(476) 医療 と 欲求不満

(476) 医療 と 欲求不満

人間、欲求不満に陥ると、やるせなく 暗い気分に陥る。しかし、考えようによっては、欲求不満があればこそ、その解決によって 新しい天地が開けてくる。

♣ 介護の業務に従事していると医療との連携が強調されてくる。力関係によるものか、介護側の意見が押し返されることもあるが、ブツブツ引きこもって欲求不満になるよりも、自分と相手方の立場を眺め直して 全体像の中から 新しい解決を見出してみよう。ここでは 欲求不満の状況サンプル 三つ を示し 考えてみたい。

① ある介護側の意見日本の医療は、生きるための医療ではなく、死なせないための医療だと思う。あとあと ‘助からなければ良かった’ と思わせる状態の高齢者がなんと多いことか !

➠ この意見は 救急の急場のあと、患者さんの状態が植物状態に近くなったのだろうか。では どうなれば良かったのだろうか? まさか救わないで 「死なせて欲しかった」 のではないだろう。「救命処置」 というものは 「人事を尽くして天命を待つ しかない ーー 重症の高齢者だから ’手は抜けない’ 。仏様は食中毒によって 80歳 で亡くなった が、仏様でさえ ご自分の先行きは分からなかったのだ。まして 「後出しジャンケン」 で、結末が分かった後 前のことを批判するのは身勝手ではないか? ① の意見の人は この際、高齢者の病気の特徴を理解し、医療仲間たちの戦意を削がないような工夫をして欲しい。

② 医療に対する幻想 = 私の祖母は 転倒・骨折して寝たきりになり、そのままベットで亡くなった ―― デンマークでは 最初のリハビリが上手で、全然 別な10年程の余生を満喫できると聞く。

➠ お婆様の年齢と病気の合併程度が不明だが、たぶん デンマークであっても そのまま亡くなっただろう ―― 日本でもリハビリはとても上手だし、今時 寝たきりなどにはしない。お婆様が亡くなったのは 「寿命」 だったのではないか?北欧の医療技術に幻想を持つのは自由だが、だからと言って 日本のことを貶めるのは知識不足だ。② の意見の人は この際、リハの批判をするだけではなく、 お婆様 の病状が 骨折以前に どの程度 病弱であったのか について、他者の意見を聞いて欲しい。お婆様が健康であったのならば 骨折ごときで亡くなるハズはない。

老人と医療 = 欧米で 老人の医療問題が少ないのは、医師に見せないからだけ、と言われる。 ーー “医者嫌い” という人は少なくないが、日本ほど 老人の医療受診率の高い国は他にない。受診したからと言って病気が治るわけではないが、とにかく欧米では 驚くほど老人を医者に見せない。イギリスの例を引くと、老人の白内障などは予約後 診察まで 3年 も待たされるという1) 。「 3年 も待たされたら白内障も悪くなって眼が見えなくなるでしょう」 と尋ねたら 責任者から 「どうせ老人ですから」 という答が返ってきて驚いた。保険による 「透析は 60歳で打ち止め 、「胃瘻延命」 はしない;それがヨーロッパの常識 だという。

➠  国民性の違いもあるが、日本は何と言っても国民皆保険制度が光る。あちらでは もろもろの手間と値段が高い ―― フランスは “無料” を誇るが、無料のサービスがどんなものか、人間の性( さが )を考えると想像できるだろう。つまり日本は世界で類を見ないほど老人医療が身近であり、それは外国を訪れる日本人が異口同音の感想を持つ。だから、③ の意見の人は物事がよく見えている方だ。

♣ さて ここで 医療に関する欲求不満の根本を検討してみる。私たちは 永く人生 50年 だったが、今や人生は 90年 . . . 戦後 40年間 も長生き できるようになった ! この現実に人々は果たして満足しているか? いや、していない; 当然のこととして 感謝もしていない。それどころか、もっと長生きできないから、と言って ‘不平・不満’ の声を よく聞くーー私らは 何と身勝手なのだろう !

