(513) 天 国 と 地 獄 ー 2 ー

(513) 天 国 と 地 獄    #19の同名記事のパラ

ヒトは しばしば 天国を夢見る。と 同時に 「天国だけの生活は、すぐアキアキする」 とも言う。

♣ 20世紀 の初頭、まだヒトが空の旅をしたことがなかった頃、ヨーロッパでは、空飛ぶ飛行機は 「益か害か?」 の論争があった。その論争が華やかなりし頃 第一次 世界大戦が勃発し(1914~1918)、従来の ”人 対 人” の戦い のほか、物理 ・ 科学 ・ 工業 の裏打ちがある悲惨な大量殺戮 ( さつりく) の近代戦が行われた。

♣ その終戦に当たって、「和平交渉」 が 敗戦国に対して “懲罰的” であったため、20年後 には 再び 第二次 世界大戦が始り、もっと激しい殺戮戦争が繰り返され、それは 原子爆弾の惨劇 によって終止符を打たれ、平和の宣言が世界中で行われて 現在に至っている。

♣ 有難いことに、第一次 ・ 第二次大戦 による航空事情の進歩により、ふたたび 空飛ぶ飛行機の旅を夢見る平和な産業が世界各国で起こった。空飛ぶ飛行機が 「益が害か?」 の問題は そもそも半世紀 昔の話題であり、一部の結論は明瞭であったが、識者たちの胸の中で、反省と進歩のための討議 が行われた。ここでは 「天国論と地獄論」 を対比して話を進めてみよう。

♣ まず地獄論 : 当時の人々は 2千年前 の 「イカロス と ダイダロス親子」 の 脱獄物語 を信じていた ―― つまり 父ダイダロス は鳥の羽を集め、蝋で接着した大きな翼を作った。親子は クレタ島 の牢屋からうまく飛び立ち 脱獄は成功したけれど、息子の イカロス は 飛ぶことの面白さに夢中になり、太陽の近くまで飛んで 翼の蝋が熱で溶け、海に落ちて死んでしまった。地獄論 は 飛行機ができると ① 脱獄囚の管理が困難になり、宮殿の中も覗き込まれる、 ② 鉄砲や武器を素早く運び込む輩(やから)が増えてくる、 ③ その結果、紛争が広がり、人々の不幸が訪れる 等々。このことは 下で述べる 「介護の地獄論」 で再掲する。
天国と地獄

♣ 次に天国論 ① 人が天を飛べるようになると 落ちる危険もあるが、 その眺めの良さに感激するだろう、 ② 早く遠くに旅ができるので 国の経済が発展するだろう、 ③ その結果 多くの人々は幸せになるだろう、等々。 /// この論争に加わらなかった発明家たちは、次のように批判した : 「空気より重いものが空を飛ぶハズがない、君たち、バカな論争はやめたまえ」 。

♣ 今の航空事情を知っている皆さん方は 100年前 のこの論争に容易に決着をつけることが出来るだろう。つまり 「始り」 と 「決着」 を知っている人ならば フン と鼻を鳴らして ニコニコ 判断出来るのだ。では、同 じ論法で、今の日本の一般社会の発展状況を覗いてみよう。

♣ まず日本天国論 : ① この70年間、戦死者がゼロである (先進国のなかでは日本だけ) 、② カラーTV、水洗トイレ、エアコン、スマホなどの個人用通信機などは あるのが当たり前、 ③ スペースさえあれば、自家用車はあって当然、 ④ 体重を減らすことにお金をかけられる、 ⑤ 女性の平均寿命はダントツに世界一であり、介護保険が世界無比で 老後の幸せが充実している、等々。

♣ 続いて日本地獄論 : ① 軍隊がないために、他国に もてあそばれる、 ② リストラされると他の仕事が見つかりにくい、 ③ 長いデフレと経済不況が続き、人々の間に窒息感が広がっている、 ④ スマホが過剰に普及して 子供たちが遊びまわる、 ⑤ 親が長生きで、介護に苦労する、 ⑥ その割に高齢者の転倒・骨折は増え続け、誤嚥性肺炎は死亡の 第一位 ・ 胃瘻延命 が世界一 ポ ピュラー、等々、問題は山積みだ。

♣ 飛行機の場合、発明家が論争を バカ扱い にしたが、にもかかわらず、飛行機は世に デビュー し、二つの世界大戦で主役を演じた。その結果は 幸せだったか 不幸だったか?…… どちらもあったのだ ! では ナゼ 飛行機が人々を幸せに導いたのか? それは 航空には 「攻撃用と平和用」 の 二種類の 「ハムレット」 が存在するからだ 1) 。人間が地獄論にあるような 「不都合な部分を そぎ落とす」 工夫をした結果、現在の飛行機の平和利用が可能となったのである。

♣ 今の日本社会の発展状況も、言われてみると、天国と地獄は同じものである、と理解できよう。ここで 介護の天国論 を眺めてみる。日本は 意気揚々と介護保険を実施し、 多大な幸福を老人にもたらした。介護保険の審査に携わってみると、 「要支援 1 から要介護 5 」 までの該当者は 実施 15年前 にも劣らず 大繁盛なのである。 保険の立案者と現場の職員の仕事熱心さに支えられ、介護保険万歳という現実は誰しも認めるところであろう。

♣ ここでは あえて 幾つか の 介護地獄論を加えて論を終えよう。 一番 合点が行かないことは、介護保険が始まった 2000年 以降、統計に表れる 「平均年齢の増加」 が 鈍化 ・ 停止 したことだ 2) 予算 3兆円 から始まり 今や 10兆円 の規模を誇る介護予算なのに、コスト ・ パフォーマンス が ゼロ ! これは どう説明できるのか?3)

