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(658) 夕 暮 れ 症 候 群

 (658) 夕 暮 れ 症 候 群   

 もう 60 年も前のことであるが、戦後の作家・ 丹羽文雄 は 「嫌がらせの年齢」 という作品でこう述べている:―― 「老後を子供に頼るなどは、因習的な古臭い考えである … 時代は変わった … 一人一人が 自分の老後の準備をすべきである. . . . 」、と。

♣ 私は ぼんやり覚えているが、その頃 「嫌がらせの年齢」 という言葉は老醜 (ろうしゅう)を描いた流行語になったほどだ。しかし流行語の発端となった丹羽文雄は、ご自分の考えとは異なり、その後長命、しかも 「アルツハイマー認知症」 にかかり、自分の娘さんにさんざん面倒を見てもらったあと逝かれた。

♣ まあ、あの有能な レーガン米大統領 (在 1981~1989)や サッチャー英首相 (在 1979~1992)でさえアルツハイマー病を、国家の力強い背景があったにも拘わらず、予防することが出来なかったのだから 老人の希望が何であろうとも、齢をとれば認知症から逃れることは出来ないのかも知れない。

♣ また 現在の介護保険の導入に関係の深い 50 年前の小説 「恍惚(こうこつ)の人」 ;有吉佐和子の小説では、主人公で嫁の立花昭子が、「老人性痴呆」に陥った舅(しうと)の繁造に徹底的な意地悪をされている。その頃、私はこれを読んで気分が悪くなった … だって、まだ誰もそんな世界を身近に持っていなかったし、「老人性痴呆」 の実態など、まるで知らなかったからだ。有吉はその本の売り上げから得た印税 1 億円を老人施設に寄付を申し込んだところ、税務署から多額の税金を課されることが分かり、ビックリしたそうだ。まったく今昔の念に耐えない。

夕暮れ症候群

♣ さて前置きが長くなったが、今日のお話は 在宅サービスの K 様 (85 歳女性、認知症)についての観察だ。夕方になると(15 ~ 17 時)「物盗られ妄想」が現れ、「嫁が盗った、盗った」としきりに興奮される()。何の証拠もないのに、ナゼ犯人が「嫁」で、なぜ「夕方」なのだろうか? この観察をパールの 元・精神科嘱託医 の O先生にお伺尋ねしてみた。

O先生:―― 真実でないことを真実と思い込み、それに固執することを 「妄想」 という。この場合、本人が固執する妄想の中身を訊くと、およそ病気の診断ができる。「被害」 妄想は 統合失調 (分裂病) の、「罪業」 妄想はウツ病の、「物盗られ」 妄想は認知症(痴呆)の特徴である。

♣ その他、老人の妄想には 「帰宅願望」 があり、一括して 「たそがれ症候群」 と言われ、だいたい午後 3 時頃から夕方にかけて発生する。その原因は 「体と気分の疲れ」 から来ると言われている (幼稚園児でも観察される)。ナゼ「嫁」かというと、家族の中で 「一番の他人」 であり、いじめ甲斐があるからだろう。この場合、それは脳の病気による現象であるから カウセリングは無効 だと分かっている。

♣ 上記の丹羽文雄と有吉佐和子は 彼らの活躍時代が戦後の一時期だったから、まだ認知症という言葉もなかった。また、その実態を今のあなた方ほどは経験してもいなかったハズである。にもかかわらず、以前には語られなかった老人の奇妙な行動を、新しい問題として提起した彼はユニークだと言える。

♣ 現在の「認知症の実態」はすでに 700 年前の 吉田兼好の 「徒然草」にも紹介されるほどの古い歴史がある 。今ではこの名前で、認知症は社会に広く受け入れられている。高齢者のこの異常行動を、我々が理解したのはわずか 14 年前 (2004 年)のことだ ! その上 午後 3 時頃からその症状が強くなるという 「たそがれ症候群」 を、うら若い介護者が観察しているという ビックリするような新時代 の到来 !

♣ あなた方はこの平和で豊かな高齢者の時代にどんな感想をお持ちだろうか? 1508字

参考: 新谷:「痴呆以前」; 福祉における安全管理 、# 2 , 2010.

図の出典
http://tohnoyoriko-world.cocolog-nifty.com/blog/20...

参考:* 新谷:「痴呆以前」;福祉における安全管理 、# 2 , 2010. 

職員の声

声 1: デイサービスでは、夕暮れまで待って頂けず、朝から始まる帰宅願望もある… ビックリ しないでください ! (答: 自宅に居ても 自宅に帰りたい人を何でここに引き留めておかねばならないのか、我が仕事の重さを振り返る)。

声2: 「人は自分で老後の準備をすべきだ、という考えもあるが、もしボケたらどうしよう?(答: 若いときには自分がボケるなんて考えも しないが、現実の統計では「 85 歳で 50 %、90 歳なら 90 %が認知症」に陥る…その結果、人さまへの “思いやり” が消え失せ、他人依存の生活に何の違和感もなくなる)。

声3: 夕方の妄想に対応するには、ケアする人の「ゆとり」が必要だ(答: 一昔前まで、こんな症状は “きちがい” 扱いだった… 人権の整った現在では「科学の愛」で包まれている。

声4: 今の老人は老後を国が保証してくれる し、夕方に不機嫌になってもケアする人が心配して下さる … 立派な老人天国です(答:昔の老人は今の平均より 30 年ほど若く、自己責任で生きていた…今は “おんぶに抱っこ乳母車”、中心問題は認知症… どこかが間 違っているような気がする)。

              その昔の「職員の声」:--

声1: テレビで素敵なアイドルを見ると、嘘だと知っていながら恋心を感じる; これは妄想か?(答: 嘘だ … または 嘘かも知れない、と思うのなら それは健康な人の恋である、妄想の場合は病気であって嘘という気持ちは一切ない)。

声2: 確かに夕方になると 不機嫌になって帰宅願望を言い張るお年寄りがある); 一種の子供帰りなのか?(答: 子供は病人ではないから、「子供帰り」は正しい表現ではないが、認知症の “周辺症状” として広く認められている)。

声3: 認知症になっても 「嫁いびり」 をするなんてイヤになる(答: 認知症の周辺症状は それぞれの人の性格と環境によって異なる妄想があり、嫁いびりは その一つだ)。

声4: 嫁・ 姑ですごく仲良く暮らしている方も多い(答: 両者とも賢くなったからだ; しかし、あなたが 80 歳に、姑さんが 110 歳になったら、賢さだけでは問題が解決しない。本文の「恍惚の人」の場合、嫁をいじめたのは姑(しうとめ)ではなく舅(しうと)だった。 “妄想” を鍵 にして、これからの長命老人の福祉のあり方を よーく 考えたい)。


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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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