(472) 死 因 二 題

  (472)   死 因 二 題  

  平均寿命が世界一の高さになって二十余年、日本人の死亡の現状は どうなっているのだろう?と世界中の関心が集まっている。そこで 問題を 2点 に絞って、最近の話題を提供しよう。

第1点: 死亡診断書の死: ―― 死亡診断書は全国一律の書式によって医師が発行するもので、我々の関心の中心は 「死亡原因を示す病名」 であろう。書かれた病名は (ア) “死の原因” でなければならないし、その病気の発病から死亡までの 罹病期間 を併記しなければならない。

♣ 例を挙げれば (ア) = 誤嚥性肺炎、罹病期間 = 1年2ヶ月、 など。 死亡原因の記載欄は 4段 ほどあり(ア)(イ)(ウ)(エ)。 (ア)は直接死因、(イ)は(ア)の原因、(ウ)は(イ)の原因、(エ)は(ウ)の原因を記載する欄であり、また 各々の発病から死亡までの罹病期間を付記する必要がある。

♣ 実務的には(イ)(ウ)(エ)の配列判断が難しい。上の例では、(ア) = 誤嚥性肺炎の原因は何か?それは (イ) = アルツハイマー病、罹病期間 = 10年6ヶ月 などとなるだろう ―― そんな古い病歴は大抵の場合 家族に聴き訊ねることとなり、情報の精度は落ちる。別の例で (ア) = ‘肺癌’ の場合、いつ発症したかは、本人も家族も不明のことが多い。

♣ (ア) = ‘老衰’ なら、「老衰とは何か?それは病気か?それは いつから始まったのか? 」 などのクレームが付く。 死亡診断書の病名は 「正しい病名」 を知ることによって 社会の治安・衛生状態を正すこと であるが、ここで 「正しい病名」 の歴史的変遷が問われてくる。 (厚労省) は診断書死因の年次経過を示す。 (i) 主に老人病である。昔は老人の人口が 今の 1/5 に過ぎず、現在では 老人の数が 5倍 に、癌の数も 5倍 に増えた

死亡二題

(ii) 心疾患 も第二位で多いが、平成 5年 でカクンと一時低下している。これは 病名に ‘心不全と書くべからず’ というお布令が出たためである。考えもなく 「心不全」 と書くドクターが後を絶たない のだ。日本で真の心臓死は こんなに多くはない !

iii) 脳血管病は第三位だが、「心不全」 の病名が減った平成 5年 で脳血管病が増えている ―― つまり診断にも ‘流行’ があることを示す。

♣ たとえば、佐藤栄作・元総理 は 1975年、新橋の料亭で脳出血に見舞われ、2週後 に亡くなられた。病名も経過も白日の下に明瞭であった。

♣ ところが 田中角榮・元総理 は脳卒中に倒れたものの、発作後の経過が長かったため、死亡の第一原因は ‘肺炎’ となった。

♣ 先月(14.9.20)、元社会党党首 であった 土井たか子氏 が長い闘病生活の後 85歳 ‘肺炎’ で亡くなったが、年齢と経過からみて それは ‘誤嚥性肺炎’ 、つまり英国の サッチャー元首相 と同じ アルツハイマー病 とみてよかろう。こうして見ると、病名と実態とが よく一致するのは 「急性病」 のみ で、慢性病の場合は 「原疾患と死亡病名」 の関係がぼやけてくる。このように、 「老衰」 の場合、死因をとやかく言っても 結局 「老衰」 に落ち着く のだ。

♣ 介護保険の新時代、長生きした人の ‘真の病名’ は 「天寿に達して死にました」 だけで十分なのではないかと思う ―― だって病気に打ち負かされて死んだのではなく、天寿を全うして逝った だけなのだから。上の図の病名は ‘ガン以外のものは それゆえ 書き換えられるべき’ であろう。そもそも、従来の 「死亡病名」 は 治安・衛生が悪く 感染症の多かった時代の遺物であり、現在の社会では通用しなくなった過去の風習なのである。

第2点: 高齢者の 死亡のパターン:  ―― このパターンを >三つ に分けてみよう: ① PPK ピンピンコロリ)、 ② NNK ネンネンコロリ)、 ③ SSK (操作コロリ)。 一番の人気は PPKであるが、これは他人迷惑おびただしく 1) 、 願って なれるものではないから、忘れよう。ネンネンコロリ ② 逝きそうで逝かず、 本人も周りもくたびれ果てる医療・介護への依存死であり、今時 大部分の老人死はこれによる。一番 困るパターンであるが、政府も社会も‘介護保険の利用’ によって ‘死亡時期の 可能な限りの延長を推奨’ している ―― この延命推奨を、矛盾と言えば大変な矛盾であるが、仏様もお許し下さっている のであろう。

