(347) 畳生活は 骨折を 救うか?

 (347) 畳生活は 骨折を 救うか?  

 また月日は巡って10月10日が近づきました:10・10は「テントウ」と読み、2004年に制定された「転倒 予防の日」です1)

♣ 今日のお話の「転倒」は、広い意味で捉え、転倒・転落・ずり落ち・膝抜け などを含みます。パールでは「ヒヤリハット報告」をしっかり進めており、昨年度は546件の報告がありました。その内訳のトップが特養とデイサービスの「転倒」であり、およそ その1/5を占めます。

♣ 今月は最悪事態を迎えました。I.M.様(92F 右半身不全麻痺 要介護3)はトイレの中でよろけ、腰痛が発生;右骨頭骨折でした。その1週後、I.K.様(92F 脳梗塞 4点杖 要介護3)は 夜 徒歩でベットに移ろうとして失敗、床に転落;翌日の朝になって右腰痛、やはり右骨頭骨折でした。お二人に共通なこと は;-① 高齢(92歳)であったこと、② 要介護3 で、かなり行動の自由性が保持されていたことです。いずれの方も、直ちに入院・手術の運びとなりました。骨頭骨折の場合のリハビリは 普通12週かかるので、なかなかの打撃です2) 。そこで“骨折のおさらい”をします。

♣ ① 人は、特に高齢女性は 必ず 骨粗鬆症に罹ります。私は元気だよ、とおっしゃっても、調べれば どこかに 必ず微細骨折」が発見されます3) これは誰しも防げず、わずかなストレスで骨折 を呼びます。

♣ ② そもそも転倒を防げば 問題はほぼ解決しますが、二足歩行の人間は 必ず転倒・骨折の運命 です。その頻度の実例は 1) : 一年間に骨折する頻度は 70歳代(0.5%)、80歳代(1.5%)、90歳代(2.8%). . . つまり、歳とともに骨折は増えます。これは ちょうど 皿を洗えば いつかは割れる・車もいつかは衝突・飛行機は落ちる . . . のようなものす。高齢女性での教訓 = 二足歩行は必ず転倒し、転倒したら骨は皿のように割れます

♣ ③ それはナゼですか?「固きこと 骨の如し4) というではありませんか? その理由:骨は生体内で絶えず「壊され 造られ」の「破骨・造骨サイクル」を受け、およそ10年で「新品」に入れ替わります 7) 。加齢とともに、この新品骨はカルシウムの強度不足に陥り、その結果、骨は外形を保っているものの、中味はスカスカの状態になり、この状態は「骨粗鬆症」と呼ばれます。つまり「折れやすきこと 骨の如し 」になってしまいます。

♣ ④ それが分かっているのに、転倒・骨折は予防できないのですか 5) 理由:あなたが コワレモノ を預かれば、危険を覚悟せねばなりませんね——人を金庫の中に大事にしまっておけません。行動の自由と転倒の危険をベスト・マッチすることは至難の業です(やんごとなき方なら、24時間 365日 付き添いを付けられますが、たぶん月 100万円以上かかるかも)。

♣ ⑤ 私たちの いろいろ 工夫を凝らした例を挙げます 6) 。その他、体重を正常値にする;正しい運動訓練をする;薬の指導を受けるなどありますが、目標期間は70歳から110歳までの40年間 . . . 息が切れます。最近2年、「注射で骨粗鬆症」を予防する方法が実用化されました:毎日 注射薬を自己注射 します——薬価は 月約5万円。骨は1割程度 増強されると言いますが、果たして 骨折が防げるか? 期待して今後を待ちましょう。

♣ お部屋を訪れてみると分かりますが、洋式のベット生活なら、床との段差は50~60cmあって 転落の危険は大です。椅子やソーファの生活なら 居眠りで「滑落」もあるでしょう。高齢者の特徴として「不意に立ち上がり、そのまま転倒する」性質をも踏まえます。これらの危険要素は「和式の畳生活」なら 緩和されるのではないかな?とも感じます。でも、看護者・介護者は それなりの理由があって、「床ベット」に転換することに 必ずしも賛同しません。

結論二足歩行は必ず転倒を誘発し、転倒したら 骨は皿のように割れる”;それを承知で 超高齢者の“行動の自由”を優先する !! 私たちはやっと ありふれた人間的な 暖かい結論 にたどり着きました。それは 残念ながら「和式畳生活」ではありませんでした。

参考:パールの安全管理 1) # 209 : 転倒に備えて。2) # 255 : 骨折が治る期間。3) # 235 : 微細骨折。 4) # 121 : 固きこと 骨の如し。5) # 62 : 過失責任、とくに骨折。 6) # 50 : 六つのべからず。 7) Deborah Franklin : Cracks in the Bone Test. Scientific American 8:19~20, 2012.

職員の声

声1: 二足歩行は こんなにも転倒するものでしたか?(係り:三足以上なら 転倒しにくい;だから「杖」を使います)。

声2: カルシウム摂取 を勧められても 従来は無効、どんなに考えても 折れる骨は折れる;いっそのこと 女性全員に新治療の注射を始めたら どうでしょうか?(係り:たとえば、インスリン注射をしても糖尿病は一生治らない;人は 注射によって 何か見果てぬ夢を夢見ている かに見えます)。

声3: 若い頃から 運動に努め 「骨密度の貯金」をしておくことが重要だと聞きました(係り:パールのデイ・サービスの高齢女性たちの合言葉: 骨折したら、もう人生は楽しめないわよね)。

声4: 歳をとるということはハガユイな ! 生きて行かねばならぬし、ガン・心臓病をうまく乗り越えたら 今度は骨折の災難ですか?(係り:たかが 百歳の手前でこのありさま ! このあと、誤嚥性肺炎が待ち控えている;まるで“障害物競争”を走っている人生だ ! )。

声5: 私の畳生活のイメージ は:——青い畳の部屋があり、傍にゆったりと廊下があって、その先に お庭の広がりがある——でも 現実の施設を見ればベットをはずして マットレスを置くだけ で、傍は白い壁で 狭く囲まれている —— 「ゆったりした畳の部屋」という 私のイメージとは まるで違う;そんな狭い畳生活が骨折を救うとは とても思えません

声6: 私の祖母は畳の部屋で骨折しました;集団生活での畳部屋は さらにリスクが大きいです。

声7: 畳生活なら、転落時の落差が大きいし、尻餅はつくし、手を突いて前腕骨折もする;大変さは どっちもどっち !(係り:問題は、環境ではなく 本人か ! )。

声8: 私の実家には畳部屋があり、そよ風のなかで昼寝をした生活が恋しいです;でも年寄りが畳生活をすると「一人で立ち上がれず、大声で助けを求めて わめく」ので、手間が掛かります(係り:パールのデイ・サービスでは、休憩用に 広い畳部屋を用意しましたが、どのご利用者も 寄り付きません;結局”物置スペース”になってしまいました -- お年よりは 畳が大嫌いです ! )。

声9: 介護するも されるも 大変な時代になったのですね ——「畳の上で 静かに死ぬ」のが 日本人の実態ではなかったのか? と、つくづく不思議に思います。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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