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(722) 環境と寿命延伸

  # 722: 環 境 と 寿 命 延 伸 (えんしん)  

  東京・ 渋谷駅の北口に 「忠犬ハチ公」 の銅像がある。恋人同士が待合う場所として 今なお使われている名所だ。パールの職員で朝夕この場所を通る人もある。

♣ ハチ公は飼い主が亡くなったあとも、「お見送り・ お迎え」 時間に渋谷駅に現れたことで 「忠犬」 として知られた。その頃 犬は戸外で飼われ、犬小屋があっても冬の寒さで肺炎を; 夏は蚊に刺されフィラリア感染症にかかる; 餌は残りご飯に味噌汁をかけ、など、生存環境にも今とは各段の差があった。昔 犬の寿命は 7 ~ 8 年、今の犬の寿命が 20 年に及ぶのと比べれば、2 倍以上の差がある。近年 犬の長い寿命は主に餌と環境の好転が主因とされる。

♣ ヒトの寿命も外部環境に著しく左右される。 昭和初期の頃に比べれば 平均寿命は 46 歳から最近の 87 歳 へと約 2 倍に延びた。人はこの違いの原因を 抗生物質や点滴など 「医療の進歩」 と理解する。それも否定できないが、普段 目に付かない 「生活環境」 の相違が意外に大きな鍵となる。

環境と寿命延伸

♣ 例を挙げれば:――昔風に 家族みんなの衣類の洗濯を 盥 (たらい) と 洗濯板 でやるとすれば、家庭の主婦は どんなに体力を消耗 (しょうもう) したことだろうか(図 1)? 毎日これをやっていれば寿命が擦り減ったに違いない。食品管理も同じくで 冷蔵庫はなく、献立の基本は 「一汁一菜」 ―― 麦ご飯のほかには “味噌汁” と 一皿の “目刺し” ―― 低栄養の上 お腹には多数の 「回虫」 が住んでいて栄養を横取りされる。食品事情が家族の寿命を支配したことは疑いない。また、日本式住居は夏暑くて 老人は脱水で倒れ、冬は酷寒の肺炎で命を刈り取られる; 寿命 50 歳にたどり着くのさえ至難の技であった。

♣ 現代の平均寿命 87 歳は 「医療の役割」 もさることながら、日常生活から生活苦が軽減された故でもある。その結果、寿命は延び、予想もしなかった 介護問題 に直面した。長生きとは このように多要素の絡み合いで達成されているのである。

♣ ここで今日の本論である 「寿命」 は 「平均寿命」 がよく用いられ、その “内訳” は 「自立寿命」 と 「依存寿命」 に分けられる。誰もが 「自立寿命を長くし、依存寿命を短くしたい」 と思うが そんなのはムリのようだ; だって長命の終の 10 年前後を自立で過ごせる人は稀ではないか? 1, 2)

♣ 別の見方で言えば、昔は 「内臓寿命」 が人の寿命を決めていた。ところが 今は 「脳寿命」 が、つまり脳の病気 = 「認知症」 が 人の寿命を脅かす時代となった。ハチ公は腸の寄生虫病で若くして死んだが、今の犬はベビーカーの上で大切に飼われ (図 2)、昔の 2 倍以上も長く生きる。だが、老いれば犬でさえ認知症になってしまう。

環境と寿命延伸

♣ さて ここで、命の福祉は 何が判断指標になりうるだろうか?それには 「尊厳」 とか 「幸せ」、などの立派な答えもあるが、誰にもが分かりやすい最終目標は 「長生きの程度」 ではないか?衣食住 の安楽、病気の治療など、すべての結果は 「寿命の延伸 (えんしん) 」 で決められるだろう。

♣ そこで、長生きの基礎は 「身体事情」 と 「環境事情」 に分けて考えてみよう。身体事情はヒトの遺伝子が決めている寿命であって、昔は 50 歳程度、今は 「人生 100 年時代」 とされる。だが、白髪・ 老眼・ 難聴・ 歯の喪失などは ある年齢に達すると本人の意志とはほぼ無関係に発生する … これぞ遺伝子がもたらす現象である。

