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(712) 誤 嚥 の 行 方

(712) 誤 嚥 (ごえん) の 行 方 (ゆくえ)

ビールを飲んでいる最中に大声で笑ったり、ものを食べている時 後ろから肩を叩かれたりすると、多くの人は ひどくムセ込む。涙が出ることもある。

♣ これは食物が間違って 「気管」 の方に流れたときに起こる反射的な咳の発作であって、これにより、空気以外の異物が肺に入り込まないように守られる大事な 生理現象 だ。しかし人が若いうちは ただそれだけの発作で済むが、高齢になると咳の発作だけでは済まされない … それをきっかけにし、健康状態が急変することがある。これを 「誤嚥」 と言う …「誤 (ご) 」は「間違って」、「嚥 (えん)」は 「飲み込む」 という意味だ。

♣ この間違った異物は口から入る 食物・ 唾や水分の他に 胃から逆流して 喉に上がった胃の内容物の事もある。この様子を 図 1で見てみよう。ふだんの呼吸をしている状態では空気は 鼻・ 口 から 肺へ流れる。ご自分の喉を触ってみよう。皮膚のすぐ下には硬い喉仏 (のどぼとけ) が触れ、それはとりもなおさず空気の通り道 = 「気管」 の一部を外から触っているのだ。
誤嚥の行方(ゆくえ)

♣ 空気は 鼻・ 口を通って、食物は舌の後ろを通って下方に流れる。そのさい、真っ先に出合すのが 喉頭蓋 (こうとうがい) だ。これは気管の始まりをふさぐ蓋であり、図 1 では箸のように尖って見えるが、実際は親指の爪の大きさであり平たい。この蓋 (ふた) はふだん 図の通りに開いた状態であるが、食物が通る時には気管の入り口をふさぎ、食物が肺の方に流れるのを防いでいる。喉頭蓋のこの作用は喉周辺の組織から起こる 「反射」 によって行われ、自分ではそれと気づかない。

♣ 今回のお話の中心になる 「誤嚥」 はここで起こる神経の異常反応であるが、その説明の前に 「脳神経 12 本」 の働きを見ておくと分かりやすい (図 2)。第 1 脳神経は食物の臭いを感じとる。第 2 から 第 8 脳神経までは、食物の美味しさを見つめ、会話をし、噛み 味わう神経、第 9 脳神経以下は食物を肺の方に行かないような働きをする脳神経である。つまり、人が物を食べ飲む時には脳神経 12 本のすべてがそれぞれ 嚥下の役目に貢献している訳だ。故障するのは 喉頭蓋を支配する第 10 脳神経だけではないのである。

誤嚥の行方(ゆくえ)

♣ 人は高齢になると一般に神経の働きがにぶくなる。これは脳神経において著明で、匂いは遠く・ 眼は老い・ 耳は難聴に陥る。脳神経の 1 番から 12 番にかけて (図の上から下へ) 働きがにぶって行くのである。

♣ その機能低下が 9 番脳神経以下に進むと、嚥下 (えんげ) 機能の低下、とくに小さな誤嚥現象が目立つ。「エヘン、ゴホン」 と ムセ や 咳払い が頻繁に起こる。言ってみれば、誤嚥とは脳神経の機能低下が第 1 番から始まって、とうとう終末の 12 番にまで及んでいる状態を示唆するのである。

♣ つまり高齢者の誤嚥の対策を考える上で、「喉頭蓋」 の機能修復だけを考える治療は意味が薄く、正しい目標は脳神経全般の修復を考えなければならない。つまり匂いがきちんと分かり (第 1 脳神経)、 眼も耳もしっかり(第 2 ~ 7 脳神経)、若者の顔の全機能 (さらに 第 8 ~ 12 脳神経) を取り戻す必要がある。

♣ しかし考えてみれば耳鼻咽喉科に相談しても、1 番から終末の 12 番に及ぶほどの広範な脳神経の機能低下を治療することは困難であろう。つまり、高齢者が誤嚥の徴候を見せ始めると それは 取りも直さず すでに 「脳神経の全部が かなり老化している」 事態を認めざるを得ないのだ。

♣ 誤嚥について一言考えよう。誤嚥とは 「喉頭蓋」 の機能不全によって食物が 気管・ 肺 のほうに流れることだった。ここで 「食物」 と述べたが、もちろん 「水」 も含まれるし、無意識な 「唾 (つば) 」 の呑み込みも関係する。さらに老人の場合、「胃」 に入った食物が上方に逆流して気管に入り込む事もある…この場合には 「酸性で刺激性のある胃液」 も入り込むので、事態を重く受け止めなければならない。

図 3 は、誤嚥によって介護困難の予後を推定した 3 症例の B.M.I. (体格指数) の経過を示す。縦軸は B.M .I. を (正常値は 18.5 ~ 25 )、横軸は 「年 (ねん) 」で 上段の症例・ H 氏 は 11 年間の経過である。H 氏は入所から 6 年目に誤嚥をされ、その後 3 年に亙って BM I が低下し続けたが、回復のたびに 再び誤嚥で低下、そのたびに入院・ 手当を行った。4 度にわたって低下が続き、ついに 6 年後、BM I の 死亡域 = 12 に達して亡くなられた。

誤嚥の行方(ゆくえ)

♣ 図の I 氏、J 氏は BM I の基礎 レベルが低かったので、誤嚥後 2 年ほどの経過で亡くなられた。他にも 「誤嚥、または不顕性の誤嚥] で BM I の直線的な低下と死の転帰が関係する例が多く認められた

♣ 誤嚥は、回復力の強い若い人の場合は特別な問題にはならないが、認知症や進行した老化の場合、 肺炎が誘発されても されなくても 、BM I 低下に繋がることが多い。そんな時には、脳神経 12 本の症状 (臭覚・ 視覚・ 聴覚など) を 1 番、2 番…と辿って分析し、「誤嚥の行く末」 を推定しては如何 (いかが) であろうか? 1869字

要約: 誤嚥は喉の喉頭蓋の反射機能が低下した場合に起こるが、周辺の脳神経の関与も少なくない。 そのような場合、脳神経 12 本の症状を指折り数えて嚥下 (えんげ) 機能の全貌を評価する必要がある。 ムセ・ 咳払い・ 誤嚥 が頻繁な場合、嚥下体操・ 口腔訓練 などを推進し、他方、B.M.I. の経過も観察、予後を推定することが勧められる。

参考: 新谷: 「誤嚥・ BM I とご逝去」、福祉における安全管理 # 555, 2015.

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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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