(617) 了 解 不 能 の 臨 床

(617) 了 解 不 能 の 臨 床

パールのデイサービスで、A.S. 様(91 歳 女性 老人性認知症 要介護 4 )は、パールに到着された午前中に 説明ができないような「変な」言動をされるが、午後になると にこやかな 普通の人に戻られる。精神科の嘱託医先生のご意見を伺った。

♣ 普通の認知症では、午後 3 時 ごろから「変な」症状が現れ、これを 「夕暮れ症候群」 と呼ぶ。「変な」とは、目つきが変わり、会話が通じず、帰宅願望が強く、徘徊を始める、他人には「了解不能な」妄想を語る()などで、どの職員もが「変だな?」と感じてしまう。その理由は明らかではないが、幼児と同じように早々と心身が「疲れてくるから」と説明されている。
了解不能の臨床

♣ しかし、このA.S. 様の場合、午前中に症状が出て午後引っ込むのだから、認知症だけでは十分な説明にならない。この際、「認知症の症状とは 教科書に書いてあるだけではなく、何でもあり !! 」 と思うのが正しいのだから、本当の理由は断定しにくいが、朝に強い症状がみられる場合は「ウツ」の合併を考慮に入れたい。

♣ ウツの一般的特徴は、寝起きや強い症状が現れるのは たいてい 「午前中」 である。例を挙げれば、電車に飛び込む人は 圧倒的に「朝」である。少々脱線するが、統計によると、東京の官庁街・ 霞が関 では年間に約 400 人 が自殺をする … その背後状況は、たいてい官庁独特の「ストレス」が基盤、そして「ウツ」が誘発され、「自殺」が実行されるのは「朝」である。A.S .様は「午前中だけに変な症状」を示されることから「ウツ」の合併が大いに考えられる。

♣ 次に問題になることは 「了解不能」 という現象だ。人間はいろんな病的行動を起こすが、「理性ある人が どんなに考えても説明不能な症状」 を 「了解不能」 と呼ぶ。了解不能な行動を起こす病気の代表が「認知症」(=老人性痴呆)と「統合失調」(=分裂病)である。もしこれらの病気を、数字の 「分母・ 分子」 で表わすとすれば、両者に共通な分母は「了解不能」である。

♣ 認知症の場合、その分子は「各種の脳機能の脱落症状」である。「まだらぼけ」1) で説明したように、脳細胞が徐々に脱落して行くと、それに並行して 脳機能も “まだらに” 衰える。その結果、認知症を数式で表すと分子も分母も「了解不能 / 了解不能」となるだろう。すなわち、認知症の症状の説明は “さっぱりワカラン / ワカラン” 状態と言える。

♣ 他方、統合失調の場合の分子は 主に各種の「妄想」であり、この中には創造的な 「芸術」 も含まれている(ベートーベン、ショパン、ゴッホ、ヒットラーなどが有名)。数式で表すと 「妄想 / 了解不能」 となるだろう。統合失調では秀才・ 天才が輩出される()が、認知症で創造的な仕事をした人はゼロだ。

了解不能の臨床

♣ 午前中に起こるA.S. 様 の「変な症状」を以上のように分析してみた。このストーリー、どうだろうか? 私たちは 主に認知症の介護に取り組んでいるが、認知症の症状って分かりにくい。説明として「何でもあり」では取りつくシマもない。しかし、統合失調と対比してみれば、共通分母はどっちも「了解不能」ではあるものの、分子の違いによって なんとなく病気の違いが浮き彫りになるような気がしないだろうか?

 要約:  午前中だけ「了解不能な変な症状」を示す認知症の一例を提示した。 「午前中だけ」という鍵で「ウツ」の合併を考え、その特徴の一部の「午前中」の意味を取り上げた。 「了解不能」の臨床には「認知症と統合失調」があるが、それらの特徴を数式の「分子 / 分母」であらわせば、認知症 = 了解不能 / 了解不能、統合失調 = 妄想 / 了解不能 となる。認知症は “了解できるところ” が何にもない 創造的な仕事をした人は、統合失調では多数 いるが、認知症ではゼロ !

参考: 1) 新谷:「まだらボケ」; 福祉における安全管理 # 224, 2011. 

職員の声

声1: 認知症を “分子・ 分母” で表すと 「了解不能 / 了解不能」、統合失調なら 「妄想 / 了解不能」 となり、二つの病気の違いがはっきりする(答: どっちも了解不能だが、認知症がいかに “訳が分からん” のかがはっきりする)。

声2: 認知症が立派な仕事を達成できないのは、物事をすぐ忘れるからか?(答: 蛙の大脳だから、忘れる前に覚えていない)。

声3: “天才と馬鹿は紙一重の差” と言うが統合失調 (若者の病気) は思考回路が繋がっている … 認知症 (老人の病気) は繋がっていない … つまり妄想という点では同じでも、あとは全く違う病気である(答: よく気付きました ! )。

声4: 認知症は創造的な仕事は達成できないが、本人が「幸せそう」なら暖かく見守ってあげよう(答: 認知症は大脳細胞の脱落のために意味ある仕事はできない … しかし統合失調なら「了解不能」であっても、大脳細胞数が減っていないから世界的な偉業達成が可能なのだ)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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