(112) 入浴と洗浄の智恵

(112) 入浴と洗浄の智恵    

  新しくパールに就職された方が増えてきましたので、今日の「リベラル・アーツ」は復習* を交えて新しい話題を提供いたします。

福祉では「身体の清潔保持」が大きな問題です。でも、お年寄りは昔から居たのに、いったい、昔はどのようにして清潔を保ったのでしょうか? 入浴とは、人が身体の清潔を保つことを目的として湯や水・蒸気などに身体を浸すことを指します。日本人は入浴が好きで、早くから温泉が好まれていました。しかし、普通の生活で「お湯につかる入浴」とは、いつごろにできた習慣でしょうか? 第一、どのようにしてお湯を沸かしたのでしょう?

♣ 当然のことながら、お湯は釜で沸かします。釜は「鉄か銅を細工したもの」でできているでしょう。千年まえ、「枕草子」の清少納言のころ、そんな金属加工品は存在しませんでした。そのころの入浴とは、主に「たらい行水」でした。または、高温に加熱した石に水をかけることで蒸気を発生させて「蒸し風呂」に入ったのです。「お湯にゆったりと身をまかす」という現在の入浴は、当時では、温泉でしかできない高級な遊び でした。

♣ 400年まえの江戸時代では、どうだったでしょう? 江戸っ子は風呂が好きという点で、有名です。そのころには金属の釜はあったかも知れませんが、江戸の人口100万人が風呂に入ると、ひと夜にして燃料の杉の木5万本程度が燃え尽くされます。十日に一度入浴するとしても、一年で杉の木が2000万本消え失せることになり、毎日入浴すれば、山は禿げてしまいます

♣ 日本で、毎夕 入浴する習慣が全国的になってきたのは、ごく最近のことで、家庭内に瞬間湯沸かし器や水道水の普及が進んだ「高度経済成長期」以降のことです(1960年頃)。燃料は主に格安な「薪・石炭・石油・天然ガス」であり、おかげ様で山は禿げなくてすみました。つまり、入浴習慣を支えた基本は、入浴嗜好や金属加工技術ではなく、安い「燃料の確保」だったのです。だから、それ以前の時代では、高齢者に限らず一般人は、いまほど清潔ではなかった、と推定されます。外国でも、フランス王ルイ14世が初めて入浴したのは7歳の時だった、などの記録があります。

♣ 25年ほど前(1985年~昭和60年ころ)日本がバブルの真っ盛りのころ、テレビで 可愛い女の子たちが「肩のフケ もうナシね ! 」と言いながら 自分の肩のフケを払いのけてニッコリほほ笑む広告が人気を呼びました。つまり、そのころまで、ティーンエイジュヤーの肩に残るフケは(男女とも) ごく普通の現象で 避けることはできなかったのです。それまでは石鹸であったものが、化学洗剤のシャンプーとリンスの登場により洗浄能力は抜群な時代に突入し、オシャレのムードとともに、女の子たちの肩からフケが消えて行きました。

♣ それどころか 時代は「朝シャン」なる言葉の登場を迎えました。朝シャンとは「毎朝 女の子が自分の髪をシャンプーしてフケを取り、つや出し剤のおしゃれをして出かける」という流行です。お湯が出なかった家庭であっても、親たちは洗面所には瞬間湯沸かし器を設置し、シャワーで毎朝 頭を洗う娘たちを援助することが ほとんど必須な時代になりました。朝食の時間を抜いても、朝シャンはするほど でした。

♣ 今は あの流行熱は収まっていますが、化学シャンプーに対する 誤った信仰は残っているようです。テレビで見ると、髪の毛の毛根にくっつく脂肪を根こそぎ洗い流す広告が人気なようです。そんなことをしたら、毛根に含まれる大事な物質(残存脂肪・白血球・免疫物質など)が流失し、それこそ皮膚と毛根の命を縮めてしまいます。皮膚細胞は、ヘイフリックの回数券**で理解されるように、一定の寿命を持っています。ゴシゴシ、キリキリ洗えば洗うほど、残りの細胞寿命は減っていきます。入浴は高級な遊びです。「賢く楽しく 洗い・くつろぐこと」は高齢者入浴にも欠かすことのできない知識です。このことは ご自分自身の入浴の反省に資するかも知れませんね。


  参考   * 安全管理 # 11: 入浴時の洗い方。 ** # 92 : ヘイフリックの回数券。

職員の声

声1: 入浴が「高級な遊び」とは驚きました;しかしに自宅でお湯につかる温泉を味あうのだから、たしかに高級と言えます。

声2: 私はスエーデンで介護実習をしたとき、すべてシャワー浴で、湯船の中で溺れるような危険は無かったです(係り:欧米では1980年頃から シャワー浴が浴槽浴にゆっくり進んでいます;まだ30年ほどの歴史に過ぎません)。

声3: 私が中国にホームステイした時、入浴の習慣はなく、一日に使えるお湯の量は厳しく決められていました。;皮膚が一生のあいだ50回しか再生しないって、驚きました。

声4: 極寒のロシアでは入浴せず、垢を擦るとポロポロ出るそうです;入浴の目的は 清潔・衛生よりも「リラックス・疲労除去」にあるのでは?(係り:砂漠の地に生まれたエス様も、洗礼のとき入浴されたのみだそうです)。

声5: 私の母はリンスがないとき、「お酢」を使います:ちなみにパールの特養では、化学洗剤でなく「石鹸」を使っています(係り:10年ほど前、付き添うご家族が、化学洗剤のメーカーを細かく指定していた時代もありました)。

声6: 健康な皮膚を維持するために必要な脂肪を全部 洗い取らないよう注意します(係り:女性のウオッシュレットの使い過ぎもそうです;女性の膣は、老いも若きも、常在のデーデルライン菌のおかげで健康を保ちますが、その菌を洗い落すと、面倒なことが発生します。

声7: 豊かなお湯、洗浄力の強いシャンプー;正しく使ってこそ、その恩恵が受けられるのですね。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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