク質”= 身体の「血と肉」 を代表する成分である。アルブミンは齢と共に減り、高齢になると 3.0 ~ 2.0 グラムの低値の人はザラである。それは病気ではない。子孫確保のご用を済ませた更年期後には 余分な健康指標の必要がなくなるものとみる向きもある。
元気な百歳とは?

♣ 以上、平均値で見る 図1~図 5 は、100 歳 に向かって人の生命活性が右肩下がりに低下して行く有様を示し、私たちの常識とおおよそ一致している。これに反して、図 6は骨粗鬆症の頻度が右肩上がり に増えており、女性で著しく、それは更年期後の女性ホルモン減少を反映するものと言われるが、男性にも見られる現象である。骨の現状を司る遺伝子は子を産まなくなった更年期後の “骨のお世話をさぼる” 機序があるのだろう。

元気な百歳とは?

♣ 最期に 図 7 … これは 「齢と共に認知症の頻度が激増する有様」 を表す。65 歳 から始まって、5 年 ごとに倍々ゲームで右肩上がりに増える―― 85 歳 で人口の約半数が、100 歳 で平均約 8 割 が認知症になる ! この驚くべき現実をご存知だったか ! 

♣ これらの図は あくまで平均値 を示すものであるから、平均値以上の人々はより若くて元気と言えるだろう。WHO(世界保健機関)は、「健康」を三つの要素――「身体的・精神的・社会的」で活性が保たれていることと定義する。そこで平均以上の例を挙げてみよう:――マージ・ジェットン婆さんは 100 歳 になって運転免許証を更新し、毎日ガソリン給油場で働き、自分よりもずっと若いデイケア利用の老人たちを車で送迎していた 4 ) 。つまり彼女の場合は齢をとっていても “三つの要素で間違いなく健康” と判定できる訳だ。

♣ 元気な長命は偶然に得られるものではない。世に言われている元気で長命の三大秘訣は 「親・生活習慣・社会援助」 と言われる。丸めて説明すれば――あなたの親はどうだったか?あなたは “多酒・多煙・多食などの生活習慣” をどう制御して来たか?福祉の援助をすなおに受け入れたか?である。

♣ もしあなたが、上記 WHOの助言 に従えば、あなたは 図 1~7 で 示された心身の平均値を上回ること確実である。それによって元気な 100 歳 を達成する具体的な指針が手に入るのではないか? 1939字  

要約:   人間の 100 歳 の健康状態を 7枚の図 で概観してみた。 子孫繁栄の生理機能は、平均値で述べれば、更年期でストップ、100 歳 で枯渇している。 「元気で長生きの 100 歳 」を実現するためには、「親・生活習慣・社会援助」の三つを賢く取り揃える必要がある。

参考: 1) 新谷:「ついに 600 歳 か?」;福祉における安全管理 # 401, 2013. 2) 新谷:「寿命、え?1,000 歳?」; ibid 582, 2016. 3) 新谷:「歯の数を確かめよ ! 」; ibid #570: 2016. ">4 ) Dann Buettner: “ The Secrets of Long Life”, National Geographic; November 2~27, 2005.

職員の声

声1: 正直、百歳は長すぎる ! 役に立つ老人ってムリだろう?(答: 夢は残しておいたらどうか)。

声2: 自分のテレビの設定音量がいつの間にか 26 → 32 に上がっていた … 悔しいなー(答: ふと気が付く … みつけた白髪が一本、老眼鏡を手に取ってみる新聞の文字の鮮やかさ … まったく人生の出来事は順送りなんだなーと思う)。

声3: 長寿の百歳が年々増えてはいるが、みんな 食事・排泄・入浴・会話 など、どれをとっても “お手伝い” なくして百歳の日々は成り立っていない ! 人生は 70 歳 くらいで十分だ 思うけど?(答: いっぺんに百歳に飛んで行くわけではないし … 人は 70 歳 になったら必ず長生きの欲が出て来るものだ)。

