(92) ヘイフリックの回数券

 (92) ヘイフリックの回数券  

  徳富蘆花(とくとみ・ろか)の不如帰(ほととぎす)の中で、彼は「浪子」に こう言わせます:“あ あ あ、人間はなぜ死ぬのでしょう ! 生きたいわ ! 千年も万年も生きたいわ ! ”1) 。私は以前の「安全管理」で“金寿のひみつ”2) 、“千歳時代の安全管理”3) について述べ、浪子の この願いは着々と実現への道を歩んでいる、と報告しました。今日のお話は「揺れ戻し」のように聞こえますが、ヘイフリックの回数券についてです。

レオナルド・ヘイフリックは 1961年に「ヒトの細胞分裂回数は無限ではなく、ヒトの胎児で検討したところ、各種臓器の細胞分裂回数は およそ50回である」という成績を発表し、これは現在でも引用されている知見です4) 。私は 分かりやすいイメージのために、50回の限度を50枚の「回数券」になぞらえてみました。最近では、山中教授の言われる “ iPS ” 細胞は「幹細胞」ですよね。この「幹」が次々に分裂して新しい細胞を産みだしますが、iPS と言えども、有限の50回を限度としているようです(もし無限であれば、それは癌細胞になります)。

♣ その意味について例を挙げ 説明しましょう。お風呂に入って肌をこすれば アカが出ます。それは古くなった皮膚細胞です。それがアカとして流れ出て行ったあとには、新しい皮膚細胞が下から補充されます。綺麗好きな人は 肌を強くこすってアカを沢山出します。でも皮膚細胞の補充回数券は誰でも50枚ですよ、そんなに強くこすると、50枚の回数券を早くに使いきってしまいます。あと何枚も残っていなくなれば、肌はテラテラに光って、もうアカは出ません。それって、高齢者の肌ですよね。人が100年生きるとすれば、新しい皮膚細胞一個一個を2年間 大事に使わなければ 辻褄が合いませんね。

♣ ヘイフリックの回数券は「肌」だけに限りません。今度は目に見えない骨髄の話をしましょう。骨の芯には骨髄という組織があり、そこで血液がこしらえられます。骨髄の幹細胞から赤血球が産まれ、その赤血球は約4ヵ月の寿命で 酸素を運ぶ役目を終え、壊された赤血球は黄色い色素(ビリルビン)となって肝臓から十二指腸へ排泄され、ウンチの色に変わります。ここにも ヘイフリックの回数券が見えます;つまり、私たちの赤血球は歳とともに減るのです(→貧血)。赤血球の正常値(25歳男子)は 1ミリ立方あたり500万個、90歳なら300万個くらいに減ってしまいます(世界中共通)。

♣ ヘイフリックの回数券は「癌細胞」では50枚ではなく、無限にあります;つまり癌細胞は増え続け、その結果、よくないことが起こります。では、脳や心臓・筋肉ではどうか? あらら、これらの臓器では、そもそもヘイフリックの切符は存在しません !! 細胞数は 歳や怪我とともに減るいっぽうなのです。だから 脳卒中の後には 新しい脳細胞はできず、リハビリの道が困難なのです。アルツハイマーの場合は、大脳細胞そのものが アミロイド蛋白という有害物質で壊され消失して行くために、認知機能が消えて行きます。

♣ おさらい しましょう。私たちの体の組織は ヘイフリックの回数券によって、三つに分類されます:① 回数券を無限に持っているもの = 癌細胞;② 回数券を50枚程度 持っているもの = 一般臓器、③ 回数券を一枚も持っていない臓器 = 脳と筋肉。ここで、全く別の見地から推論すると、ルー (Roux) の法則 5) の二番(= 何事も ちょうど良い 落とし所をみつける)は ヘイフリックの回数券を参考にすると、とても良く理解できますね。

  参考 1) パールの安全管理 #83: 不如帰(ほととぎす)。 2) #53:千歳時代の安全管理。  3) #22:金寿のひみつ。 4) Why can’t we live forever? Thomas Kirkwood in Scientific American 9:42~49, 2010. 5) #45: ルー(Roux)と智恵。

職員の声

声1: 私たちの大事な細胞の再生回数券は たったの50枚しかないのですか?少な過ぎる ! (係り:50枚あれば 健康に100~120歳まで生きられます。ガン細胞なら無限に回数券をもっていますが、それは有難くないでしょう?)。

声2: ガン細胞は回数券が多くて憎ったらしいです;自分の臓器は大切に使いたいと思います。

声3: 回数券が50枚なんて初めて聞きました;僕は温泉が好きで、行くとアカスリをしていましたが、無駄に皮膚細胞を削っていただけ なんだな、と愕然としています;お金も出しているのに 悲しくなりました(係り:アカスリは残存細胞を消耗させます;老後の皮膚は薄く弱くなり、お年寄りの皮膚を入浴でアカスリすると、皮膚は切れてしまいます — 化学洗剤を使わず、優しく流すだけにしましょう)。

声4: 大切なヘイフリック回数券、皮膚も体も大事に使って行きたいと思います;要は「ほどほどに」なのですね(係り:ほどほどにすれば、最高齢まで元気に生きられます——ルー(Roux)の法則)に一致しますしね)5)

声5: ヘイフリックの回数券を無限に持っている組織はガン、50枚ほどもっているのが普通の組織、一枚も持っていない組織が「脳と筋肉」だと理解しました;介護の対応も変わります。

声6: 自分に残された回数券の枚数を意識すれば、より前向きに生きられそうです。

声7: 1000歳まで生きるためには 2) 、やはりヘイフリックの回数券50枚では不足です(係り:いずれ 遺伝子改良人間ができるまで、待つ必要がありそうです;旧約聖書に出ている900歳人間たちは、やはり虚構だったのでしょう)。
 
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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