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(140) 月と矛盾とケア

   (140) 月と矛盾とケア   

 「月が自転している」と聞いて、皆さん方は どう思いますか? 小学4年生くらいまでは、ビックリするでしょう —— だって、月はいつも私たちの方を向いているし、回っている(自転)とは 思えないからです。

♣ 中学1年生くらいになると 次の二つのことが理解できます:① 地球は24時間で一回転する(自転);② 月は地球の周りを公転し、一公転につき一回 自転する —— だって、月は いつも地球に向かって 同じ面を向けているから。// それ本当?でも、中学生になると、さすがにこれを認めざるを得ません。そして 同時に“回っているとは思えないのに 回っているという事実”を 「矛盾」として学びます

♣ 矛盾とは“最強の矛(ほこ)で最強の盾(たて)を突いたら、どちらが強いか?”という、紀元前500年頃の韓非子(かんぴし)の故事(こじ)によります。私は その故事の時代背景に着目 しました。みなさん、武器といえば、黙っていても「」ですよね。でも鉄は高温精練を必要とし、得難いシロモノだったのです。ギリシャ神話に出てくる「トロイの木馬」、その頃は(紀元前1200年)「青銅」(お寺の鐘の金属) の重たい剣で闘っていました。その後、精練術の発達により 紀元前500年の頃、鉄が武器として応用されるに至りました。それが韓非子の時代だったのです。もし、青銅でできている矛・盾であれば、闘いの結果は互角でしょうが、鉄の矛で青銅の盾を突けば、鉄の勝ちです。逆のことも言えますね。これは私の自説ですが、今から紀元前500年の昔、まだ鉄が高価だった時代、韓非子は「青銅と鉄」の違いを「売り」にして、商人たちに「矛盾」を売らせたのではないでしょうか? その効果にビックリした人々は 鉄製の武器を買うとともに、 「矛盾」という言葉を子々孫々に伝えるようになったのでしょう。

♣ 前置きの話が長くなりましたが、さて、 3.11 には東日本大震災が発生し、多くの施設入居者が亡くなりました。津波で流されただけなら、高齢者に限ったことではありませんが、介護や環境の変化ゆえに亡くなった方々の事を聞くと悲しくなります。高齢者は 決して自力だけで生きておられるのではない;介護の力がどんなにか強い支えとなっているのか を 如実に伝えるものと思いました。

一つの事例として、先週パールで亡くなられた方の様子をお伝えします(95歳女性、慢性閉塞性気道疾患、肺気腫、陳急性脳梗塞、要介護4)。がんらい頑強利発で 家業を推進発展させ、余るエネルギーで飲酒・喫煙を愛し、93歳になるまで ほぼ現役でした。その頃、痰がつまって救急車で入院、それを契機として窒息症状に悩み、9ヵ月まえからパールでお世話を始めました。指で測る酸素(pO2)は 良くて90%、ふつうは80%代、痰がつまると70%代。誤嚥性肺炎1) 2) で たびたび入退院の繰り返し;病院としては「もうすることが無い」と伝えられ、ついに「体格指数3) 12.8 にまで低下し(レベル12は死亡を示唆)、静かに亡くなりました。

♣ パールは医療施設ではないから、胸部X線や血液検査もできず、酸素・点滴使用も適応の外。本当に対応法はないのでしょうか? 私は そこで「矛盾」という言葉を思い浮かべました。酸素吸入(矛)は 果たして 呼吸苦の壁(盾)を突き破るだろうか? たしかに、酸素吸入・点滴は症状を 一時的に緩解するでしょう。でも BMIが12に近づいた 慢性の極度の窒息疾患で「矛盾の試合」を試せば、ご本人の苦しみが長引くだけです。ご家族は もう入院治療を希望されていません。私は、むしろ、静かなケアこそが本人にとって 一番幸せなのだろうと思いました。従来の経験から、一生懸命治療して(矛を振り回して)治癒に近づけるのは(盾を突き抜くのは)、病人が「壮年の歳」までを限度とすると思います。 体格指数(BMI)が12レベルのターミナルの超高齢者の場合、矛盾の試合を尽くして、果たして、誰が幸せになるのだろう?と思いました

矛盾とは、戦闘の場面だけで使われる言葉ではない、人のターミナルを診る心にも大きな示唆を与える言葉だな、と深く深く感じた次第です。

  参考: 1) パールの 安全管理 #40 : たべれぬならムリをせず。 2) #33 : 天寿の終点は BMI≒12.0。 3) #133 : 生きざま二態。 
 
職員の声

声1: 月と地球の関係は 夫婦のようなもの でしょう;月がなければ 今の地球はなく、ひょっとすれば「海だらけ」の地球だったかも知れません;人間の男女の関係ともよく似ています、一方だけでは未来が語れません(係り:月はいつも同じ景色を見せているから、それが地球を一回りする時、必ず自転を一回するのは、考えて見れば当たり前:それを400年まえ ガリレオが指摘すると ローマの司教たちが“聖書に書いてないことを主張する”と咎めて ガリリレオを焼き殺そうとしました)。

声2: 矛(ほこ)と盾(たて)はどちらが強いか?(係り: 青銅の矛(= 酸素吸入)で鉄の盾 (= 呼吸苦の壁)を突けば、矛の負け、つまり超高齢者の場合、「酸素吸入」は「負け組 !」となる)。

声3:
命は何よりも大切なものですが、天寿の年齢になると ヒトは必ず死に行きます;だから大切なものを失うという矛盾を乗り越え、穏やかに静かに死なせてあげる;その行為の価値を自分の中に持ち続けたいです。

声4: 看とりに矛盾は付きものです;苦しまないで長生きして欲しい という願いは そもそも天然に逆らうものですから、代わりに何かを引き受けざるを得ないでしょう . . . たとえば「昏睡(こんすい)」など。

声5: 世の中、矛盾だらけです;大人はそれに気づいても知らんプリです;私が長生きしたら、矛盾など無い シンプルな生活で一生終えたい(係り:見事 !! )。

声6: せっかく今まで幸せに生きてきました;これを120歳まで「延命される」ことが幸せか、苦しみか?

声7: モシ、本人が「苦しくてもよいから 少しでも長生きしたい」と言うのであれば、胃瘻もいいでしょう;ですが、今回の東北津波で亡くなった高齢者たちは そんな対応さえしてもらえず 亡くなりなりました;自然の死の怖さ が身近でした(係り: 「自然の寿命」とは 昔から せいぜい 50歳 まで「人為の寿命」(= 介護)が加わってこそ 初めて高齢の人生が達成されます)
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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