声4: 医療・介護・制度などは進歩してきて、百歳の夢に花が咲くけれど、こと人体を考えてみると “昔と今は 少しも変わっていない” と感じる(答: 還暦(60 歳)は元気いっぱいだし、米寿(88歳)では “へたって来る” し、白寿(99 歳)は有りそうで得難い … マスコミは 100 歳 ・150 歳 などと話題を稼ぐが、元来 人間の寿命はムリなく更年期 50 歳 だったのである … 元気な百歳は今後も 「夢」 として大事にとっておいたらどうだろうか?)。

(632) 記 憶 に ご ざ い ま せ ん

(632) 記 憶 に ご ざ い ま せ ん

「記憶 と ボケ」 の話をしよう。

♣ 「記憶」 とは 経験した物事を大脳の中に留め、忘れずに覚えていること。詳しくは、記憶 = 「記銘(きめい) + 保持 + 再生」 の 3 要素 より成る。みんな “受験” の前にしっかり勉強したことを覚えているだろう … つまり、まず記憶のためには 「覚え込む」 必要があり(記銘)、これなしで記憶は成り立たない。

♣ 次に その記憶をある期間 保持せねばならず、これはなかなか困難を伴い、受験勉強の記憶でさえ一ヶ月程度で記銘したものをあらかた保持できなくなるだろう。

♣ 記銘が “保持されたこと” を証明するのが 再生のプロセスであり、キチンと再生できなければ、受験の場合なら「知っていても 知らなかった(無知) 」と同等であり、悔しくも 「記憶にございません」 となる。そこで、あなたの記憶がどのように “頼りになるか” 、それを 「気体・液体・個体」 という観点で眺めて見よう。

まず「気体の記憶」。私たちが「針の穴」に糸を通す時、「めくら滅法」ではなく、糸先を穴の横や上に当てているうちに、糸は通るだろう。このような糸通しは「試行錯誤」と呼ばれ、糸先の記憶は 1 ~ 2 秒 くらい有効 だ。これを「瞬時記憶」と呼び、生涯を通じて役立つ記憶の役目である。ただし、この記憶は「秒」の経過で跡形もなく消えて行く。その理由: 神経細胞の中を通過する瞬時記憶は「形」として残らないから。だから「気体の記憶」とも呼ぶのが適当で、気体のように フット消え去る。

記憶にございません

次に「液体の記憶」。私たちは 今日のお昼の「おかず」は覚えているが、一週前の「おかず」は思い出せないのが普通だ。その記憶の守備範囲は「数時間~数日」程度で、これを「短期記憶」と呼ぶ。記憶は まず脳の中の「海馬」 (かいば)と言う」組織(図 1)で「酵素」が働き、その情報の痕跡が残るからだ、とされる。

♣ この短期記憶は私たちが一晩寝ているあいだに、かなりの分量が消し去られる。その理由: 海馬の記憶容量は小さいので、その分量のメモリーを消しておかないと、次の日の情報操作に差し支えるから。だから、「液体の記憶」とも言われる:液体だから濡れて残ったけれど、やがて蒸発して消え去る。人間はこの「短期記憶」を文字化することにより「お金をいくら借りた、いや借りていない」などのトラブルを回避し、他の動物にはできない「文化・文明」の成功を収めることが出来た。

最後に「固体の記憶」。もし、ある情報や事件が非常に強力であったり、繰り返されたりすれば、その記憶は海馬から大脳へ移ってその中で 遺伝子を動員し、「記憶蛋白」を形成する。これは、蒸発する気体や流れ去る液体と違って そこに留まる物質であり、脳の中にガッチリ保存され、記憶の礎となる。その理由: 記憶蛋白がそこにあるなら、いつでも需要に応じて 記憶を再生することができる … つまり、記憶蛋白は「個体の記憶」と表現することができ、同時に「長期記憶」でもある。人間の 脳の働きはその「長期記憶の正確さ」にある。

