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(680) 3度目の 「六つのべからず」

  (680) 3回目の 六つの 「べからず」

  先週のヒヤリハット・レポートから一例を示す:―― 

♣ 「私は K さん( 96 歳女性)を夜間のトイレ付き添いをしていた時、外で人声とアラーム音が鳴ったので、座を外してこれに対応した ―― アラームは 「不眠」 の訴えだった――対応を済ませ 3 分後にトイレへ戻ってみると K さんは便器の外に転倒、強い痛みを訴えていた。救急搬送で病院は運ぶと、診断は 「大腿骨骨頭骨折」だと判明した()。

♣ 近日の夕刻の申し送りでは別の事件が報告された:―― N さん( 87 歳男性、アルツハイマー)は「ずり落ち・尻餅」の多い人で気をつけていたが、夜間のトイレ・ケア中に、遠くから呼び出し音があったので手助けにおもむき、すぐ帰ってみると N さんはトイレの傍でもう転倒していた … 幸いに怪我はなかった。トイレ内のケア中には外部対応に気をとられてはいけない、と教育を受けていたのに、迂闊(うかつ)であった。

3度目の「六つのべからず」

♣ このような報告は後を絶たず、悩みの種である。さて、「六つのべからず」 をお話しするのは これで 3 回目となる … 現場の職員にも言い分はあるだろうけれど、それほどにこの問題は深刻なのである。おそらく、各部署で語られた教訓はいっぱいあると思う。その教訓を 門外不出 にせず、集めてみんなの教訓にしたいものだと考える。ごく単純ながら、ここに復習してみよう。

ぐずぐず すべからず :――ナースコールが鳴る… これで何度目か?居室に行ってみたら P トイレ前で A さん( 98 歳女性)がベットの傍に倒れていて痛みを訴える … 同輩の協力を得て救急車を呼ぶ …左大腿骨骨頭骨折の手術となる()。今まで何度も転倒で呼ばれたかただったが、今回が “万年目の亀” 1 ) となってしまった。

後ろから声を掛けるべからず :――後ろから名前を読んで声を掛けたら、O さん( 84 歳女性)は、振り向きざま ゆらりと横転、左上腕骨折、病院で手術。お年寄りの三半規管の機能(平衡感覚)は落ちていることが多い。老人には加齢現象として「無自覚の微細骨折」が必ず存在し、それがちょっとした機会に本物の骨折に至る。まさに ”万年目の亀” 2 ) であって、不運を嘆かないようにしよう。

まさか ! と油断すべからず :――デイサービスの朝、流れ作業で送迎バスから玄関へ人の流れがある。お一人の M さん( 90 歳女性)が玄関のマットの縁につまずいて転倒、救急で病院の診察により 「鎖骨」 にひび ! .骨折でなく「挫傷」ですみ、ホッと胸をなでおろす。畳の「縁」の足を取られて転倒する老人はよく知られているが、玄関マットにも同じ問題があった !

外部で呼ばれても、持ち場を離れるべからず :―― Y さん( 88 歳女性)のトイレ・ケア中、遠くから呼び声がする … 氏に「動かないでね ! 」と念押しして、呼ばれた声のほうに行き、対応をすませ、元のトイレに戻ったら、氏はその場から移動していて、しかも転倒・骨折 ! … 考えてみれば、認知症の人に 「念押し」 しても “聞く耳” はなかったのだった。

押し問答すべからず :―― D さん( 79 歳女性)のトイレ介助、氏は私の同室を拒否 … 危険を感じたものの、やむなく氏を一人にして、トイレの扉を閉めたところ、氏は中ですぐに転倒、大腿骨骨折。私は責任を問われてしまう ――本人の意思を尊重したら事故になった … どうすればいいのだろう? 