♣ 他方、環境事情は上記の 「二つの絵」 を比較すれば 目が覚める思いではないか?―― 人間は昔風のきつい環境で寿命は今の半分; 他方 今の犬は 車椅子に乗せられて安楽な寿命は 2 倍。 え ? 環境ってそんなに影響が大きいの? ―― その通り、凄く大きい。

♣ 千年前の人間の遺伝子は今とほとんど違わないが、縄文・ 弥生の時代、寿命は 25 年程度、今はその 4 倍に増えた。だが 恐るべし、今 100 歳の人は多かれ少なかれ 認知症 であり、よってこれが最大の身体寿命・ 環境寿命の上限であることを知る。

♣ 世の中には身体・ 環境の実状を無視して、人間の寿命は 600 歳 間違いなし 1 ) ・ いや 1,000 歳まで延ばせる 2 )、 などの説がもてはやされている。が、老人の傍で暮らす介護・ 看護・ 医療人はそんな説にちっとも興味を示さない。なぜって人は 100 歳、犬も 20 歳で認知症になる現実をよく知っているからだ。

♣ 私らは今、家庭で また施設でお年寄りたちと生活していて、彼らの 末(すえ)永かれ ! を祈るが、時には目を醒まそう … 今の日本の現実は 「哺乳類動物の極限寿命」 を見ているのだ、と 3 ) 。パール・ 特養の平均寿命は 20 年前で 89 歳・ 現在が 89.9 歳で最高が 108 歳。何も変わっていない 4)

♣ その上、超長寿と認知症は同じものの 二側面 なのだ。ここで一服して、寿命の延伸祈願は もうやめよう。我々は今、可能性の上限に達しているのだから、騒ぐことなく 今の満足を微笑んでみつめては如何だろうか? 1990字 
 
要約:  ヒトの身体寿命とは、 「生活環境」 が最良のときに期待できる 「天与(てんよ)の寿命」 である。 生活環境は変えられるが長生きの遺伝は動物の種 (しゅ) によって定まっており、ほぼ変えることはできない。 過去の寿命の延伸は 50 年に及んだが、人類はその限度に達した今、いろんな雑音を気にすることなく、現状の幸せを享受することこそが本当の幸せだと信じたい。

参考:  1 ) 新谷: 「ついに 600 歳か?」;福祉における安全管理 #401, 2013. 2 ) 新谷: 「寿命、え? 1,000 歳 ! 」 、 ibid  #582, 2016. 3 ) 新谷: 「ライオンの 3 倍も生きる」; ibid # 616, 2017. 4 ) 新谷: 「棚ボタ七つ」、 ibid  #707, 2018. 5 ) 新谷: 「本当に人生 100 年時代なのか?」、 ibid # 709, 2018.

職員の声

声1 : 今二十歳の私が百歳の高齢になったとき、幸せが訪れて来るでしょうか? (答: 今の百歳の方々が幸せであると観察なされば、あなたにも きっと幸せがやって来るでしょう)。
 
声2: 超高齢で、しかもみな認知症だ、という現実をみると、ヒトはそもそも 100 歳を迎える生物ではないと思うことがある (答: データを良く観察して欲しい――百歳寿は人口の 0.05 %、つまり 2,000 頁の辞書の 1 頁に相当する少数である 5 ) 。よって、百才寿とは、無理を承知で やっと超長寿になった「希少」な人々であり、統計分析の感想は不要ではないか?)。

声 3: 環境を無限に良くしても、長生きの限度はもう頭打ちだ 3 ) (答: (こよみ) の寿命ならまだ延びる余地はあるのだろうが、その前にまず認知症を退治しなければ どうにもならない)。

声4: どんなきっかけで長命時代が訪れたのか――豊かな栄養で?スポーツで? (答:(さかさ) に考えればすぐ答が出る――従来の死亡原因は 「戦争・ 飢餓 (きが)・ 外傷・ 感染症」 を筆頭として、皆 若い。 これら全部がほぼ消えて無くなった結果、人は長命にならざるを得ず、やっと老衰の果ての死にたどり着くのである)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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