ボケとは何? 「ボケ」とは頭の回転が遅くなることであるが、いろんなボケがある―― 寝ボケ・時差ボケ・正月ボケ・平和ボケ・訊問ボケ・年寄りボケなど。つまり、年寄りボケ以外は “健全な人” にも起こり得ることが分かり、「年寄りボケ」だけは “真正のボケ” なのである。

♣ 人の脳には約 150 億個 の記憶細胞があり、神経細胞は 成人後 毎日 10 万個 ほど減る と言われ 1, 2 ) 、歳とともに、新規の記憶が苦手となるのは、このためである。毎日 10 万個 の減少と聞けば、心細い限りであるが、記憶の細胞数は 150 億個 だから 比べれば 余裕がある !

♣ ところが、認知症では 脳細胞の減少度が激しくて毎日普通の何倍もの数が減り、「時・所・人」の認識がこの順に薄れ(= 中核症状)、加えて「周辺症状」も現れる … この状態が「認知症のボケ」と言われるものである。神経細胞は齢とともに失われて行くが、減少するものは体細胞数、歯の数・毛髪・皮膚・視力・聴力などの全身の何処にでも起こっている。ただ認知症のボケは精神の進行性ボケであるから受け入れ辛いところがあるのだろう 3 )

♣ ボケの他に 「トボケ」 というのがある。訊問などで報じられる「記憶にございません」は (ア) 本当に知らない(記銘・保持・再生、いずれもない)のと (イ) 再生だけを保身のため意識的に操作する、の二つがあり、(ア)と(イ)両方をあわせて「トボケる」のであろう。

♣ まったく人間の記憶の表明とは複雑・怪奇なものと言える。1865字  

要約   記憶は 3 成分 = 「記銘・保持・再生」 から成り、再生できない場合には記憶そのものが怪しくなる。 記憶の保持時間を 3っ に分けると 気体(秒)・液体(数時間~数日)・個体(終生)の成分があり、それぞれ担当の脳細胞が異なる。 「トボケル」とは、心理的な抑制が働き、記憶の成分のうち「再生」を人為的に操作している状態ではないだろうか。

参考:  1) 新谷:「脳細胞のひみつ」、福祉における安全管理 # 88 :2010.  2) 新谷: 「鍛(きた)えるって?」、ibid # 334, 2012. 3)  新谷: 「ボケ勝ち?」; ibid # 334 , 2012. 4 ) 新谷:「痴呆以前」; ibid # 2, 2010.

職員の声

声1: 記憶は 気体→ 液体→ 固体として脳に刻み込まれる … 大事な記憶をこの順番で貯蔵して行くように心掛けたい(答: 心理的に “前向き” であれば この流れは確実となるだろう)。

声2: 国会でトボける輩が多いが、本人の過去の事情からして答弁する内容を “記銘・保持しているに違いない、再生のプロセスでインチキしている”と 国民は思っている(答: そうかも知れないが、上手なトボケは法律で罰せられないそうだ)。

声3: 認知症の方、近日の事はまるで覚えていないのに、昔の歌を良く覚えて歌えるのはナゼ?(答: 正気だった昔に覚えたこと、すなわち 「固体の長期記憶」 だから再生される記憶は鮮明なのだ)。

声4: 最近 私自身の 液体・固体記憶 が定かでなくなった気がする … 脳の疲労と記憶とは関係あるか?(答: ストレスから来る記憶力の低下は明らかだ … 姿勢が “後ろ向き” になるから覚え込む気力(記銘力)に乏しく、保持するスタミナに欠け、再生する気迫もなくなる … 若年性認知症と間違えられることもあると言う)。

(631) 近 未 来 の 死 亡 原 因

(631) 近 未 来 の 死 亡 原 因

  私が小学生だったころ、町内を見渡しても 爺さん・婆さんは少なかった(1940年代)。

♣ 老人と言ってもせいぜい60歳過ぎ … 子供は多かったから、何らかの理由で人々は早死にしていたのだろう。遊び友達も一人二人と死んで行った。今と何が大きく違ったのだろう? 今日は 死因の今昔を整頓し、近未来に向かって「定説」とは異なった見解で検討する。

