(613) 福祉 と ポリコレ

(613) 福祉 と ポリコレ

A. ポリコレ 昨年の暮れ、ドナルド・ トランプ氏 がアメリカ大統領に選出されて以来、俄かに有名になった 世界的な 「時の言葉 = ポリコレ」 … ご存知の方もあるだろうが、この言葉は 「政治的に正しい」 (politically correct)を約めた略語である。

♣ 政治家はご自分の政治判断が 「正しい」 (ポリコレ) ことを訴えるはずである。ところが、トランプ氏は選挙運動中にポリコレに反するような過激な論調を繰り返し、それにも拘わらず、アメリカ国民は彼を大統領職に選んだ。

B. 反ポリコレ ♣ 具体的な例は … メキシコ人は麻薬を持ち込み不法入国するから、国境に高い壁をこしらえて彼らを強制送還する … 日本は大きな船で何十万台もの自動車をアメリカに輸出し、アメリカの国内雇用に甚大な損害を与えた … テロリストの危険を避けるという口実で 移民・ 難民 の入国禁止令を出した … などなど。

福祉とポリコレ

♣ 彼の発言には誤解や虚偽も含まれているが、アメリカ 国民は、あえて「ポリコレ」に反するトランプ氏にエールを送ったのだ。その理由として挙げられている筆頭は「アメリカ国民は従来の見栄えの良い “政治的ポリコレ” にうんざりしている」というものだ。その例は多数あるが、例えば … 女・ 子供・ 黒人の人権を尊重する; 人種差別は禁止; 法的に同性婚は正しい; 経済的な格差は是正する … 等々()。つまり人の目を引く 「建前」 を並べ立てるのは結構だが、「本音」はどこにあるのかがよく “見えなくて” 、国民の心には欲求不満が溜まっていたのである。

C. 建前と本音 ♣ 政治家はなかなか「本音」を洩らさないが、日本では面白い例がある … 財務大臣の 麻生太郎氏 の「失言集」はネットで広く読まれている。曰く、「死にたいという老人がいれば、さっさと死ねるようにしてあげることを考えないといけない 90 を過ぎている人が “老後が心配” だって?いったいいつまで生きているつもりなんだ? たらたら飲んで食べて、何もしない人(=患者)の医療費を何で私が払うんだ?」。 これらは太郎氏の本音であろう、が、マスコミは立場上、彼の発言を叩かざるを得まい。マスコミは綺麗事(ポリコレ)を述べたがるが、国民の方は本音で語る太郎氏にエールを送る気分になる。

D. 禁止用語  ♣ ここで 「建前と本音」 の歴史を 「放送禁止用語」 から取り出してみよう。禁止されている語句の例は 「めくら・ つんぼ・ おし・ ちんば …」 などの身体的な差別用語があり、これらは納得だ。しかし 「外人・ 女子供・ オールドミス・ 保母・ 看護婦・ 町医者・ 老婆・ 養老院 …」 などまで禁止とは行き過ぎではないか?「障害者」を 「障がい者」 と平仮名にするなどは 横暴な主張としか思えない。人間の心理とは、「建前と本音」 が相争うものだろうが、アメリカの 「ポリコレと反ポリコレ」 の関係もきっとそうなのであろう … 主張したい事は どれほども違わないだろうに。

E. 標語  ♣ しかし、これは他人事ではない ! お膝元の 「福祉」 にもたっぷりとポリコレがあったのだ。その典型が 「元気で長生き」 という標語である。え? 「元気」に文句があるのか? … それが あるのだ ! だって、徘徊や暴力は元気だから起るのに違いない。だから超長寿社会では「元気」という代わりに「自立」と言い換えて欲しい。また、すでに長生きしているのだから 「高齢の幸せ」を噛みしめて頂きたい … つまり標語は自主性のある 「自立で幸せ」 であって欲しいのだ。