♣  日頃 杖歩行でも、安心すべからず :――デイサービスが終わり、腰かけて帰宅順番を待っている時、A さん( 94 歳女性)は、ちょっと目を反した隙に、突然立ち上がり、一人で杖歩行を初めて 3 m 行ったところで、杖に足をからませて転倒・左大腿骨の骨折。ご家族は施設内の骨折であることを理由に 許して下さらず、医療費の全額支払いを求めた。

①~~⑥ は 何とみんな高齢の女性の認知症であった ! 認知症の最大の特徴は「意思が通じない・ 待てない」事であろう。こちらが言った事は相手に通じていないし、時間の観念が消失しているから 1 秒も待てず、発作的に立ち上がり転倒だ。初心者は高齢女性の 「このリズム」 を早く習得して欲しい。

事故への対応 (A) いちはやく上司へ相談、救急車も考慮、 (B) 家族やキーパーソンへ連絡、 (C) 家族への報告は “事故の事実だけ” を伝えること … 余分な解説や状況判断を付け加えてはいけない。個人の判断で善意に伝えても間違っているかも知れず、まして弁解やウソは絶対に言ってはならない――裁判沙汰になると苦境に立たされてしまう。

♣ 参考までに数値を述べる。パールの特養では大腿骨骨頭骨折の頻度が … 70 歳代で 20 %、80 歳代で 30 %、90 歳代で 60% … 90 歳代の過半数は骨折しており、さらに左右の両側骨折はすべて 90 歳代。つまり女性は高齢になるにつれ、まずは骨折する運命にある、という覚悟で介護に当たらねばなるまい。それだけに 「六つの “べからず” 」 という教訓は 「介護の金言」 とも言えるだろう。

♣ 人間は、動物の中で ムリな 二足歩行 を選択した生き物…それが有用なのは還暦の 60 歳頃までだ。戦前は人生 50 年の時代であり、還暦を遥かに超えた 90 歳代で二足歩行をするのは 付き添い無しでは危険だ、と気付いて欲しい。にも拘わらず本人たちは 無意識に 自分はいつまでも一人で歩ける、と錯覚し、その結果 転倒・骨折に至る。

♣ 現場での 色々な教訓は教科書に書いてないから、上記の 「べからず」 を うまく介護に活かして欲しい。2133字  

要約:   介護をしている目の前で骨折を起こした 2 例を述べた。 初心者でなくても、我々はつい気を許して骨折事故に出会ってしまう … 事前に注意する 「六つの “べからず” 」を述べた。 超高齢で “二足歩行” をする経験は、人生 50 年の昔にはなかった … 甘く見て些細なことで起こる骨折は後を絶たない … “べからず” を心に銘じて欲しい。

参考: 1 ) 新谷: 「万年目の亀」::; 福祉における安全管理 # 1、2010. 2 ) 新谷: 「しつこい腰痛と微小骨折」、 ibid # 647, 2017.

職員の声

声1: 「待っててね」、と言っても相手は 1 秒後には忘れ、転んで骨折だ(答: 思い出せ ! 中核症状の第一番目は「時間観念の喪失」だ… 認知症の人に「待つ」という時間観念は消えている)。

声2: 私は 18 年間勤務して、やっと「べからず」の気分が分かった――「心」では分かっていたが、「体」が覚えていなかった(答: 「べからず」に共通なことは「認知症とは何か」をキチンと理解し直すことだ、その中核症状とは何だったかを)。

声3: ① ぐずぐず、② 後ろから、③ 油断、④ 持ち場を離れる、⑤ 押し問答、⑥ 安心 … これら六つを守れば事故は激減するだろう、が、心せよ ! 人は失敗を起こすものである ! (答: 失敗に関しては「ハインリッヒの法則」というのがあって、失敗に気を取られ過ぎると、かえって失敗をしでかす)。

声4: 注意に注意を重ねても、転倒は年に何度か発生する(答: 二足歩行の高齢女性の転倒はごく当たり前だ… 問題は後ろに控えておられるご家族に 状況の申し開きが立つか否かだ… 分かっていただけるか?)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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