(507) 福祉は 「ジワコロ」 を 優先するのか?

   (# 507) 福祉は “ジワコロ”を 優先するのか?

  日本女性は世界一の長寿であるが、その実態は 世界一 ‘病気で長生き’ なことである ―― これでは 「長寿の世界一」 を威張ることができないだろう。

♣   図 1で分かるように、ヒトの平均寿命は 「健康寿命 + 病気寿命」 で表される ―― 簡単のために 女性の例で話を進める (男性は数値が異なるが 話の流れは女性とお同じだ)。女性は 73年 ほど健康に生きたあと 13年 ほど ‘病気 or 寝たきり’ になって逝く。 この統計を見れば 誰しも “病気 13年 は長すぎて辛い、短くしなければ” と思うだろう。そこで頭に ‘ピンコロ’ 願望 が現れるが、ピンコロ で死ねる可能性がある状況は 「 心疾患 ・ 不慮の事故 ・ 自殺 」 しかない ! 1) 超高齢者は このいずれにも該当せず、彼らの死因は 「 認知症 ・ 誤嚥性肺炎 ・ 心身廃失 」 であって、ピンコロの願い が叶えられることは まずない。
福祉は ジワコロ を 優先するのか?
♣ ここで人の死亡パターンを復習してみよう。まず 「定義」 を三つ : ① ピンコロ : 医学的には ‘突然死’ で、上記のように 老人のピンコロはほぼ不可能である1)  ② 並みコロ: 常識的な期間の病気のあと逝く 若年 ~ 壮年タイプ の死に方。 ① と 次の ③ の死亡パターンを除外した死に方と言えばよかろう。 ③ じわコロ: じわりじわり時間をかけて逝く死に方であり、寝たきり 15年 なんていうのも珍しくないほどで、大抵の老人はこれに該当する。
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♣ これら ① ② ③ の 死亡パターンを 図 2  に示す。 (イ) ‘ガンの経過’ の場合、身体体機能は 1 ~ 10年 に亙って維持されているが、終末期は急速であり、1日 ~ 1月 のことが多い。これでは ‘ピンコロ’ と言えないだろう。 (ロ) の‘心・肺疾患の末期’ は 一般社会の経験に割と近く、これは‘ 並みコロ’ と言えるだろう。 (ハ) 一番右の‘認知症 ・ 老衰’ の図は概念図であって、原典 ( JAMA , 2001年 )が 15年 も古いので、必ずしも データに基づいたものではない。この図に従えば、老人は痩せ細って 枯れるように消えて逝く ‘じわコロ’ であるが、時間を示す横軸が 日 ・ 月 ・ 年 なのかが不明である。認知症の老人たちがこのような経過で逝くことは 事実とは少々違う。 図3 は、我々のデータであり 2) 、90代3人 の老人の代表的な ‘死に至る経過図’ である。

♣ 縦軸は‘B.M.I.’ ( 体格指数 ) で、毎月一回 測定 ; 横軸は ‘年’ であり、全経過は 11年 に及ぶ。 (a) 一番上の 例は 95歳 の認知症で、要介護 4 → 5 、最初の 5年間 は‘ 杖歩行’ ができ、元気で食欲も旺盛、BM I はやや多めの 25 を維持していた。6年目 の頭で 「誤嚥」 、以後 BM I は一年に 2 ~ 3 ずつ低下、食事の工夫でBM I の回復がみられると 再び 「誤嚥」 、それを 計5回 繰り返し、入院治療を含めて最善を尽くしたが、BM I は ’危険域 12 ’に達し、5年 の経過で亡くなった。つまり、最初の 5年間 の体力は正常、誤嚥を契機に毎年 BM I 2.5 程度 の体重減少で、限度いっぱいに達したあと亡くなった。
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(b) 2段目の例は90歳男性で 15年 続く 老人性認知症 で入所、要介護 4 。身体は痩せ気味だったが車椅子自走はできた。3年目 に誤嚥、2年余 の経過でBM I が 12 に近づき亡くなった。 (c) 3例目は99歳の女性; 要介護5 。右麻痺 ・ 骨頭骨折 ・ 失語 で BM I は 14 と低値ながら何事もなく最初の 2年 を過ごしたころ 誤嚥、希望により PEG で対応したが、BM I は 生存困難な 「11 レベル」 まで落ち、亡くなった。

♣ これら 3例 に共通なことは、(1) 誤嚥を起こすまでは 体力は温存され、平穏無事な介護ですんだが、誤嚥を契機に BM I がおよそ 「毎年 2.5 」 程度の低下を示したこと ; (2) BM I の低下スピードがほぼ同一であったから、誤嚥時点のBM I が高い位置であれば 死亡までの時間が多く稼げ、誤嚥時点の低い例(c)では 早めに BM I = 12 に達して死亡された。

♣ つまり、認知症 ・ 老衰 といえども、臨界事件(誤嚥) が発生するまで、体力は年齢相応に温存され、事件発生後にはコントロール困難な経過で死亡されたことである。死亡の予想月日は BM I が 12 に達する点を図面で外挿することにより可能であった ―― その意味では 「並みコロ」 ではないし、まして 2 ~ 5年 の経過だから 「ピンコロ」 でもない。つまり これは、世に一番嫌われる「じわコロ」と言うしかない。