近未来の死亡原因

♣ 1.戦前 : 図 1 の左半分を参照。ここには 三大特徴 がある … つまり戦前の死因は 「肺炎・胃腸炎・結核」 で代表されている。突出した「肺炎と胃腸炎」は主に子供の伝染病であり、いったん罹ってしまうと、高熱・脱水により一週間程度で死の転帰をとった。

♣ 「結核」は 今の「癌」と同じように “不治の病” と呼ばれ、青年・中年層に多く、罹ったら 10 年 以上の経過で喀血(かっけつ)・体力消耗(しょうもう)により世を去った。

♣ 若死にであったにも拘わらず、有能だった人々の例と死亡時年齢を示すと … 滝廉太郎 (荒城の月・ 23 歳)、樋口一葉(にごりえ・ 25 歳)、正岡子規 (俳句・ 34 歳) 、夏目漱石 (坊ちゃん・ 49歳) などがある。これら戦前の三大疾患は今やほぼ根絶された。

2. 戦後 : 図 1 の右半分を参照。現在は 三大成人病、つまり 「癌・心疾患・肺炎」 の時代に変わった。戦直後から 1970 年 までは「脳出血」が頻繁だったが、近年は食生活の改善によって欧米型の「脳梗塞」に代わってきた。

♣ 平均寿命が 50 歳 から 90 歳 に延びるにつれ、疾病構造は「若年病」から「老年病」へと移った。まず、平均年齢が 50 歳 から 75 歳 に近づくにつれ “不治の病” = 癌 が年々増えた。癌死は平均年齢が高まるにつれ増えていることを 図 2 から読み取ることができる。つまり、「癌という病気」 が増殖したのではなく、癌年齢の老人が増えた結果なのである。

近未来の死亡原因

♣ なお、寿命延長に伴って増える他の病気として、図で “右肩上がり” の 「心疾患・肺炎」 の二つが目立つ。つまり、戦後に増えた三大成人病とは「長生き病」として捉えられる。理由はヒトは 70 歳 の屈折年齢を境にして世を去り始め、100 歳 を前にしてほぼ全員が死ぬ運命であるから 1, 2 ) 、長生き状況の一つ一つに異なる病名を付けても疾病管理の意味合いは乏しいのである。

3. 問題点 : 近年の高齢者はほとんどが 「複数の」 病気を持ち、「死の第一原因」の選択に迷いが生じている。例えば、脳卒中で寝たきりの老人が最期に肺炎で亡くなった場合、死因は「脳卒中」か?「肺炎」か? あっさり、「老衰」とするのは悔しいから、「天寿」としては如何か?

♣ また、近年増えてきた「認知症」を「老衰」としたり、往診先での死亡診断を無難な「心不全」とする例 も少からず有る。確実な根拠もないのに 「心不全・呼吸不全」の診断は不可」、との厚労省の指導にも拘わらず、心疾患が死亡の高位というのは良くない ! … 真の心疾患死なら 10 位 程度のハズなのである。

♣ また、昔は「脳出血死」の病名に迷いはなかったが、今は代わって「脳梗塞」が増え、後者は死亡診断名としての頻度が減った。なぜなら、多くの患者は急性期を生き残り、麻痺などの後遺症があっても、その症状は他の病名の裏に隠れ、「命取り」の診断名から外されてしまう。また、肺炎は “細菌性”、と “誤嚥性”、に大別されるがが、その疫学的意味は天地ほど異なる。

