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(12) 転倒と脳

 近着のアメリカ雑誌から一つの話題を拾いました*。

85歳のあるお爺さん、二日まえにトイレに行く途中、転倒しました。しかし、何事もなく、今日になって「ムニャムニャ、膝が痛い」と言います。病院で相談すると、膝の変形は歳相応、気持ち良さそうにウトウトしているし、様子を見ましょう、とのこと。Dr.は「ムダな検査」と思いつつ、念のために頭のCT検査を注文しました。45分後、放射線科から至急の電話連絡、右の脳に手拳大の血腫があるとのこと。青ざめたDr.は、緊急院内コールを掛け、脳外科医に症例を繋ぎ、なんとか一命を取り止めました。膝の相談が、脳硬膜下血腫という結末になった、鑑別診断の厳しさを物語ります。

♣ 次の例は日本の800年まえの話。53歳の源頼朝(みなもと よりとも・源氏の大将)、神社詣でのとき、落馬しました。その後、14日のあいだ、通常の政務を果たしましたが、その翌日、呼吸停止で死亡しました。死因は今でも謎とされますが、現代の脳外科医の間では、硬膜下血腫の症状そのものだ、と言われます。

♣ 三つ目の例は、1980年前後、私の知人のX川Y子さん。85歳になっても血気盛んな方、乗馬が趣味ですが、何回か落馬し、最後の落馬で肩を骨折しました。治療のあと、整形外科医は「乗馬OKの同意書」にサインをしてくれません。脳外科・神経内科に相談しても、OKのサインが出ません。ついに「内科」で相談し、それでもOKのサインが出ないので、当り散らしていました。この方は骨折のほか、実は「認知症」があったのです。その頃には、まだ、「認知症」の診断名がなかったので、理由はともかく、OKサインは出せなかったのです。これら3症例に共通なことは、転倒・転落がありながら、認知症にまで思いが及ばなかったことです。

♣ 河馬は歯が無くなると飢えます。キリンは首の骨に故障を起こすと、ライオンにやられます。人は四六時中、地球の重力に逆らって生活せねばなりません。60歳以上のアメリカ人の1/3は転倒暦を持っています。パールの「ヒヤリハット報告」の最多・最大案件は「転倒・転落」です。すなおに「骨折」であれば、分かりやすいのですが、高齢者では、骨以外に何が起こるのか? 皆さん方も、「何か変だな?」と思う時には、目を皿のようにして徴候を探しましょう。   (* Why is Grandpa Falling?  By Tony Dajer in Discover 8:28, ’06)

職員の声

声1: 53歳の源頼朝だけが めだって若いので 異質に感じますが、歴史的に意味があるのですね(係り:日本の政治的頂点に立つ人が暗殺でなく急死したのですから、世間は驚いたのです)。

声2: お年寄りは常に認知症の候補者でもありますし、よく転びます。転倒があれば、すぐ症状が出るとは限らず、脳か?股関節か? 気の休まる暇はありません。

声3: 落馬と脳事故は付きもですが、落馬と認知症のどちらが先に発生した病気か?を見分けねばならない時代になったのですね。

声4: 日本語で「転倒」と言えば、会話語の「こける、倒れる」の意味で、紛らわしくありませんが、英語で“Fall”と聞けば、たくさんの意味があります;転倒そのものを表わす言葉はありますか?(答え: 上記のように “Why is grandpa falling?” のような使い方が一般的のようです;別な例では “Humpty-Dumpty had a big fall.” (ハンプティ・ダンプティは [ 壁の上から] 落ちた、墜落)など。似たものに Care があります、普通なら「注意する」ほどの意味ですが、厚生省は1975年の頃、重々しく「介護」と翻訳しました(介助+看護):Nurse も「育てる、愛撫する」の意味ですが、明治政府は重々しく「看護」と翻訳しました;これらに対して Service の訳は「奉仕」ですが「サービス」の片仮名のほうが頻用されます;スエーデン語の中でも、英語のままServiceが 便利に用いられていました)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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