♣ ヒトの死に様は 結果論であって、選ぶことはできないだろう。もし何かの手助けをするとすれば、それは 死期を後ろへ延ばす治療や介護、すなわち 「延命」 ではないか?ここで決定的な 「矛盾」 が生じる。なぜって、治療や介護を始めると その目標は 「病気期間の延長 = 延命 」 なのである ! ところが、冒頭で問題にした人生の努力目標は 「 病気期間の短縮 」 であった。あなたは病気を “長引かせたいのか? それとも早々とケリをつけたいのか? ” 「福祉行政の眼目」 は明らかに 「延命」 であるから、なんだか “竜頭蛇尾” の結論になってしまい、現場は大混乱に陥るのである。2009字  

結論: ① 高齢社会を生きるための狙いは ‘病気寿命の短縮であろう。 ② 他方、現実に実行される ‘ベストの死に様 ’は 「病気寿命の延長じわころ」 である。 ③ この竜頭蛇尾の矛盾を あなたなら どう解決するか?

補遺: 「図1」 を机の前だけで見直してみる。病気寿命を 1年 減らして 健康寿命を 1年 増やせば、総寿命が変わらなくても ‘幸せ’ は 2年ぶん 増えるではないか? だが、現実は ‘積み木遊び’ とは大きく違うのだ。がんらい戦前は平均寿命 50年 で病気寿命は 1年以下 であった。それが福祉のお陰で平均寿命が 30年 延びたが、病気寿命も 7年 延びたのだ。まだ研究成果は十分定かではないが、健康寿命を延ばせば 病気寿命が縮むと考えるのは “希望的錯覚” に過ぎない。

  参考:  1) 新谷冨士雄・弘子、「ピンピンコロリ」の現実、福祉における安全管理  # 481, 2015. 2) 新谷、「体格指数(B.M.I.)から見る生と死の狭間、老人ケア研究、No.33: 13, 2010. + 「安全管理 ふじひろのページ」、2010.9.1
   
  職員の声

声1: 健康寿命を延ばす努力を 「数値で表す」 ことができるだろうか?(係り: いずれ可能となるだろうが、問題は当の本人が “延びた人生を幸せとか感じるかどうか” であろう ―― 無為徒食の人生が延びただけ、に終わらないような指導が必要となる)。

声2: 介護者が体の状態をきちんと把握して上手に付き合うことが 「幸せ」 に繋がるのではないか?(係り: お年寄りが “幸せよ” と言ってくださる時ほど嬉しいことはない、けれど、滅多に そう仰って頂けないのが現実だ)。

声3: 今でこそ 「延命 = 良くない」 かも知れないが、もし国の財政が豊かだったら 「延命 = 賛成」 なのだろうか?(係り: 国民の半数近くが老人である国が ‘財政豊か’ ということは ありえない . . . でも 仮に豊かとしたら その国の軍隊は ‘老齢軍隊’ だろうから、たちまち 隣の国に攻め盗られ てしまうだろう ―― 老人の延命どころの騒ぎではなくなる)。

声4: 長生きしても ‘寝たきり13年’ では幸せと思えないだろう(係り: テキストの 図1 は日本女性6千万人の平均値であり、“病気の 13年 が嫌だ ! ” と言っても避ける手立てはない . . . 「長生きの実態」を身にしみて認識することが大事となる)。

声5: 私は男だから、健康寿命の後 9年 もの寝たきりではたまらない . . . 私の老後は誰が看てくれるのだろうか?(係り: 人生 50年 の戦前なら 寝たきりは 0年 、今は男の人生 80年 で寝たきり 9年 : あなたは どちらを選ぶ?)。

声6: 介護保険の自己負担分を増やせば 平均寿命は短くなるけど、病気寿命も短くなると思う(係り: 政治家は老人たちの耳に甘い言葉を囁くと、次回の当選は確実となる : 若い人には信じがたい メカニズム が現存する)。

声7: 当の本人は 「長い病気はイヤ、はやく死にたい」 とおっしゃる ( = 病気寿命の短縮) ; 他方 介護保険は 「万全の介護を余念なく実行せよ」 という ( = 病気寿命の延長、 じわコロ) : どっちが正しいの?(係り: 人間て、案外に 矛盾の板挟み の中で暮らすのが好きみたいだ)。

声8: ピンコロ ・ 並みコロ ・ じわコロ . . . どれが良いかと尋ねられても、本人は選ぶことが出来ないんでしょう?(係り: 介護保険は  ’じわコロ’ を推奨している)。

声9: 手厚い介護を望むのは 本人よりもむしろ家族である . . . 家族のこの気持ちは今後も増すだろうから、「じわコロ」 は今後ますます増えて行き、介護財政は破綻すると思う(係り: 今年の 8月 から一部では本人負担が 1割 から 2割 になり、もし 今後もだんだんと本人負担部分が増えて行けば 介護財政は安泰となって、過剰介護は減り、人生は 「本来の天寿の姿」 を見せてくれるのではないだろうか)。


プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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