♣ 4. 近未来 : 現在 第一位の  は「細胞の確率病」と言われる。つまり我々の体には 癌細胞が 確率的に 毎日 1 万個 以上発生し、免疫機構がそれらを全部 退治する。万一、退治し損ねた癌細胞が一個でも残っていれば、それは 20 年後 には 「指先大の癌」 に成長し、全身転移が発生する。現在の癌死ピーク年齢は 75 歳 だから 3 ) 、癌になるのを、確率的に “30 年 ほど遅らせる治療” が開発されれば、ヒトは癌死の前に自然死で世を去ることができるようになる。将来の癌は 105 歳を越える超高齢者だけに見られる稀な病気になるだろう。

♣ また、慢性経過の 「心不全・呼吸不全・脳卒中」 の三つ(= 寝たきり)は、その死因を無理やり「心・肺・脳」疾患に求められて来たが、疫学的な区別の意味は乏しく、これらは「老衰」または「天寿」として纏めても良いだろう。実際、オランダでは死因の筆頭を「認知症」(= 天寿)としており、既に「癌」の頻度を抜いている。「老衰・天寿・認知症」の中身はほぼ同一であり、「天寿」という名称がが時代に即しているのか?

♣ 平和と知恵のお蔭で、ヒトの将来の死因は 1 位が「天寿」 (他人への依存期間は必然的に長期) ; 2 位 以下に 「事故・自殺・その他 」 (依存期間はほぼゼロ) などが続くようになるのではないか?1820 字  

要約:  戦前の三大死因は「肺炎・胃腸炎・結核」の “若年病” であり、戦後はすっかり変わって若者は死なず、三大死因は “老人病” =「癌・心疾患・肺炎」に入れ替わった。 近年の死亡統計で増加中の「老衰・認知症・心肺停止」などは “寿命の満期終了現象” と捉えることができる。 将来の死因は、ほとんどの人 が 長生きの天寿で 「ジワコロ4 ) ... 2 位 以下は 少なくて事故・自殺などの 「ピンコロ」 に集約される社会になると予想される。 

参考: 1 ) 新谷:「屈折年齢」; 福祉における安全管理 # 579, 2016. 2 ) 新谷:「百歳の壁」; ibidem # 619, 2017. 3 ) 新谷:「命の設計図」; ibid # 633, 2017. 4 ) 新谷:「福祉はジワコロを優先するのか?」; ibid # 507, 2015.
  
職員の声

声 1: 癌は、人生 50 歳 の頃 患者数が少なく、人生が癌年齢の 75 歳 に近づくにつれ 著しく増えた … 私は癌死のピークが 75 歳 という事に気付かなかった(答: 多くの老年癌は典型的な “長生きの自己責任病” なのである)。

声2: ある 99 歳 の女性、“まさか自分がこの齢まで 幸せに生きるとは予想しなかった” とおっしゃる … 美しい最期なら長患いの “ジワコロ” も良いものだと思う(答: 一昔前なら有り得なかった微笑ましい現代風の会話だ)。

声3: 死亡時診断名は高齢時代と共に当然変わってくる(答: 若者が死なないのだから、年寄りが死ぬ他はない … その診断には病名など必要なく、「110年間 生存」 などで十分 診断目的を達する。

声4: 若死にはとぅの昔に卒業、癌も近々卒業、そうすれば 「超長寿」 時代が来る … 他人様のお世話をたっぷり受けて 遠慮なく ジワリジワリ と逝くことができる(答: 介護保険の無かった時代なら初老期の悔しい ピンコロ しかなかった … 今は介護保険のお蔭で幸せな ジワコロ を百歳超えまで楽しめる … 何と有難い制度になったのだろう ! )。

(635) ヒ ト は ナ ゼ こ け る の ?