F. 元気 ♣ 人間の平均寿命は 「健康寿命+依存寿命」 に分けられる。現在の統計では、男: 81歳= 72 歳 +依存 9 歳、女: 87 歳=74 歳 +依存 13 歳 、である。つまり男女ともに依存寿命がビックリするほど長い。自分の寿命を他人様に依存しているのに 「わたしゃ元気」 と言ってもらっては 矛盾であろう。もし目標達成を述べるための標語が必要だとすれば、それは 「元気」ではなくて「自立」ではないか?つまり、目標のポリコレ(建前)は 「自立」 であって、反ポリコレ(本音)が 「依存」 であるべきだろう。

G. 長生き ♣ また「長生き」は建前上の 美辞麗句 = ポリコレ に過ぎない。昔、人生 50 年 の頃には長生きが困難だった。ところが現在はすでに 「長生き」 が達成されている。病気ならまだ治せる道があるが、 その「長生きによる老衰」 が問題なのである。高齢者率 も昔の 4 % から現在 28 %、やがて10 倍 の 40 % を越す。自立していない高齢者が 今よりも更に長生きして、その数 40 %の重み を社会が支えられるだろうか?つまり、「元気で長生き」という標語は古い過去の遺物であって、現在は「自立で幸せ」 が新しい標語として適切だと思われる。自分の人生に参加する 「自身の自立」 と 自分が開拓する 「自身の幸せ」 を求めて欲しいのだ。我々はこんな新しいアイディアを発案するが、それは無理なポリコレだろうか?

H. 胃瘻 ♣ 福祉でやり玉にあがっているのは 「胃瘻延命」 である。親別れのできない家族の耳に、「人道」 と説いて胃瘻を折伏 (しゃくぶく) する手合い は後を絶たないが、延命胃瘻は正しい道(ポリコレ)ではないから、反ポリコレ論争にさえ加われない。

I. 結語  ポリコレ論議はトランプ米大統領にまつわる「時の政治」の流行語であるが、案外に福祉の世界でも 恰好よい建前論 と 現実的な本音論 が混在していることを実感する。 2012字 

要約:  トランプ米大統領の出現で、「ポリコレ、反ポリコレ」 の論議が喧噪 (けんそう)を呼んでいる。 「建前と本音」 として類似の意見が 麻生太郎・ 財務大臣 の「本音」失言集に出ている。 福祉のお膝元にもポリコレ問題が山積しており、なかんずく 「自立で幸せ」 という標語と 「脱胃瘻」 に焦点を当ててみた。

職員の声

声1: 「ゆっくり食べて下さい」 ➟ 本心は「次の仕事があるから “早く食べて ! ” 」のように、ポリコレと反ポリコレは泣き別れる(答: 寛容 と 反寛容 が共存する ”社交辞令” にも似ている)。

声2: 麻生さんの反ポリコレ(本音)には「よくぞ言ってくれた ! 」と共感する … しかし自分や家族が あんなに叩かれたら戸惑ってしまう(答: ポリコレの言葉通りに国政を実行すれば国の財政は破綻してしまうしね)。

声3: 太郎さんは「本音」をおっしゃるので正直だ、しかし「超高齢者の延命は大事なのか?」の質問に対して もし「本音」をおっしゃると、また失言?(答: 国民は彼の失言(反ポリコレ)を楽しんでいるのではないか? トランプの場合と似ている)。

声4: 福祉にはポリコレが必須であるが、世の中、正しいだけでは十分ではなく、時には 「反ポリコレ」 の視点が大事である(答: 福祉の大家(たいか)の中には “あらゆる予算の筆頭に福祉予算を通すべき” と主張する人もあるが 、贔屓(ひいき)の引き倒 しは困る)。

声5: 多くの老人は「こんなに長生きしたくない、早くお迎えが来て欲しい」とおっしゃる(答: ところが現実には 病院通いには熱心だし、生活介護の需要は初期の 3 倍 に膨れ上がっている … 笑うなかれ、矛盾の典型が我らの 福祉ポリコレ の実態なのである ! )。

参考: 山崎泰彦:「地域包括ケアの推進と高齢者医療・国保制度改革」;こくほ随想:2012 # 11。
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

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