(268) 二つの 失語症

 (268) 二つの 失語症   

 世界保健機構(W.H.O.)は 1950年代に 統計上「65歳以上」を高齢者と区分しました。それ以後、世界的に65歳以上を「高齢者」として扱うことが定着しています。あれから半世紀が経過し、65歳以上の人でも「自分は健康だ」と思って 活動的な人が うんと増えました。でも同時に 老人の総数も増え、お年寄りとの日常的な会話で、従来知られることの少なかった異変に出会うことも増え 私たちを戸惑わせます。今日の話題の「失語症」も その一つです。

♣ 日帰りのデイ・サービスのO.M.様(81F 要介護3)は脳卒中後、失語症と言われています。私の新聞知識ですが、「失語症の方は、平仮名は苦手で 五十音は混乱する」と記載されていました。ナゼこのようなことが起こるのでしょうか?精神科医のO先生にお尋ねしました:- 

O 先生> この新聞記事は正しくない。失語症には2種類がある。

① 運動性失語ブローカ失語、ブローカとは医師の名前):「運動性」とは、言語発声に関する 顔や喉の筋肉運動のことであり、そこが故障すると 言葉が発せられなくなる。故障の起こった脳の場所は「前・側頭葉」にあり、言葉の命令が出なくなる;特に「最初の言葉」が出ない形容詞が無くなる 例:チチ…カネ…ナイ 、など)。まるで 電報の文章のようだから「電文様」と表現する。また、とつとつとしているから「非流暢性」とも言う。読む漢字は苦手、仮名はもっと苦手である。ちなみに、左側の脳梗塞後には、ブローカ失語が伴いやすく、体の麻痺は「右側」である。

② 感覚性失語ウェルニッケ失語、ウエルニッケも医師の名前):「感覚性」とは、言語を理解する脳機能が故障することであり、その故障場所は「側頭葉」にある。他人の言葉を聞いても理解できない。自分の言葉は出るけれど、文法はグチャグチャである(例: 私お芋青い渋谷暑い 、など)。言葉は するする出るので「流暢性失語」という名前もある。もちろん、本人は自分の言ったことを覚えていない

♣ これら脳の障害の主な 原因 疾患は「腫瘍・外傷・脳梗塞・脳出血」であり、障害範囲は「限局性」である(病巣の大きさが“栗~卵”ていど)。多くの場合、失語 以外の症状は軽度であり、一見 正常な人である。

♣ これに対して認知症の言語障害の特徴は 「大声・多弁・常同じょうどう1) 寡黙かもく)」であり、その原因は 大脳の全範囲に及ぶ脳細胞の脱落に基づく。それ故、認知症の言語障害は 失語症 とは言わない。おおよそ 「時・所・人」 の判別不能が この順で起こり 認知症は進行して行く。「時」が分からないから、「死」の恐怖も消える。

♣ 「」の文字がついた認知症の症状例を挙げよう:「失読」(しつどく)= 字を見ても意味が分からない。「失書」(しっしょ)= 自発文字が書けない。「失行」(しっこう)= 意味ある一連の行動ができない(ライターを渡しても、なで回すだけで、火をつけられない—— ヒトとサルの違いがよく分かる)。「失認」(しつにん)= 見えたり、聞こえたりするが、その意味を理解しない。「失見当識」(しつけんとうしき2) = これは 一番大事な認知症の症状であり、時・所・人の理解を、この順番に失う

復習する: 二つの失語症とは、一見 正常に見える人で「しゃべれない = 運動性失語」、「しゃべっているのに意味の理解がない = 感覚性失語」。これに対して「認知症 = 失見当識を伴う言語障害」と覚えれば良い。お年寄りとの会話で一番多く見られるのは 最後のぶんであろう。

  参考: パールの安全管理  1) # 207 : 常同って多いね。  2) # 145 : 親切な蛙。

職員の声

声1: 素晴らしいお話を聞きました;パールの全体会議は、介護専門と一般教養と両方の意味で、とても有りがたいと思いました。

声2: 「しゃべれない」= 運動性失語、「意味を分かってもらえない」= 感覚性失語、初めて知りました係り:お年よりの「難聴」の場合は、耳元で 大声で話せば、通じますね、これは「耳の問題」であって、「感覚性失語 = 脳の問題」 ではありません)。

声3: 私は「運動性失語と感覚性失語」の両方が同時に起こっている症例を見ました(係り:それは「全失語」です;ふつう 統合失調症・認知症の末期にみられます)。

声4: 今日は二種類の失語症を理解しました:私はこの頃、最初の言葉が出にくくなったのですが、治す方法があれば、教えてください(係り:これは「良性健忘」と言われ、‘運動性失語症’とは異なります;「才気煥発」(さいきかんぱつ)という言葉がありますが、あなたはこれに見習って、普段から‘おしゃべり’をして下さい)。

声5: 老人福祉の分野では、多くのご利用者が「失見当識」です、つまり「時・所・人を失った認知症による失語症」です;このことを理解してケアに励みましょう。

声6: 失語症の治療・リハビリはあるのでしょうか?(係り:言語療法で対応しますが、一般の‘麻痺’のリハビリと同じように、その道はけわしく、忍耐を要します)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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