(643) 誰 の Q O L ?

(643) 誰 の Q O L ?  

  QOL は、ふつう「 生命の質」 と訳され (Quality = 質)、福祉の世界では “幸せで生き甲斐のある生命” という意味である。

♣ しかし “Q” は Quantity(量)のQかも知れない … この場合のQOLは「生命の量」(Quantity = 量)、つまり多くの場合「延命」を意味する。だから単にQOLと言えば、「質?量?」 が曖昧となり、両方をと考えれば「幸せな長生き」という意味にとれる。

♣ これは大変結構なことだが、日常の食事の例を引くまでもなく、「質も量も」満たすことはなかなか容易ではない。“QOL” は一般国民にも用いられる言葉であり、ここではすなおに “Q” は「生命の質」と考え、以下ここではQOLは「生命の質」の略語とする()。
誰のQOL?
♣ 日本は戦後、経済の高度成長と共に福祉が著しく発展し、人口の増加、特に老人の数が 7 倍に増え(4 % → 28 %)、今では福祉の「質と量」の両方を満たすことは困難に面している。たとえば「胃瘻設置」の場合、さしあたり命の量を増やすことはできても、命の質を回復する効果はないからである。

♣ 日本では古くから「命あってのもの種」と言われ、命さえあれば その質の良否に注文をつけない、という習慣があった。しかし、1970 年代の金融バブルと経済余裕で、日本には「求めるなら上質な命を」という社会的合意が育ち、アメリカから輸入された QOL と言う言葉がもてはやされた。

♣ QOLは まず医療の場で、治りさえすれば良い医療から、手間暇が掛かっても、きれいな傷で治る外科手術や副作用の少ない薬物などが求められた。

♣ ところが、ひとたびQOLの魅力が社会的に認められると、そのうち、人々はそのQ(質)を保ちながら量の(Q)も増やしたいと思うようになる。人々は好きな食べ物を我慢してまで長生きしても意味がない、と主張する。かくして 肥満・糖尿・高血圧 などのメタボ状態が大目に見られる。

♣ でも、こんな乱暴・勝手な人たちも、いざ病気となると長生きを求める。だが、傷んだ体で長い老い先を望むのは矛盾であって、70 歳代で世を去ることは避けにくい。要するに限られた体力を乱暴に使えば早く終わりが来る、という分かりやすい理屈通りなのである。

♣ さて、2000 年に介護保険が実施されるようになると、医療で使われた QOLの考え方が、そのまま、高齢者介護にも使われるようになった。例えば 95 歳の人のQOLって何だろうか? 日本の実態は、その人の健康状態とは無関係に 「延命第一」 が尊ばれる。それ故に救命と延命がゴチャマゼになり 延命 → 胃瘻設置 の流れが受け入れられてきた。胃瘻は要介護 5 に相当し、年間経費が約 900 万円掛かるが、介護保険のお蔭で家族負担は極楽蜻蛉(トンボ)、日本は世界で独特の習慣の国になってしまった。

♣ 世界の先進国では「命の尊厳」を尊ぶがゆえに「延命胃瘻」を優先とは考えない。日本だって尊厳の考えは同じで、介護保険制度の「前文」には 「高齢者の尊厳と自立支援」 を目的とする、と書かれている。だが、胃瘻の現実は、延命に成功したけれど大部分の人は意識も会話もままならない状態を保持されている。何とかして生命の質(Quality)」を元通りに回復させたいと誰もが願うが、パールではこの状態を 9 年間続けておられる事例もある。

♣ あなたの場合、もし望まれたら Quality(質)か、Quantity? (量)のどちらを選ぶだろうか? え?両方だって? まあ、それも 王様・女王様 ならお金に飽かして叶えられるかも知れないが、いまや地球は過密人口の 70 億人、世界的には食糧難だ、どちらかを選ぶべきだろう。

♣ 私なら、「質素で自立できる老後」を選ぶ。でも、もし 自分が自立できない高齢になったらどうするかって? そのときは、「生命のルール」 に従ったら どうだろうか? その「ルール」とは、いま社会を支えていて健全な生命活動をしている人たちを優先することではないか?

♣ 地上の生命は 38 億年このかた、誕生・成長と繁殖・世代交代 のサイクルで発展してきた。老後を幸せに暮らす老人のQOLと、子孫繁栄の道を勤め励む若い人たちの QOLと、いずれも大切であるが、老人が過剰に若者に寄り掛からないようにするのも同じく大切ではなかろうか?

♣ あなたは今まで、大切なQOLと聞けば、それは お年寄りのQOLだ と思っていなかったか? はっきり言って、それは違う ! それは、社会を構成するみんなのバランスのとれたQOLのことなのである。

♣ なかんずく、これから育って社会を担っていく若者のQOLを一番先に考えなければいけないのではないか? 1884 字

要約:  命はありさえすれば良い、というものではない;その「質」が問われている。 社会が裕福になると、命の質と量(長生き)の両方が求められ、しばしば若者を犠牲にしてでも老人の命を尊ぶという流れが出てくる。 命の質とは老人と若者の「両方」の命の質である … 特に子孫繁栄に直接寄与する若者の立場を軽んじてはならないと思う。

参考:  新谷:「あなたの輪廻(りんね)」;福祉における安全管理、# 323、2012.

職員の声

声1: 私は QOLについて、Q = Quality(質)だけしか考えていなかった … Quantity(量)もQで表せることを今日知った;確かに「質」と「量」を混同しては社会に混乱が起こる(答: その典型が「胃瘻延命」だ; 生命の質を無視して量を増やすのは問題となっている)。

声2: 日本の高度成長時代に「贅沢+延命 = 高いQOL」と間違って定義されたのだろう(答: 人様のお世話になるのだから 「質素と自立」 を旨とすべきではないか?)。

声3: 私は質が良好であれば量にこだわらない;いつまでも若者の「寄生虫」でいたくない(答: 日本では「猿山に餌を与えて 猿害(えんがい)に悩んでいる人がいるけれど、猿の QOLと人間のQOLの区別ができないと困っちゃう。)。

声4: 老人のQOLを確保するために 若者のQOLを奪ってはならない、という お話の趣旨が心に残った(答: 退役軍人は大切に … しかし現役の軍人は もっと大切に、というのが賢い道ではなかろうか?)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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