♣ 不平は解消されるべきであるが、ここで “肉親の情を離れて” 、普通の「高齢者」 の “耳” に語りかけ、その “目” を見つめて欲しい ―― キチンと聞こえているか?見えているか? 彼らの 柔らかい “肌” に触ってみよ . . . 一世紀近く雨露をしのいできた その白く薄い肌を よく見つめてみよ ! 若者とは はっきり違う老人の姿を あなたは そこに 感じるであろう。もし その老人が あなたの親であれば、あなたは天を仰いで 親の老化を嘆き悲しむ のだろうが、もし良識ある市井人であれば、おのずと人の運命の帰趨( きすう )を感じる心を持つのではないか? 「人は生まれ、愛をはぐくみ、そして 人は死したり」 ーー と、19世紀のアナトール・フランスは書いている 2)

♣ ある推計によると、現在の日本政府債務は 1000兆円 であるが、このままであると 15年後 には 2000兆円 に膨れ上がる という。あなたは どう思うか? 私たちは何も無駄遣いや贅沢をしている気持ちはなく、ただ医療に関して正当な不満を解消してもらいたいだけ なのに、ナゼそんなに福祉経費が膨張 し、国家破綻に陥るのか、理解に苦しむ のだ。 

結論 : ① 医療に関する ‘まっとうな’ 欲求不満を 3例 ほど述べ、その解消法を考えた。② その結果、社会福祉経費は どんどん上昇し、国は止めようのない財政破綻に陥る。③ 先進国一般の最大の課題は、欲求不満の解消が財政困難に繋がらない方法を模索することなのであった。

  参考: 1) 水野肇:人工透析料と健康保険、(ブロッグ) こくほ随想 # 8, 2010. 2) 新谷冨士雄:ヒトはなぜ病気になるのか、P.H.P研究所 刊行、1992.

 職員の声

  声1: 日本の老人医療は 「生かさず 死なさず、の医療だ」 、に 私は同感する; 老人は 元気にしてあげなければダメだ(係り: 元気にした老人も いずれ最期の時がくる ―― 昔は佛さまに頼った人生 50年 だった。今は 90歳 まで生きた幸せを ”感謝もせずに 医療は怠慢だ” と 捨て台詞 (せりふ )ーー佛さまに戻る 良いチャンス !)。

声2: 死なせないための医療はいつ頃から始まったのか?(係り: もしパールの特養で 「食事介助」 がなかったら 利用者は半減するだろう ―― 食事介助ほど老人延命に寄与するものはない; 加えて 20年 ほど前から 酸素・点滴・胃瘻などが利用されるが、これらは ‘医療’ であって ’危険ドラッグ’ ではない; 老人延命に悪用するのは外道 ( げどう )である)。

声3: 問題は 今の医療・介護に 家族が満足していない ことだ(係り: 家族は 「不老不死」 以外は満足しないーー特にフリー・ランチ(タダ飯) の場合、感謝する心さえ失う)。

声4: 私は 日本の老人医療は とても手厚い と思う(係り: 猫に小判を与えることを ‘手厚い’ と呼ぶのかな?このことは外国事情と比較すれば よく分かる; イギリスでは、老人は時が来れば死んで行くもの、とみなす)。

声5: 日本では欲求不満が強く、国民はさらなる手厚い医療を望むが、どこまですれば気がすむ のだろう?(係り: ‘老化’ はお釈迦さまでも治せない ―― 人々の この愚かさは、欧米のように ‘有料’にすれば 家族も ‘望みには限度がある’ ことを理解する だろう ―― 年間の経費が 500万円~900万円 の負担となると知れば、胃瘻を希望する家族は 欧米と同じくらいに ‘稀’ になるだろう)。

声6: 日本では 「どうせ老人ですから」 とは絶対に言えないけれど、場合によって ‘延命しない’ という世論 が必要だろう(係り: 人生 50年 だったのが 今 90歳 時代になったのに、人は感謝するどころか ‘まだ足らない’ と強欲 である ―― 仏さまも呆れてらっしゃるだろう)。

声7: 100歳 と 0歳 、どちらも大切だけれど、やはり未来を考えて 予算の 「優先順位」 を決めるべきでしょう(係り: 日本の現在があるのは老人のお陰、日本の発展を壊すのもまた老人の横着 ―― 要介護 4 と 5 の “有効期間” を短か目に設定し、非常識な長期介護を廃すべし、という提案もある ―― 今は ‘徒食20年’ 、一人で1億円の国民予算を使う老人もいる)。

声8: 日本の老人が十分な医療保護を受けられるのは ‘国民皆保険’ のお陰である(係り:イギリスは老人の透析を健康保険から外す ことで 国家を滅亡の道から救った; 欧州諸国もこれに見習った)。

声9: 人間は何のために生きているのだろうか?自分の意思がなく、周りに迷惑をかけても生きたいのだろうか?(係り: 人間の遺伝子には 生きるための遺伝子’ だけ が詰め込まれていて、‘死ぬための遺伝子’ は入っていない ―― よって、人間は死なない限り “生き続ける” のだ . . . 我々に望まれる事は 「節度と中庸」 であろう)。


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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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