(89) Drug Lag (新薬の承認遅延)

  (89) Drug Lag (新薬 承認の遅延) 

 今日の表題の意味は すぐには分かりませんね。これは 直訳 = 薬の(drug) 遅れ(lag)という意味で、正式には「新薬 承認の遅延」です。

♣ ご存知、外国には良い薬があるのに、日本では まだ使えない、むざむざ死ぬ命を救えない . . . と言う声が パールの「職員の声」の中にもありました。よく効く薬を早く安く開発して欲しい、いま厚労省に申請がある外国製の新薬をすぐ認可して 市場に出して欲しい . . . 当たり前の希望です。厚労省に認可希望で 検討中の新薬は 今200~300種類程度あるそうです。しかし 早く認可できない大きな理由が三つ あります。

① 新薬の副作用の問題; (1)= 過去に“悪魔の薬”と呼ばれた「サリドマイド」があります。睡眠薬なのに、これを飲んだ世界の妊婦からアザラシっ子が生まれて、世界中に禍根を残し、発売元のドイツの製薬会社の名声はガタ落ちになりました。

♣ 他にも私たちが覚えている副作用として、(2)= 血液製剤によるB型肝炎、C型肝炎、エイズ などがあり、現在ホットな賠償問題として取り上げられているのは (3)= 肺癌治療薬のイレッサです。肺癌は喫緊の問題ですから、厚労省は優先規定によってイレッサを審議・承認しました。ところが、半年の間に、副作用である「間質性肺炎」が多発し、2010年の9月までの死亡が819人を越え、厚労省は国家賠償の提訴にあえいでいます。アメリカなどでは国家の健康保険がないので、副作用賠償は製薬会社が主に自己責任で対応するので、薬の販売は迅速に行えます。逆に日本では国家賠償になるので、「急ぐこと」には慎重にならざるを得ないのが実情です。新薬販売の審査期間は欧米で平均 1.5年、日本で3.5年とされます。

 厚労省が認可する前段階に「二重盲検による治験」が必要です。ダブル・ブラインド・テスト、思い出しましたか? ** 新薬が はたして効くかどうかを調べるために、医師・患者いずれにも分からないように仕組んだ「実薬と偽薬」、これを何ヵ月か使います。すべてが終了したあと「鍵」で「実薬・偽薬」を見分け、統計処理で両者の効果・副作用の違いを検討します。この方法は科学的・合理的ですが、医師・患者いずれも参加したがりません。医師側の理由は「一人の患者にかかる仕事時間が約10倍繁雑になり、責任は重大、その医師の業績上の評価はゼロ」、また、患者側の理由は「偽薬を飲まされるかも知れないって、そんなのイヤだ!キチンと治療して欲しい」に尽きます。だから二重盲検試験は遅々として進みません。国民全てがボランティア精神に富んでいなければ進行は困難です。

最後に一番問題となるところ= 患者と国家の利益対立の問題 です。すでに不如帰(ほととぎす)*** の「浪子と武夫」でお伝えしましたが、20歳の結核に使う確実な薬なら、たとえ高価であっても国は使うでしょう;だってコスト・パーフォーマンスは誰の目にも明らかだからです。しかし高年齢対象で、進行癌治療薬となると、副作用でコケる可能性の高い薬(イレッサなど)は審査に時間を掛けるのが賢明だったのに、わずか半年の審査と急いだので、あとで苦しみました。さらに慢性疾患の認知症を考えるとき、現在広く用いられている ある薬は原因治療薬ではなく、むしろ「お守り薬」に過ぎないでしょう。その年間コスト = うん百億円は国民の税金で支払われるのですが、考えると ため息です。厚労省が同効・異種の薬を承認すると、さらに それを上回る予算が必要です。「浪子」の場合と違って、認知症は コスト・パフォーマンスの点で苦しい所ですね。

♣ 私はドラッグ・ラグの味方をしませんが、以上の三つの壁: ① 迅速性、② 安全性、③ 低コスト性は、“言うは易く 取り外すは難し”です。このことは介護の現場で働く皆さん方も知っておいて下さい。皆さん、立ちはだかる壁を取り崩す努力に協力して行きましょう。

  参考 パールの安全管理 #36: プラセボのひみつ。 ** #77:薬って何に効くの? *** #83: 不如帰(ほととぎす)

職員の声

声1: 日本だけ 新薬の承認が遅れている感じ;各国が足並みを揃える工夫は出来ないのでしょうか?(係り:昨日パールに入所された方は10種類の薬を持参されました;日本は健康保険で、実質的に薬がタダも同然、だから多種を大量に用いられます。たとえば ある認知症薬は初期の一年以内にしか効きませんが、何年間も使われます(一錠 450円、一年で16万円のムダ)。老人の薬は諸外国のように “無し”にしたい、少なくとも 2~3種類にとどめたいです。そうすれば各国と足並みが揃えられるでしょう)。

声2: 薬が効くって、誰か他人で試して安全性を確認する必要があるのですね;これは困った ! 私は遠慮いたします(係り:イギリスのジェンナーは「痘瘡」の薬のテストを「我が子」で行い、歴史的な名声を残しました)。

声3: 良い薬を使いたい、でも副作用テストを受ける気持ちはありません;私は身勝手ですけど。

声4: そもそも 二重盲検試験は「危険」ではありませんか?係り:政治における民主主義のようなものです;これよりベターなものがあるでしょうか?昔は製薬会社が“効く”といえば それに従うしかなかったのです)。

声5: 新薬承認に3年半かかるって、その間、何をしているのですか?(係り:二重盲検試験の被験者が揃うのを待っています;日本は臓器移植でも、もらう人は多く、あげる人は稀です;新薬の恩恵は受けたいけれど、テストはイヤ、という国柄なのです)。

声6: 認知症の新薬に対し、家族は必死です(係り:費用対効果の問題を解かねばなりません;問題は「それって、薬で治る性質の病気ですか?」が問われます。幾兆円もの財源を調達する必要があります)。

係りの印象

 私は “Drug Lag” で 日本の新薬承認遅れの現状を三つに分けて説明しました:①迅速性、②安全性、③低コスト性。残念ながら、職員のほとんどは この説明に対して「聴く耳」を持っていませんでした。「職員の声」で はっきりしたことは、「薬の副作用テストは外国人の体でやって欲しい」;「効く見込みのない薬であっても、身内の人の病気に対しては早く安く使って欲しい」でした。これはトンデモないエゴイズムです ! 外国で使っているのだから日本でも早く使わせて → 外国では一日に10種類も15種類も薬を飲む習慣はありませんよ ! それに、もし副作用が出たら、その外国の政府に補償を求める気構えがあるのですか?それとも日本の厚労省の責任を追及するのですか? 日本人は勝手気まま過ぎます。臓器移植だって、子供の臓器は日本人からの調達禁止ですが、外人の臓器ならOKですよね。日本人のモラル(道徳性)は地に落ち、モンスターやクレイマーは増え、そんな日本は尊敬されず、デフレも回復する気配がありません。今後15年間は、モラルの低下した日本人の高齢者が ますます増えるばかりです。果たして いつの日か 日本に幸福が訪れて来るでしょうか?
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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