(94) 安息の心と B.M.I.

(94) 安息の心と B.M.I.     

  今日のお話は、ご夫婦でありながら、亡くなり方が大きく違った例を取り上げます。

♣ ある特養施設「せんねん村」の施設長は、「自然に命を終える手助けをしたい」という活動に取り組んでおられます。その特養のご利用者のS.S.様(99歳女性)の夫は、介護保険の始まる10年まえ(平成元年)、心停止状態で倒れ、心肺蘇生装置のもと、家族との面会は一切できないまま、一週後に死亡されました。S.S.様は、夫の死を看取ることができなかったことを心から悲しまれ、このことがきっかけで、ご自分の最期については延命治療を希望せず、住み慣れた2年半の特養の部屋で、子供たち・介護士たちに見守られつつ、静かに安らかに亡くなりました。

♣ 穏やかな死を実現したのは、その特養独特の「事前指定書」でした。施設長は、「本人が望まない治療を続けるのではなく、自然に命を終える手助けをしたい」と考え、あらかじめ本人・家族からの希望を聞き取り文書にして「事前指定書」を考案しました。昨年亡くなった21人中約6割が指定書の内容に沿う形で看とられた、と言います。しかし、はたして、これで良かったのかとの葛藤もあり、刑事責任を問われるのではないか、との不安もあるそうです。

♣ そもそも医療というものは「痛みを和らげる、怪我を治す」ことからスタートしたのです。しかし、その力は期待するほど強力ではなく、ほんの60年まえまで、結核の延命さえ十分ではありませんでした。ところが、医療が発達した40年まえには、結核の延命が可能となり、その勢いに乗って、結核どころか、「あらゆる病気は延命の対象」となり始め、世界的に「病気は撲滅できる」という信念が1970年代に広がりました。I.C.U.(集中治療室)やC.C.U.(心筋梗塞治療室)、N.I.C.U.(新生児未熟児治療室)などが林立し、覇を競い、かなりの良い成績を治めました。その結果なのでしょう、平均年齢は50歳から、どんどん延びて、近年では90歳に近づきつつあります。たまたま日本はバブルの成長を遂げ、またそれが破裂し、経済の不況と重なったことにより、「延命」へ突き進んできた日本の医療が、今や「どう命を終えるのか」という難題に直面し始めました。

♣ 2000年に「介護保険」がスタートしたのは 良いタイミングでした。介護活動は医療と近い関係にありますが、主力は あくまで「介護」にあります。ところが、人間の心は簡単には変えることはできず、「うちのぢぢ様・ばば様の命を延命して欲しい、一分でも一秒でも長く . . . 」という声は、医療の現場と同じように多いのです。こうなると、ご利用者を病院へ救急搬送・心肺蘇生の道に乗って頂くことになり、ご本人も、ご家族も 塗炭の苦しみ を味あわれてしまいます。

♣ しかし、最近は「人の命には限りがある」という達観も世間に徐々に浸透してきました。そして今や「自分の最期は自分で決める」となりつつあります。中には「延命不希望の書」を自筆で提出される方もあります。パールでは 全員に「Informed Consent」(説明と同意の書)を取りまとめ、その前に ① 「病気の時、病院受診を希望しますか? ② 経口摂取が不可能になったとき胃瘻をつけますか? ③ 救急蘇生を望みますか?」の 3点 をご家族との会話で十分に話し合ったうえで書面にします。これらの場合、認知症のご本人の希望は聞くことが叶わず、「自分で決める」のではなく、「ご家族が決める」こととなります。

♣ 私どもは 資料として「入念な介護とその記録」、毎月測定する入浴時の体重から割り出す「体格指数 BMI の経過図」をお示しします。BMIとはBody Mass Index(体格指数)で、この値が12に近づくと、ふつう天寿の終点となります。BMIの経過図 が どんなに客観的な判断の支えになっていることか、を強く感じております。

♣ お看取りに「悩み」は尽きせません。しかし、ご本人とご家族で「決められた人生」と BMI≒12が一致するとき、**私どもは、そこに なにがしか 天寿の安息を見出すことができるのです。

  参考: 新谷冨士雄 新谷弘子:体格指数(BMI)から見た生と死の狭間。老人ケア 33:12~23, 2010. なお、この文献はパールのホームページの1頁目からリンクできます。**パールの安全管理 #33:天寿の終点は B M I = 12.0。 

職員の声

声1: 今後 人は「どのように生きるか」ではなく「どのように死ぬか」が重要になります(係り:一般の死生論ではなく、あなたがご利用者を「どのようにお看送りできたか」が問題なのです、看送ったあと、あなたの心に“安息のひととき”がありましたか? )。

声2: 私は自分の死に場所も決められません(係り:ご心配なく! あなたの死に場所は他の人が決めてくれます;問題はご利用者の死に場所をご家族と一緒に考えてあげてくださることです、ご家庭で?施設で?それとも病院で?)。

声3: 自分はどのような最期を迎えたいのか、今後の課題です(係り:ご自分の最期ではなく、「業務で看取るご利用者の最期が問題」なのです;つまり欧米では 高齢者の末期に“医療も食事介助・胃瘻等もしない”のですが、日本では 死に行く人を死なせようとしません)。

声4: ご利用者を病院にお連れした後、いま病院に滞在しているのに「治療をしないでください」という ご家族があります(係り:施設と病院の間を幾度も往復された場合、ご家族は精根尽き果ててしまうでしょう;そういう場合にこそ、施設で 心を込めたお看取りが大事になります、気持ちを開いてお話し合いをしましょう)。

声5: 99歳の この方のご家族が延命を希望しなかった、とは驚きです(係り:延命の定義は複雑ですし、私たちの仕事は 一口で言えば 医療と全く同じで、「心を込めた介護で延命貢献」にあります;それが 第三者の希望に叶うか 叶わないかは 第三者の主観的な問題ですね。ですから 自分の尽力に対して自分が“安息の心”を見出すことができれば、それで十分なのではないでしょうか。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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