(333) 「手厚さ」 と 初期インテーク

 (333) 「手厚さ」 と 初期インテーク  

 ある大病院の事務長が 病棟のナース 十人ばかりを集めて訓辞していました:「今日 入院される方は 私の恩人であり 大事なお方だ;みんな 気をつけて 疎漏 (そろう) のないよう 手厚く 看護して欲しい . . . 」。群れの後ろのほうにいた若いナースたちがつぶやいていました:「疎漏って何かしら? 」、「手厚くって? まるで私たちが ふだんの看護で 手抜きをしているってことなのか?」。

♣ この事務長の訓示は よほどナースたちの心を傷つけた ようでした。言葉は 一つ一つを取り上げて 悪くなくても、話の流れの中で 使って良い言葉と そうでない言葉があると思います。「大事なお方」って、誰ですか? 事務長にとって「特に大事」なのであって、どの患者さんも ナースにとっては 「同じように大事」です。

♣ ここで「手厚い」の意味を考えます。辞書を見ると、= 「親切、丁寧、ねんごろ」と書いてあります。皆さんがたは この言葉の意味をどう受け止めますか? 問題は「手厚い」という言葉の魔力にあるような気がします。

♣ そこで、初めてご利用者に接する「初期面接インテークの場面」を想像しましょう。そこで あなたは お話を「手厚く」聞きますか? —— え? 手厚く聞くって? 違います、キチンと聞く、あるいは 訊く(尋問する)なら意味が通るけど . . . 私は むしろ あなたにもう一度 聞き直します —— 手厚く聞かないのですか?と。だって「親切に、丁寧に」は「手厚い」ハズでしょう?

♣ 問題は やはり「手厚いという言葉の魔力」にあるようですね。私が思うに、「からだ」には「心・身」があるように、モノゴトにも 「情と理」 がある ようです。その典型が「手厚い」という言葉に含まれており、これは「情」の言葉の前につく形容詞だと思います。だから「手厚い介護」は了解可能、「手厚い判断」は意味不明 となります。文頭に出てきたような、疎漏 (そろう) とか「手厚く」とか言うのは、事務長が看護婦さんたちの「情」にすがった気持ちなのかも知れません。でもね、情にたよる言葉は「上から目線で伝えるもの」ではありません。自分から へりくだって言う言葉だと思います。その点で、事務長は「不人気」で迎えられた訳です。

♣ そこで「初期面接インテーク」に戻ります。「初期インテーク」は理知的な仕事ですか?それとも情操的? 事務的な完璧を求めれば 理知的であり、反対に 悩みを聞くお坊さんの立場なら 情操的であるべきでしょう。前者なら「マルバツ式」の空欄埋めの仕事、後者なら「相手の目と様子を見て」問題の全体像を理解する仕事ですね。

♣ 「キチンと聞く」ために、私は「情」を優先したい と思います。だって、困ったお年寄りが「理」に沿ってお話ができるわけはありません。でも、窓口の対応を見ていると、いまだに「マルバツ式」ですませる人も少なくありません

♣ 初期インテークの時には 時間の制約もあるし「森を見て 樹も見て ! 」という完璧は困難でしょう。だとすれば、「何が最大の問題か? 」を 賢く読み取る工夫をしましょう。

♣ 「手厚い」という言葉で、人間関係の微妙さを考えてみました。これは私にとっても難しい「技」です。皆さんも その気持ちで 言葉の翳(かげ)を学んで下さい。

職員の声

声1: 事務的に 「疎漏なきように . . 手厚く . . 」 なんて 訓示されると、余計にやる気を失くしちゃうよ

声2: 「疎漏」 (そろう) を初めて聞きました;相手の気持ちを逆撫で するような 無神経な言葉に注意します(係り:夏目漱石は「草枕」の冒頭で述べています:知に働けば角が立つ;情に棹 (さお) させば流される;意地を通せば窮屈だ;とかく人の世は住みにくい、と)。

声3: 私は「 疎漏、手厚さとは何か 」を考えました;私は「情」に流されやすいので、「理」に気持ちを集中し、「樹」を見るときには「森」も見逃さないように修練したいです(係り: 「そろう」とは、文字通り「 モノが指の間から抜け落ちる 」 「モノを見過ごす」という意味です;ケアでも 腕前不足は勉強で補えますが、抜け落ちを見過ごすと 進歩がなくなります)。

声4: 部下に注意の言葉を与えるときには、部下の自尊心を傷つけないような配慮が必要です。

声5: 「手厚い」とは「特別に」という意味でしょうか?(係り: 単に「普通より1~2級上のサービス」ではなく、子を育てる 際限のない母親の愛 を思わせます)。

声5: 私の理解は「心を尽くして~心を込めて . . . さらに相手の気持ちを汲み取り、次のステップへ繋げて行く姿勢」ではないかと思います(係り:英語で言えば「温かく」(warmly) が適切な対応語でした:つまり あるケア作業を余分に加えるかどうかではなく、笑顔と心の問題なのですね)。

声6: 的確な判断で、相手との信頼(ラポール)を築くことが肝要でしょう(係り:同感です; 「手厚さ」は「過剰サービス」することとは意味が違います ね)。

声7: ポイントを掴んだ「手厚さ」が求められます; 総花的な粘りつき では 相互に疲れてしまう よ。

声8: 私は この春就職;高校時代の会話しか知らなかった ので、言葉一つで こんなにも人の心が変わることを しっかり学びました。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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