(635) ヒ ト は ナ ゼ こ け る の?
.
今から 320 万年 前、アフリカのエチオピアで人類 “初めて” の女の子が生まれた。名前は “ルーシー” (図 1)

♣ ナゼ “初めて” と判ったのか? それは彼女が二足歩行専用の骨盤を持っていたからである。サルは移動時には 四足歩行 で、それに適して下肢は骨盤から直角に曲がっている。ところが、ヒトであれば、背骨・骨盤・下肢 が一直線の配列であって、この所見からルーシーが二足歩行に適していた「人類の先祖」と判ったのである。

♣ 二足歩行の発達によって、ヒトの 「手」 は歩行の役目から離れ、物を運ぶ器用さを獲得、大脳も発達、人類の文明・文化に繋がったと言われる(図 1 )。なるほど、「手」の役目が人の運命を新しく開拓したのはよく分かるが、手が失った役目もある … まず、木の枝から落ちるようになったこと、続いて転倒 した時 手を前について顔の怪我を防がなければならなくなったことである。

ヒトはナゼこけるの?

♣ え? ルーシーは平地を歩くとき転倒したの? … したとも ! その面影が現代高齢女性の転倒に名残りとなっているのだ。そう、二足歩行の最大の欠点は 「転倒の発生」 だったのだ。日本では「転倒予防学会」という特殊な学会があって、高齢者に「安全で効果的な」転倒予防の内容と方法の 確立と普及・啓発に努めている ―― それによって日本社会は天国になった。そこでまず 「日本天国論」 を考えよう。

♣ 天国になった理由は:――  一般人は体重を減らすことにお金を掛けられ幸せ; 文明生活の基本=「衣食住・電水熱1 ) が世界一発達し、盛夏や厳冬で多数 間引かれていた老人の死亡が極めて少ない; その結果、老人寿命が世界一長く、介護保険も世界無比で充実している。

♣ 天国に地獄は付き物だ … そこで 「日本地獄論」 を述べると:―― 老人の割合は増え続け(4 % → 40 % )、子供の割合は減り続ける(36 % → 10 % ); 昔の親は還暦の 60 歳、今の親は米寿の 88 歳 … 同じように 「親」 とは言うけれど、親は 30 年 以上長生きになり、介護が大変; さらに、転倒・骨折は増え続け、誤嚥性肺炎・胃瘻などの問題が山積みである …. . . アー ! 天国 イクオール 地獄 なんだ !!

♣ では、ナゼ 転倒は起こるのか?人は誰しもミスをしようとしてミスをするのではない。いくら気をつけていても、人と動作の接点があれば、ある確率でミスは発生する 2, 3) 。お皿を洗えば いつかは割れる; 車は衝突する; 飛行機は落ちる; これらと同じように、お年寄りを預かれば、転倒事故が無いはずがない; これはシステムの持つ確率 (二足歩行) に依存することである。

♣ 転倒は「骨折」、なかんずく 「大腿骨頸部骨折」 を誘発する。ある報告によると 5) 、全国調査での推計値であるが、一年間に 70 歳代 の女性の 0.41 % 、80 歳代 で 1.48 % 、90 歳代 で 2.81 % が「頸部骨折」を起こす。つまり高齢の女性を預かれば、「お覚悟を ! 」と申し上げるほかはない。ところが 特養・パールでお預かりする方の約半数は この 90 歳代 の女性なのだ。

ヒトはナゼこけるのか?

♣ そこで、私は 「六つのべからず」 という警鐘を鳴らした ので6 ) 、ここで、おさらい したいと思う: 急がすべからず(急がせたら 転倒・骨折)、 後ろから声を掛けるべからず(お年寄りは、振り向きざまに転倒・骨折)、 まさか ! と思うべからず(待っててね、と念を押したのに (図 2) 、戻ってみると転倒・骨折 ! )、 (ほか)で他者に呼ばれても、持ち場を離れるべからず(気を利かせて呼ばれた方に行き 助け、持ち場に帰ってみると 転倒・骨折 ! )、 押し問答すべからず(トイレ内で こうしましょうと、分かってもらえたのに、転倒・骨折)、 日頃は「杖歩行」であっても、気を許すべからず(安心して見ていると 杖に足をからませて転倒・骨折)。

♣ アフリカの女の子 ルーシー は 20 歳代 だったから、転倒しても 「絶対に」 骨折には至らなかった。だから、問題は転倒だけでなく、高齢の骨粗鬆症にあるのだった !!  

