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(726) 依 存 症 と 底 つ き 体 験

(726) 依 存 症 と 底 つ き 体 験     

今日は 精神科医の O 先生のご指導を受けたので、依存症の症例についての検討をする。

♣ 在宅介護をご利用の A 様( 87 歳男性 要介護 1 )は 競馬の馬券を毎週やっておいでだ。昔は給料のほとんどを競馬につぎ込み、奥さんとのトラブルが絶えなかったそうだが、今は少額の掛け金になった —— しかし私は A 様の在宅訪問で、介護の仕事よりも 馬券トラブルの相談のために時間を取られて ほとほと困っている。なぜ老齢になっても 「ギャンブル依存症」 は治らないのだろうか?

♣ < O 先生 > 依存症とは、ある種の快感や高揚感を伴う特定の行為を繰り返し行った結果に、または 精神に作用する化学物質の摂取や、その刺激を求める抑えがたい欲求が生じ、その刺激がないと時が過ごせない状態のことである。依存は 二種類 あって、「物質」 への依存 (酒・煙草・薬物など) と 「過程」 への依存 (ギャンブル・パチンコ・インターネット・スマホなど) がある。

♣ これらの依存元は脳に作用し、「ドーパミン」 と言う興奮物質が放出され、それが喜びや快楽をもたらす原因なのだ。この機序はサイクルになって 無限に続き、更なる次の刺激を求めるようになって、とどまることはない(図 1)。さて、次に具体例で検討してみよう。

依存症と底つき体験

♣ 上に述べた A 様のように、ギャンブル依存症は このサイクルが止めどもなく回り始めている。これは 「病気」 とは言えないが、サイクルが止まらないのは本人の 「性格」 が大きく関与している。

♣ 一般に、あることに のめり込み、“自己の存在感” が希薄になる依存症は 「性格が主原因」 であり、性格を精神科的に治すことは 非常に困難である。カウンセリングも成功しにくい —— ご存知かどうか、「性格」 とはその人固有に備わっている性質であって、それ自身は 「病気ではない」 ので、基本的に治すことには馴染まない !

♣ 依存症は治療のために入院する方法もあるが、入院中に治っても 退院すると元の木阿彌 (もくあみ) が少なくない。それに打ち克つためには、本人が 自分の依存症をこれ以上 続けたら 「人生はダメになる」 という死に物狂いの自覚( = 底つき体験) がないかぎり、回復は うまくいかないようだ。

♣ タバコの例で底つき体験を示すと、私の尊敬する親戚がタバコを どうしても止められなく、怖れた通りに進んだ 「肺ガン」 を見つけられたので、禁煙した … これが 「底つき体験」 であるが、時 遅し、結局亡くなり、ご家族は大きなショックを受けられた。

♣ また、パールでは先月、95 歳の女性症例が 慢性閉塞性肺疾患 で痩せ細り、何ヶ月も続く呼吸困難の中で亡くなられた ――入所される前の寝床の周りを見聞すると、タバコ の焼け焦げだらけであった。いずれの例も 「底つき体験」 があっても、自分で喫煙の害を軽視した道筋なのであった。

♣ お酒で失敗し、仲間から煙たがれる人は全世界で山とあり、可哀相だけれど、薬では治らない。結局 「底つき体験」 が訪れるまで待つより良い方法がないようだが、稀にはそこから脱却される人もある(図 2)。
依存症と底つき体験

♣ 酒依存の場合 「アノニムス」 (断酒 友の会) で命を繋ぐ人が多いので有名だが、一般に 「性格」 が根底にある病気は治りにくい。このような家族や友人が 「依存症」 で困っている人がいたなら、助けるのではなく 「底つき体験」 をしてもらうために 「突き放す勇気を持つこと」 が 本人のためには大切だと言われる。

♣ 人は 85 歳で人口の約半数が 「認知症」 にかかると報告される。認知症になると 「酒・ 煙草・ 薬物・ギャンブル など」 とご縁が切れるのが普通だ。少なくとも パールの施設介護では依存症の方は お一人もいらっしゃらない —— だから高齢者の依存症は 若い頃の依存症の名残りなのだと言われている。

♣ 病院で 酒・ タバコ の相談外来は古くからあるが、最近では 「ギャンブル外来」 も出来、新しいものでは 「スマホ外来」 さえお目見えしてきた * 。しかし、残念と言うべきか、老人とスマホはご縁が遠い。その理由の第一は 「文字が小さ過ぎて読めない ! 」 、第二はオプション (自由な選択肢) が多すぎて古い頭にはなじまない」 ことである。ただし 「歩きスマホ」 とか 「自転車スマホ」 は中年の男女にまで中毒者が増え、毎日の社会問題になってきた。

♣ 底つき体験は英語で “Hit the bottom” と言い、まさに 「どん底を経験する」 ことを示す。酒の場合は 「たとえ底が見えていても、やめられない」、タバコやスマホの場合は 「大事件が起こって、初めて目が醒める」 。傍から見ていたら、せめて 酒量・ 本数を少し減らしたらどうか、と助言するけれど、図 1 のように 「ドーパミン」 というホルモンからの束縛は巨大なようだ… やっぱり「底をつく」までどうにもならないのか?

♣ いわゆる 高血圧・ 糖尿病 などの 「生活習慣病」 はすべてこの悩みから出発する。近年はそれが更に広く解釈され、ガンや認知症もここから派生すると言われる。気を付けるべき現在である ! ! 1998字

要約: 依存症は何事にも限らず、手ごわい習性であり、その根っこがその人の 「性格」 にあるのだから、とても治りにくい。 現在のところ、本人が 「底つき体験」 をするまで待つほかに良い解決法はなさそうだ。 酒・ タバコ や薬物 に限らず、近年は ガン・ 認知症 に至るまで依存症が原因であるとの嫌疑がかけられている。自分をよく振り返ってみよう。

参考: * 新谷:「スマホ呆けとシナップス」; 福祉における安全管理 # 637, 2017.

職員の声

声1: 歩きスマホの 「底つき」 とは何だろう?(答: 歩きスマホなら たぶん 自動車に跳ねられることか、また自転車スマホならお婆さんへの衝突致死事件だろうか)。

声2: 競馬依存 と言っても、馬の血統や性質の根本を調べ分析するだけなのに、こと勝負とお金が絡むとギャンブルに化ける… 口惜しいことだ(答: 花札や麻雀でも同じこと、悪いのは システム ではな く 「お金」 です。

声3: 依存症は認知症になっても続くのか?(答: 認知症の中核症状の中で、 「判断力・ 失認・ 失行」 などは一見間違えられるかも知れないけれど、本人の様子や日替わりの態度ですぐに 区別できる)。

声4: どこまでの体験が 「底つき」 だったのかが分からないと 一生 依存症と言われるのか?(答: 底つき とは 「自分の命が懸っていること」 であり、ガン になってしまった、とか 飲んで運転して電柱にぶっつかり、半身不随 になった 等である … それより 軽い経験なら無視されてしまう)。  

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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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