システム にうまく乗った利用者は “要介護 4 ~ 5 ” で 15年 間 を生存している ―― 素晴らしいことではあるが、 コスト ・ パフォーマンス を検討すると、お一人様につき、約 7,500万円 の経費が若者から老人に流れたことになる。ほぼ 寝たきりの 多数老人の このような実態をどう説明したものか? このことは 上に述べた 「イカロスの墜落」 と 「 二種類のハムレット」 に対応する 古今の悩み なのであろう。

人は ‘長生き’ を求め、その中に 価値と幸せ を見出すハズなのに、ナゼか、 ‘嘆き’ のみが聞こえてくる。それは 介護現場 の意気を損なう現象である。 老人の数が平常の 4 % から 現在の 24 % に増加するにつれ、子供の数は減少するばかりで、 多々老 ・ 少子化 は進むばかり…… 今の介護保険には どこかに ‘削ぎ落とすべき不都合’ があるとしか言いようがない。今後の 「天国と地獄」 は 「 削ぎ落とし作戦 」 を効果的に実行する中に見出されると思う。2399字 

 結論 :  ① 飛行機と社会発展について、 天国 ・ 地獄論 を紹介した。航空が発展したのは 「欠点の “削ぎ落とし” が成功したからであった。 ② 介護の 天国 ・ 地獄論 についても、同様に検討してみた。残念ながら、 “介護の歴史は まだ 15年 ほどであって、「欠点の “削ぎ落とし” が 十分進んでいない」。 ③ 今後 介護に関する 「天国と地獄」 は 「 欠点の削ぎ落とし作戦 」 の成否に懸かっていると思われる。

   参考:  1)  William Shakespeare : To be or not to be, that is the question. 2) 新谷冨士雄・弘子:「平均寿命 ―― 3っの驚き、2015年」、福祉における安全管理、# 446 , 2015. 3) 新谷:「延寿の一服論」、ibido # 451 , 2015.

職員の声

声1:: 「イカロスの翼」 は 文学 ・ 絵画 の大きなテーマである ―― 人類は文明を発達させ、どんどん太陽に近づき、ジリジリと 燃やされる寸前まで来ている … イカロスは賢く飛ぶべき 、という教訓ではないか?(係り: 子供のイカロスは 父ダイダロス の警告を無視して 太陽に近づき過ぎ、結局 墜落死 した … 介護保険も 15年 経過すると ‘15年全部を保険で過ごすケース’ も現れ、経費を計算すると 7,500万円 余の出費例となった … 寝た切り何十年という 要介護 5 を 全部保険で過ごす例が 保険体系を著 しく乱すことを予想した人が 果たして いたのだろうか?)。

声2: 15年前 に保険が設立された時、その 15年後 に膨大な予算が必要となり、かつ、肝心の老人たちは 「長命で辛い ! 」 と嘆くことが予想されていただろうか?(係り: 関係官僚たちは世代交代するので、能天気 ですよ ! )。

声3: そんな大予算を注ぎ込んでもらえる老人とその家族は 幸せな天国に暮らせるだろうが、その会計を受け持つ 何千人もの納税者 の負担は泣き寝入りになるのか?介護保険は ‘削ぎ落とし作戦’ を行うべきである(係り: 子供育成にかかる経費は 社会の財産として生きるが、老人の過保護経費は いったい何になるのか?)。

声4: そんな、家一軒が買えるような予算が 本当に必要なのであれば 、私なら それに 見合う利益 を求める(係り: 一人の人の老後ケア に それだけのお金を掛けられる家庭が 日本にどれだけあるだろうか? その予算で 子供の野球場 が 幾つか買えるよ)。

声5: 介護予算が 3兆円 から 10兆円 に増えたのに、予想される平均年齢が増えないことに疑問がある、と言うが、当の本人が満足しているのなら ペイ している と解釈できる(係り: 実態を観察せよ ―― 介護期間が長ければ長いほど 本人も家族も、不平と不満を述べることはあっても、 “満足 ! ” とおっしゃることは まずない … 人間の欲望は底知れずで、不老不死を求める のが常だからだ)。

声6: 戦後の貧困と混乱を乗り越えた ‘お年寄り’ の労苦に報いるために、老人優遇は倫理的にも当然ではないか?(係り: もちろんの事だ … しかし彼らは そのことを 恩に着せ 、 百 の苦労に対して 千 の報酬を求め、社会秩序の継承が困難な 「 多々老 ・ 少子」の原因 となった -- 次世代の子供たちの事をおもんばかる視点がまるで欠如している。

声7: 今の介護保険は素晴らしいが、先行き破綻するのは必定 ; 適切 ・ 適度 の将来を描ける政治家を選挙で選ぶべきだろう(係り: それは正論だ … しかし政治家にとって 老人の機嫌を取らなければ 自分の当選がおぼつかなくなる … .to be or not to be の ハムレット になるね ーー 古代ギリシャの 民主主義先達の ペリクレス の出番となる)。

声8: 介護保険のそもそもの目的は 「尊厳ある自立」 の確保であった … ところが現在の保険は 「底なしの他人依存の助長」 である ―― 初期の目的を忘れてはいないか?(係り: 介護保険法の前文を書き直しますかね)。

声9: 現在の “過剰な” 介護は老後天国を保障するものだが、人間の本来の 「生きる力」 を弱めているように感じる(係り: 欧米の介護は 老人を ‘助けている’ が、自立心を ‘助長して’ もいるよね … 日本式の 「甘やかし」 は世界の人に訴える力がナイ ! )。



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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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