要約:  二足歩行は転倒する運命、 80歳を越えた女性の骨は「お皿のようなもの」、こけたら 割れる ! もし割れたら 誠意をもって対処すること !  あなたの人格が見えてくる !!  1717字 

参考:
1) 新谷:「遺伝子の新しい指令」; 福祉の安全管理 # 600, 2016. 2) 新谷:「過失と責任、とくに骨折」; ibido # 62, 2010. 3) 新谷:「ミスの秘密」;ibido # 84, 2010. 4) 新谷:「想定内と想定外」;ibido # 155, 2011. 5) 原田敦(国立療養所 中部病院):高齢者の転倒障害、(ネット)。 6) 新谷:「六つの“べからず”」、ibido # 50, 2010. 

職員の声

声1: 「六つの “べからず” 」のおさらいが出来て良かった(答: まったく同感 … 特に “ちょっと待っててね” で案外に転倒事故が多いのに驚く)。

声2: 転倒するから骨折する、と言うよりも、高齢かつ骨粗鬆症があるから 「コワレル」 のだろう(答: そのもの、ドンズバリだ ! たとえば駝鳥 (だちょう) は二足歩行だが転ぶことばない、しかし人に追われるとコケることもある … ただし野生の駝鳥は若いから骨折はしない―― 問題は やはり “年齢” なのだ)。

声3: 骨折しても病院に行かず、自分で治す身内がいる(答: 昔はほとんど手当て方法がなく、骨折は 「変形治癒」 をしていた … 死には至らないが、身体障害が残り、不自由な余生となる)。

声4: 昔の親は還暦(60 歳)、今の親は米寿(88 歳)… 親が長生きなら子の苦労も多いが、親には長生きして欲しい ―― ジレンマだと分かってはいるけれど(答: パールでお預かりしているお年寄りは半数が 90 歳代、そのうち 2/3 の方は大腿骨骨頭骨折。お世話は大変、しかしコケても折れてもそれが現実の人生の内だよね)。

(624) 昔と今のお年寄り

(621) 今の老人は昔より30歳年長 ! 

  お年寄りとは、何歳から?

♣ 誰も正解を持っていないけれど、2,000 年 まえのローマでは 40 歳 (元老院 = 国会の資格)、織田信長は 49歳 (有名な本能寺の事件)、干支(えと)では 60 歳(還暦)、介護保険では 65 歳 (一号保険者の資格). . . 。どの年齢も人為的に 区切り良く決められている。

♣ 昔の日本には「家督」 (かとく)というのがあって、その家のお父さんが一家の総代表を勤め、近所付き合いから税金まで、すべてを取り仕切っていた。そのお父さんも還暦になると「隠居する旨」を役所に届け出ると、家督はふつう長男に移った。

昔と今のお年寄り

♣ 税金などの義務から解放されるので、還暦のお父さんは「横町のご隠居さん」となり、「物識り爺さん」として町内の人気者の代表格となった。女性も同じくで、「お婆さんの知恵袋」をお嫁さんや近所の若い娘たちに分け与えて尊敬されたものだ。

♣ この良き懐かしき隠居や家督は 71 年前の終戦とともに姿を隠 した。それが本格的に消え去ったのは 53 年前の 「東京オリンピック」 開催の頃である(1964 年)。その頃、テレビ放送は白黒からカラー受像に変わって全国に普及し、「ご隠居の仕事」も「お婆さんの智恵袋」も、テレビ番組が全部 変えてしまった。

♣ 若者たちはテレビさえあれば、ほとんど日常生活で困ることはなくなった。さらに 2000 年 の介護保険のスタート 頃からインターネット、続いてスマホの普及: 目まぐるしい世相の変化に、若者でさえ追随に息が切れた。

