(647) しつこい腰痛 : 微 細 骨 折

(647) しつこい腰痛:微 細 骨 折

  お年寄りでは「しつこい腰痛」を訴える方はたくさんある。

M.Y.さんは 79 歳 女性、認知症、要介護 5。3 年前 から腰痛が出没、だんだん強くなり、ひと月前から鎮痛剤・座薬なども助けにならず、大病院の整形外科を受診。第三腰椎の疲労骨折と全身性の骨粗鬆症によって骨がボロボロだとの診断、ビタミンDが処方された。どう理解すべきだろうか?パール嘱託医の整形外科医・Y 先生に解説をお願いした。

Y先生:―― 人の体の細胞はすべて 50 歳 前後から老化の変化が目立ち始める。つまり筋肉は痩せ、代謝は落ち、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が始まり、骨は変形してくる … これは誰でも起こることだ。脊椎(せきつい)はカルシウムの減少を反映して小さくなり、椎間板も乾燥して圧迫変形を受け、特に前方が潰れてくる(図 1)。

しつこい腰痛: 微細骨折

♣ 齢と共に脊椎には、レントゲンや CT で見ても分からないような “小さい骨折” が生じてくる。これを微細骨折と呼び、老人のすべてに必ずある ! ―― “わたしゃー元気だよ” と思っても、実は体の内でこれは進行していく。これは人間の老化による自然現象であって病気とは言えない。

♣ ところが、加齢によってこの微細骨折が重なると、肥満・姿勢・運動要素などの影響も加わって骨は変形し、僅かな誘因で大きな骨折が発生する。これにより周辺の 神経圧迫・疼痛・筋肉萎縮 などの悪循環が始まる。人間の腰痛は他の動物とは違って、立位・二足歩行の習性により必然的に発生してくる悩みの種なのである。その上、他の動物には存在しない 「更年期後の長寿・認知症」 というダブルパンチが加わり、その対応は困難を極める。

♣ 大抵の人は気付いていないが、若い 25 歳 の頃に比べ老人になれば、身長は 5~6cm ほど縮む。なぜなら長い年月の重量負荷による微細骨折が積み重なって脊椎骨は圧縮・破壊され、椎間板も圧縮・菲薄化(ひはくか)されるからである。頭の骨は重量負荷を受けないからサイズは変らないが、脊椎骨は重さを受けて短縮・変形・湾曲し、老人の後ろ姿を見ると、7 等身(とうしん)だったものが 6 等身 へ、人によって5 等身の “ずんぐり・むっくり” に変わってしまう。

♣ 残念ながら、モノは使えば減っていくのが道理だ。人が子孫を産み終わる更年期以後の長寿になれば、体の組織は摩耗(まもう)、「遺伝子」の活性は鈍化 1 ) 、骨の異変は自動的な補正がなされなくなる。かくして今のところ、「加齢に伴う 微細骨折」を 止める有効な手段はない ! しかし対応法ならある。つまり:―― 

対応 ①: 脊椎骨に過剰な負荷を強いる「肥満」を避けること … ただし “適切な運動負荷” は大事だ、なぜなら、骨と筋肉は “使わないと衰えて行く” からである 2~3 ) 。体の運動が骨や筋肉へ与える負担を観察すると、横になっている時の負担を 「1」 とすれば、座位で 「1.5」 、歩くで 「3」 程度になる ―― ここでも正しく運動することの意味が強調される。

対応 ②: 「良い姿勢」が大事だ … 不自然な体位をとる習慣は禁物だ――たとえば、側彎(そくわん)がそれである。側彎とは、人の体を後ろから見て、背骨が曲がっている状態である。バランスの異常は肩や骨盤の位置まで伝染し、姿勢・歩行・転倒などの障害に繋がっていく(図 2)。

しつこい腰痛: 微細骨折

対応 ③: 車椅子を利用する人の背中をまっすぐ保つこと、これも微細骨折の不均衡を防ぐことに役立つので、姿勢を崩さないように指導しよう。

♣ 「腰痛」は大抵の老人には付きものであり、これに認知症が加わると事態は複雑化する。ご存知のように、認知症の主体は大脳細胞の減少によるものであって、腰痛との直接関与はない。しかし認知症には「周辺症状」というものがあって、それによって “不穏・妄想・脱抑制”などが進行する。並みの腰痛であってもその訴え方は “並み” を越えてしつこくなる。ケアをする職員は何が何処まで異常なのかが判別できなくなる程となる。

♣ 冒頭に記述した M.Y.さんの場合は、検査によって高度の骨粗鬆症を伴う腰椎の圧迫骨折であることが判明した。対応として、高度な認知症に外科的侵襲は必ずしも適応ではなく、仮にこれを行っても “認知症と術後のリハビリ行為” は 水と油、なじみ合わない。鎮痛剤などの対応は十分に有効でないことが分かっている。

♣ つまり通常の整形外科的な対応は「お手あげ」である。では、どんな手を打つべきか? この例では認知症の周辺症状が事態を悪化させているとみられるので、精神科的な対応に解決を求めるのが適当だと思われるが、悩みは尽きない。1816字

 要約:  微細骨折は無自覚の加齢現象であり、更年期後の誰にも発生する。その積み重なりによって腰椎の疲労・圧迫骨折が発生する。 人は、他の動物と異なり二足歩行で、老後の長寿化・認知症の重複というダブルパンチにより “しつこい腰痛” が少なくない。対応は整形外科的のほか、認知症の周辺症状の観点で行うが、悩みは尽きない。
 
参考: 1) 新谷:「三つの寿命」;福祉における安全管理 # 228, 2011. 2) 新谷:「残存機能の保持」; ibid # 151, 2011. 3) 新谷:「筋トレへの知識」; ibid # 638, 2017.

職員の声

声1: “身長は毎年減って行く” とはショックだ ! 私は腰痛コルセットをしているが、骨のレントゲン所見を見るたびにイヤになる(答: たいていの人は変更できない健康上の現実を受け入れようと努力している ... あきらめるのではなく、素直になろう)。

声2: 私は “しつこい腰痛” を4回やったが、ナゼそんなに回数が多いのか?(答: 一つの腰椎は何回にも亙って崩れて行くし、骨折する腰椎は 5 個 あるので、腰痛はふつう何回も発生する .... 本文の図1で現実を受け入れよう)。

声3: 一番良い対応は、正しい姿勢を保ち程よい運動をすること、それも自発的に行うことか?(答: ふだん畳や腰掛に座ったとき注意するのが一番良い(図2) ... 動物には無い人間の 立位・二足歩行による有難みを活かしてはどうか?)。

声4: カルシウムやビタミンD を摂取すれば骨粗鬆症を克服できるか?(答: 薬を推奨するのはほとんどが営利会社の広告である … 大抵は薬剤の過剰摂取になるだけであり、水溶性薬剤なら尿・便に排泄されるのみだ。その人の年齢にふさわしい食生活と運動のみが正解である)。  

参考: 地球の上高く、半年・一年 と周回する「宇宙船」、あの中は無重力の世界であり、人の骨は重力保護のご用がなくなって骨粗鬆症・筋力低下に陥る… それの防止には薬のほか、姿勢・運動の配慮が行われている)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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