一番問題なのが SSK、つまり ‘操作コロリ’ である。死の操作を出発点から終点まで 時間の短い順に並べると、(a) = 自殺、(b) =安楽死、(c) = 尊厳死、(d) = 尊厳延死’、(e) = 平穏死となるであろう。自殺は問題外; 安楽死は ‘犯罪’ ( = 薬殺)であって日本では存在しない。尊厳死とは議論の多いところだが、延命処置をしない事だ (点滴や胃瘻・透析をしない など)。

尊厳延死とは、点滴・輸血・酸素に胃瘻など何でもアリで、本人の苦しみ期間を長引かせる効果がある ―― 可哀そうなことだが、多くの家族は 浅薄なことにも これを望む ! 最後が 平穏死、つまり “逝く人の心身を邪魔だてしないで看取る方法” で、これは 医療の  ‘手抜き’ とは異なり 高齢者の ‘ 天寿死’ とも呼ばれる。つまり、 “天寿死” とは “病気によって 無理やり 「生命」 をもぎ取られる死” ではなく、その人が “自分の所有する命のエネルギーを全部使い果たしました” という 死の報告に過ぎない; 病名などは 単なる 礼儀上の 「お飾り」 となるであろう。 あなたは 上記のうち どれを選ぶか?

結論: 将来、人が死ぬ病気の名 ‘ガン’ だけになり、大部分の人は 平均寿命 2) (± 数年?)の 天寿 で 納得するようになるだろう。② 今後の死亡統計の 第1位 は、医療操作も 病名もない 「高齢の天寿死」 とのみ記載され、ガンは 統計の 第2位、後は ‘事故 その他’ だけになるだろう。

参考:   厚労省 H23 人口動態統計  ;">1)   新谷冨士雄・弘子:PPKは望ましいか?、福祉における安全管理 # 72、2010. 2) 新谷:日本女性の平均年齢は86歳か?、ibido # 466, 2014.

職員の声

  声1: 秋の落ち葉が風に乗ってハラリと落ちていくように、人が年を取って天に帰るのは自然の摂理ではないか?(係り: そうはさせじ !  と歯向かうのが 人の ’賑やかな愚かさ’ なのだろう)。

声2: 人がなかなか死ななくなった近年、老衰という死亡診断書に書かれる新しい言葉が出てきたのか?(係り: 老人の死亡が全死亡の 85% を越える近年、沢山ある罹患病名の内、どれが死因としてふさわしいのか、その順番の選定が困難となったのだ)。

声3: 先日 私の訪問看護の例: ―― 90歳 の女性、いきなり発熱・痰がらみ、意識障害で救急搬送され 当日死亡病名は 「老衰」 と知らされた(係り: その場合、記載に求められる 「老衰」 の罹病期間は 急性の 「一日」 となる . . . 一日だけの老衰で人は死にますかな?)。

声4: 死因は 「心停止・脳停止」 ではいけないのか?(係り: 心停止・呼吸停止・瞳孔散大は “死の結果 であって、その原因ではない。

声5: 若い人や急性疾患の死亡なら その理由を詳しく調べる必要があるが、高齢で長期入院やターミナルの場合、ご家族も死因に興味を持たない ように思う ―― ‘長生きして死にました’ と記入する時代が来て欲しい。

声6 : 高齢の有名人の死因は 「肺炎」 が特に多い;きっと 老衰 ==> 食事介助 ==> 誤嚥性肺炎 であろうが、「天寿死」 という素敵な記載にするのがよいと思う。

声7: 誤嚥性肺炎が主力死因となる傾向は避けられないのか?(係り: 自分の手で食事ができないほど衰えた老人が死亡するのなら “自然死” と呼ぶことは納得できる ―― これを 日本では “餓死” と称して胃瘻などで治療に励む病院もある ―― スエーデンでは食事介助さえも ‘延命手段’ であるとして人間の尊厳を乱すものだと言う . . . こうなると 「枕元のスープとパンを自分で食べられなくなる時が “死の訪れ となる」 )。

声8: 延命処置をしない場合、死期を早めたのではないか?と思う罪悪感が気になる係り: お年寄りが飲んでいる薬を全部やめる or 延命処置をしない . . . この方が お年寄りは 人らしい長生きができる、という現場の意見も多数である)。

声9: 印象的だった二点 : 将来的に 人の命を奪う病( やまい )ガンだけ になり、大部分の人は天寿まで生きたあと 蝋燭が燃え尽きるように逝くことになるだろう ; したがって 今後の死亡統計の 第一位 は、医療操作も病名もない 「高齢の天寿死」 が 90% 第二位がガン 5% 、あとは「その他の事故 5% 」となるだろう(係り: この際の ‘天寿’ とは 女86歳 ・ 男80歳 の平均寿命 ± 数年だ;もちろん少数の例外はある)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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