♣ そんな時代でも、親は大事だ。昔の親は 55 歳で定年、恩給をもらってのんびり過ごし、60 歳になると「還暦」と称して 赤いチャンチャンコをもらい、一族のお祝いを受けたものである。だって、その頃の平均年齢は 50 歳に満たなかったから、60 歳 の還暦はとても貴重だったのだ。一族の中でも数少ない還暦のお年寄りは「風呂も温泉も」大好き、「畳の生活」も大好きだった。 ♪♫♬ おーはら庄助さん、何で身上 (しんしょう)つーぶした? ♫♪ 朝寝・朝酒・朝湯が大好きで ♪♬ そーれで身上 つーぶした、あどっこいしょ、どっこいしょ ♫♬ 。

♣ ところで今、お年寄りは 「朝寝・朝酒」なんてとんでもない、お風呂は面倒で疲れる、温泉は足元が滑るので危ない、畳はいったん座ると一人で起き上がれないから敬遠する 。パールの 19 年前の新築時には、畳部屋を数か所こしらえたけれど、その後まったく利用される気配はない。いったい、お年寄りのイメージは いつから、こんなに変わってしまったのだろうか?

♣ 考えてみると. . .昔のお年寄は 「還暦」 で代表、今のお年寄りは 「米寿」 で代表。お年寄りという「同 じ言葉」を使っているけれど、「中味は親子ほどの違い」 がある。つまり、昔のお年寄りは 60 歳(認知症なし)--今のお年寄りは 88 歳(半数は認知症)、この違いが 「今時の親は手が掛かる」 という嘆きに繋がるのではないか。

♣ でも、お年寄りにも「人間の尊厳」がある。単に若者たちに支えられるのでは、心地よくない。私たちだって、やがて年寄りになるではないか ! そこで、私たち自分自身も将来への教訓を読み取ることにしたい。

♣ つまり若者と言えども、社会の変化に適応する努力を続けて、将来 恰好良いお年寄り になることを目指さねばなるまい。片意地になってパソコン・アレルギーを押し通そうとせず、また流行に甘えた体力の無駄遣いもせず、時代にしっかり適応したスマートな老人になれるように心掛けたい。

要旨:  お年寄りの年齢区切りは時代によって様々であり、必ずしも 還暦~米寿 とは言えない。 爺様・婆様 の社交的な役割が変わったのは、東京オリンピックの年(1964 年であり、カラー・テレビ が普及した時に遡る。 感覚的な年齢で代表すれば、今の親は昔よりも 30 歳程 年長であり、同 じ「親」という言葉を用いるけれど、実際は 「祖父母ほどの年齢差」 がある。この差をよく理解して親子のイメージの混乱を避けようではないか。

参考:  新谷:「長命を四つの道で支える」; 福祉における安全管理 # 614、2017.

職員の声

声1: 近年の老人はナゼ自立心が希薄なのか?(答: それは我々が敬老精神に富み、「負んぶに抱っこ・ 乳母車」 をちっとも嫌がらないからだろう。

声2: 「老人」 という言葉は失礼だ …せめて 「高齢者」 と言い換えたい (答: 小泉・元総理 は 75 歳を 「後期高齢者」 と呼んだ … 85 歳なら 「末期高齢者」 となる。しかし「老人施設・老人病院」などを ”高齢者” で言い換えるのは不自然だし、反対語を「低齢者」とも言いにくい。

声3: 今は小学生が老人にスマホで物事を伝える時代だ ... つまり老人は「食っちゃ寝」だけの静かな存在ではない(答: 「お年寄り」と「認知症」をごちゃまぜにしてはいけない ... 普通のお年寄りなら負けちゃいないよ、スマホを駆使している ! でも認知症のお年寄りも案外に多いし よく観察すること。

声4: 小泉・元総理の言葉: 「老いに学べば 死しても朽ちず」 と若者を励ました … 若者は老人から学ぶことが沢山あるハズ ! (答: もちろんの事だ … しかし、人間 85 歳レベルなら その半数近くが認知症である現実を認識するべきだ ... 格言に出てくる老人なら 65 歳近辺であり、頭はまだ狂っていない)。
 


プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR