(565) 笑って ください

   (# 565) 笑って ください  

デイ・サービスの現場には 「笑いがある」 ―― ところが、特養のサロンを訪れると シン として 「笑いがない」 … テレビは鳴っているが 皆さんがたは 見ていないし、お互いの会話もない … え? 歳を取り過ぎて 笑いの寿命 が終わったの? ――

♣ いや、介護保険外で 毎日催される 一階 のサロンの “パールライフ” の集会 … 平均年齢は ほとんど違わないけれど こちらのほうは 会話と笑いで大変賑やかだ … つまり 高齢だけ が 特養の静けさの原因ではないようだ。しかし 笑いには寿命があるような気がする ―― 確かにそうらしい; だって赤ちゃんは生後 三ヶ月 ほどで笑い出すし、逆に 人は高齢になると 笑っている人を あまり見かけないもの ―― 言われてみると、なるほど、なるほどだ !!

♣ 動物が 「笑うか 笑わないか」 は遺伝子が決めている 1) ―― 犬や猫は笑わないが、猿 (チンパンジー、オランウータン) は笑う。人が猿と分かれた遺伝子を獲得したのが 約600万年 前であるが、人と猿は、それ以来、ずっと笑い続けている。
笑ってください

♣ さて、人間の一生の間で笑いは どのくらいあるのだろうか?私の知っている、ある高名な病院の 老先生、75歳、若者たちが披露する 忘年会の 「お笑い劇」 を、一番前の席で 熱心に観ておられた。彼は ふと隣の席の人に言葉をもらして言う : 「みんなは この劇をみて大笑いしているが、私には何がおかしいのか、さっぱり分からない」 と。みんな、“変だな?” と感じていたが、案の定、この老先生 半年後には 「正常圧水頭症」 のため、職から退いてしまわれた。やはり、笑いが分かるためには、笑うことのできる “健全な脳細胞” が必要だったのである。

♣ 別なご利用者で、パール特養のお宝、Y.T. 様 104歳 。この方は いつも怒っている人だった。ところが、先月催された、プロのボランティア 「お化粧 と 撮影の会」 2 ) に参加され、よほど嬉しかったのか 満面の笑みを一同に披露なされ、周りの人たちを 唖然(あぜん) とさせた。環境によっては、脳の萎縮があっても、まだ 「笑うことができる !! 」 ことが分かった。一般に 笑うことができるのは およそ 100歳 までとされるが、今 105歳 要介護 5 の K.S.さんも、笑うことと無縁である。笑いは、健康と環境を測る良い 「物差し」 になると思われるのが、今後、高齢者が増える社会で あなたは 「笑い」 をどう判定するか?あなたのご利用者は、まだ笑っておられるか? 

♣ 「笑い」 は 「免疫強化、ストレス解放」 などの理由で健康増進に効く、とされる。しかし、特養にご入所で高齢の方は デイサービス参加者に比べて 明らかに 笑われる方が少ない 3 ) 。精神科で扱う笑いは 「空笑い」 (からわらい) だけであり、これは 「笑う内容がないのに、顔だけが笑っている」 状態であり、統合失調 の特徴 である。このように、「笑い」 の効果は 元気な人で検討されるが、認知症や精神科領域では 「笑わない」 ことが当たり前になっている ―― あなたは 仕事の上で このことを実感するか?

笑って ください

♣ 「笑う」 とは高度な感情であり、人間は 大脳皮質の発達により 「笑うことができる」 。逆に 大脳の少ない犬や猫、鳥は笑うことを知らない ―― 認知症で笑いが消える理由は、ここにある ―― つまり 大脳の細胞脱落 が原因なのだ。ところが、認知症は 笑わないけれど、よく “泣く”。脳活性が落ちているハズなのに、特徴的な症状として、「盗まれた」 といって訴える、些細(ささい)なことで怒りっぽくなる; しかしテレビドラマの内容は理解できない・道具が使えない . . .、つまり、大脳細胞が減少していても、泣いたり 騒いだり はできる のだから、不思議なことである。

♣ 一般に、物事に関心があると 何らかの反応をする ――子 猫は “じゃれる” し、若い女性は “箸がころんでも” おかしい。特に、膨らんだ 「期待と関心」 が裏目にでると 「笑い」 が誘発される。逆に歳をとれば、何が起こっても 無関心 になり、好奇心 のかけらさえ 見られず、「笑う」 理由も少なくなる。よく観察してみよ ; あなたの 父母 はどうか? 祖父母 はお笑いになるか?ただし、いつも ニコニコ しているお婆さんは たぶん 別な理由( = 認知症)で幸せなのであって、笑うような情緒活動があるとは限らない。

♣ 「笑い」 が分かり 笑えることは非常に大事であり、そのためには、所定の数の大脳細胞数が存在して、それらが キチンと 機能している事が前提なのだろう。矛盾しているようだが、歳だから と言って諦めることなく、私たちは ご利用者が 90歳 でも 100歳 でも、「笑ってもらえるような “ケア” 」 をしたいものである。1876字  

要約:  特養のサロンでは 笑い声が少なく、対照的に デイサービスや介護保険でない高齢者の集まりでは 笑い声が絶えない。 動物は笑わない ―― 笑うことの出来るのは大脳活動のあるヒトだけである。③ 笑うことができなくても “泣く” ことはできるヒトは多い ―― 私どもは、認知症の人であっても 「感情活動」 が出来るような “ケア” を心掛けたいものである。

参考 : 1) Jim Holt : Why Laughing Matters; Discover 7: 67, 2008.  2 ) パールで催される、ボランティア団体、プロの 「専門家お化粧員と写真家」 の会。 3) 新谷: 笑いの寿命; 安全管理 # 59 、2010.。 4) 新谷: 高齢 と 統合失調 ; 安全管理 # 386, 2012.

職員の声

声1: 人は笑わなくても 泣くことはできる … が、相手が認知症であっても 「感情活動」 ができるようなケアを提供したい(係り: 相手の心に語りかける姿勢で接すれば、相手も分かってくださるし、傍にいる人も笑顔になる)。

声2: 自分の表情が硬いまま ご利用者に接すると 相手は笑顔を見せてくださらない ―― しかし 手をとり スキンシップ で笑いかけると 笑いを返してくださる … 認知症の方でも笑ってくださるよ(係り: この経験を みんなで共有しましょう)。

声3: 重度の認知症のご利用者であっても、笑顔や笑い声のある支援があれば、介助者のご家族全員が救われるような気がする(係り: 笑う心は 1 対 1 の関係に とどまらず、1 対 多数 の幸せに広がるのだね)。

声4: 昔の‘懐かしのメロディー’ なら、認知症の方でも 歌に参加、笑顔を見せてくださる(係り: 今 80歳 ~ 90歳 の方々の若かりし頃の歌 (昭和 40 年前後)が圧倒的な人気だね … 認知症に近い人でさえ ‘近’ 過去を忘れても ‘遠’ 過去は 忘れず、涙をこぼされる ! )。

声5: デイサービスの 初回受け入れ 時に大切なことは 「笑って頂くこと」 ; その方が 生きて来られた背景を浮き彫りにするために とても有効だ(係り: デイ活動グループには 先輩諸氏が活動しておられるのが常で、新しく仲間入りをする雰囲気づくりは大事なことです)。

声6: 特養のご利用者はテレビの人物を目で追いかけているけれど、笑う反応はない … 面白い現象だ(係り: よく気づきました ―― お相撲 観戦などでも じっと見て 楽しんでいるのに ‘勝ち負け’ の決着には 無頓着 、という特徴がある ーー 果たして 観ている のだろうか?)。

声7: 私の母は 去年の 転倒 を契機 に笑わなくなった … 病院で 「脳腫瘍」 を発見され、今 入院中である(係り: 本文の 「正常圧 水頭症」 の症例に似ている … 笑うことに “正常な脳細胞が必要” な事を立証している … ご回復を祈る)。

声8: 笑うことを知っているのは 「ヒトとサル」 のみ ; では 対極の ストレス感受性 にも動物の差があるのか?(係り: 動物実験によると、ネズミ には立派なストレス感受性があるという ―― 「認知症から ‘笑い’ は消えるが、‘泣き’ は残る」、に似ているね)。

声9: パールの 「品質方針」 の中に 「笑顔の気遣い 推進」 の条項を入れたらどうか?(係り: それは 良い発案だ … しかし、笑顔は ‘心から出るもの’ であって、‘条項から出る’ のではないだろう … 皆さんの 天然の笑顔で十分 立派だと思うけど)。
 
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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