(97) えんげのひみつ

 (97) えんげのひみつ  

  早速、実験をしましょう。みなさん、ご自分の口の中に唾をためこみ、ぐっと飲み込んで下さい。できましたね . . . 何か感じた感想がありますか? そう、飲み込む時に 歯をぐっと噛みしめましたよね。次に喉仏がコックンと上がりましたね。気がつかなかった? では、もう一度やってみましょう。今度は口を開いて、歯を噛みしめないで飲んで下さい。飲めませんね。やはり 歯を噛みしめますか?しかし、喉仏を手で抑えて、喉仏が上のほうに上がらないようにします。出来ましたか?やっぱり飲み込むときに、喉仏は勝手に上がってしまいましたね。

♣ このように、ある生体現象が自分の意思によらずに行われる事を「反射」と呼びます。反射経路は「感じる場所」→「求心神経」→「脳」→「遠心神経」→「効果筋肉」の順で流れて行きます。他の例で有名なのは「膝蓋(しつがい)反射」「瞳孔反射」などがあります。今日の話題の嚥下(えんげ)は「嚥下反射」と呼ばれ、食物や液体が喉の奥に触れた場合に それを「飲み込む反射」であり、関係する神経は脳神経8本、脳は主に延髄(えんずい)、効果筋肉は9種類あります。この反射経路に故障が生じると、ややこしい事態が発生します。それを「誤嚥」(ごえん)と呼びます。

♣ 私どもの「喉」は「食物と空気」の両方を通しますが、普段は呼吸のために空気専用の通路(気管)が通じています。気管のてっぺんには蓋(ふた)がついており、「喉頭蓋」(こうとうがい)と呼ばれます。もし食物が口から喉の奥に到達すれば、喉頭蓋は反射的に閉じられ、食物が気管に入り込まないようになっています。正常な人でも、稀に間違って食物が気管に入ることがありますが、この際には、激しい咳反射が起こり、気管に入った異物は外に吐き出されます。

♣ 高齢者では「誤嚥」が起こりやすいですが、その原因は①「異物の感知機能不全」と、②「延髄の機能不全」にあります。① は舌とその奥の粘膜感受性が 老化によって低下し、喉に入った食物の信号を脳にうまく送れなくなります。② 延髄には呼吸中枢などの生命の基本中枢があり、呼吸や体温を調節する場所であるとともに、嚥下を調節します。普通の認知症や脳血管障害の場合では、脳の表面の機能が障害されるだけで、延髄は無傷です。ところが、経過の長い脳疾患では、脳底の延髄にも病変が広がり、嚥下障害が誘発されます。老人性の誤嚥は、たんに摂食事の誤嚥のみならず、睡眠中の唾(つば)誤嚥(不顕性誤嚥)1) をも起こします。

♣ 日本医師会の統計2) によると、要介護者のほとんどは人生の最期に誤嚥性肺炎 を起こします。半年以上寝たきりの要介護者にI.V.H.など「点滴のみで栄養補給」を行うと、平均予後は3ヵ月程度です。誤嚥性肺炎を予防するために 胃瘻などの経管栄養をすると、意外にも逆流性肺炎の併発があり、亡くなるまでに3回以上も肺炎をくりかえして、悲惨な状態になることが知られています。

♣ さらに、日本では、年間 6万人の要介護高齢者が経管栄養を受け、平均1 年2ヵ月の余命で、お一人の経費は900万円、このことは あまり知られていません。パールでは T.A. 様91F は胃瘻にした後、今4年以上ご存命中で、パールのほうが厚生省データより一般的に長い余命です3) 。そのぶん、経費がかさむのは やむをえないでしょうか。

内視鏡的胃瘻は1980年にアメリカで開発された手技ですが、本家のアメリカやヨーロッパでは、非倫理的手技とされ 下火です。高齢者の延命胃瘻は「必要悪」なのでしょうか ? 日本ではこの問題に触れるのは「タブー」となっているようです4) 。/ 今日は「えんげにまつわる話題」をお伝えました。

参考: 1) パールの安全管理 #14: 垂れ込み肺炎。2) 佐々木英忠:高齢者肺炎における誤嚥性肺炎の重要性:日医雑誌 138: 1777~1780, 2009. 3) #40: 食べられぬなら無理せず。4) #76:胃瘻のメリット・デメリット。

職員の声

声1: 私は嚥下を一日何回するのでしょうか?食事・唾・ビールを含めると1000回くらいする?その数だけ嚥下反射が 無事に繰り返されるのですね(係り:神様に感謝したくなるでしょう?)。

声2: その反射に関わるものは、神経8本・延髄中枢・筋肉9種類、まるで ちょっとしたオーケストラのようです(係り:指揮者(脳)がしっかりせねばね ! )。

声3: 食事介助によって誤嚥は防げないの?(係り:アイスマッサージといって、氷水で冷やしたスプーンで口の中をマッサージすると むせにくくなる;または 粘剤としてのカンテンは食品を舌の奥で散らして 嚥下を妨げるけれど、ゼラチンは舌の奥で食塊を中央にまとめて飲みやすくする作用がある . . . など、ノウハウの各論は色々です;ネットで調べ グループで取り上げてみてください)。

声4: 胃瘻1年2ヵ月で900万円とは、私の収入ではムリです(係り:ヒト一人の命は地球より重い ! とおっしゃった日本の総理があります;また借金という手があります)。

声5: 胃瘻をつけても、睡眠中に唾を誤嚥するって知りませんでした(係り:唾1cc中に含まれる口内細菌数は1億匹 5)  、これが気管支に入って肺炎を誘発します)。

声6: どうすれば 健康な肺が維持できるのだろう?(係り:口内の清潔、および堂々めぐりになりますが、栄養と免疫を高めることに尽きます;だって若いあなたは 少々誤嚥して心配はないのです)。

声7: 欧米で延命胃瘻が下火な訳は?(係り:生と死の境界が不明確になるから、とされますが、宗教や金銭が絡むのかも知れません)。

  5) (参考: Sheril Kirshenbaum: 20 Things You Didn’t Know About Kissing, Discover Jan-Feb: 96, 2011.)
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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