(209) 10 10 (テントウ・転倒)に備えて

 (209) 10・10 (テン・トウ)に備えて 
 
 今から 320万年まえ、アフリカで人類 初の女性が生まれました;名前は“ルーシー”。なぜ“”と判るのか?それは彼女が二足歩行用の骨盤を持っていたからです。サルは移動時には四足歩行ですが、ヒトは二足歩行です。二足歩行により、手が器用になり 大脳が発達し、人類の文明・文化に繋がりました。しかし残念 ! 二足歩行の欠点には「転倒の発生」があったのです。

♣ 10月10日は テントウ と読む ことができますね。そこで 日本転倒予防医学研究会が このゴロ合わせで 2004年10月10日を「転倒予防の日」と決めました。以後、毎年 各地で二足歩行の唯一の欠点である「転倒を予防・研究する会」が催されるようになりました。今日は 10月10日を前にして、この話題を取り上げてみましょう。

♣ すでにパールの安全管理でも 多数のアイテムが出典されています。まず「日本天国論1) からスタートしてみましょう。日本は天国である、なぜなら この66年間 戦死者がゼロである、体重を減らすことにお金をかけられる、 平均年齢が世界一であり、介護保険が世界無比で充実している . . .

♣ 次に「日本地獄論」:軍隊がないために、他国にもてあそばれる、 携帯が普及するにつれ、子供たちが遊び回る、 物価が高く、生活が苦しい(1ドル70円とすれば、日本の若年層の年収350万円は年収5万ドルに相当し、世界的には信じがたい高所得である)、 親が長生きで、介護に苦労する その割に高齢者の転倒・骨折は増え続け、誤嚥性肺炎・胃瘻などの問題が山積みである . . . アー ! 天国 イクオール 地獄 ですね !!

♣ では、ナゼ 転倒は起こるのでしょうか?人は誰しもミスをしようとしてミスをするのではありません。いくら気をつけていても、人と動作の接点があれば、ある確率でミスは発生します2, 3) ミスが発生する状況に注意を向けてみると、 介護職員、 介護をする場、介護システムそのもの、の三つに分けられます。もし失敗が、ある特定の職員に集中するのなら ① が問われ、また在宅サービスとか特養に集中するのなら ② が問題でしょう。

♣ しかし、失敗報告書を見ると「同じようなミスの繰り返しが多く、あまり改善・進歩の様子が見えてこない」ようです。このことは、失敗(= 転倒)に対して正常なフィードバックができていない事を示しており、問題が ③ のシステムにある と思われてなりません。お皿を洗えば いつかは割れる;は衝突する;飛行機は落ちる;これらと同じように、お年寄り を預かれば、転倒事故がないはずがない;これはシステムの持つ確率(高齢女性の二足歩行)に依存するようです。もし幾つかの選択肢があれば、人は必ず一番 悪い選択肢を選ぶ傾向がある、という冗談めいた指摘もあり、これは「マーフィーの法則4) として知られています。

♣ 転倒が転倒だけで終われば 日常生活のアクセントとみなすこともできますが、問題は転倒が誘発する「骨折」、なかんずく「大腿骨頸部骨折」です。ある報告によると5) 、全国調査での推計値ですが、70歳代の女性の0.41%、80歳代で1.48%、90歳代で2.81%が、一年間に「頸部骨折」を起こします(90歳代は約100万人いるので、骨折は毎年2.8万人発生という計算)。つまり高齢の女性を預かれば、「お覚悟を ! 」と申し上げるほかはありません。ところが 特養でお預かりする方の90%は この年齢層の女性なのです。

♣ そこで、私は「六つのべからず」という警鐘を鳴らしました6) ので、ここで、おさらい したいと思います: 急がずべからず(急がせたら 転倒)、 後ろから声を掛けるべからず(お年寄りは、振り向きざまに転倒)、 まさか ! と思うべからず(待っててね、と念を押したのに、戻ってみると転倒 ! ) 外で他者に呼ばれても、持ち場を離れるべからず(気を利かせて呼ばれた方に行き 助け、持ち場に帰ってみると 転倒 ! )、 押し問答すべからず(理を説き、分かってもらえたと思ったら、転倒)、 日頃は「杖歩行」であっても、気を許すべからず(安心半分で見ていると 杖に足をからませて転倒)。

♣ 320万年前の“ルーシー”も転倒したでしょうか?たぶん、したでしょう。でもね、彼女は80歳まで生きなかったのです。今の人間でも 遺伝子天寿の50歳までなら、転倒しても“絶対に”骨折には至りません問題は、だから、転倒だけでなく、長寿と骨粗鬆症にあるので

♣ そこで私の結論:① 二足歩行は必ず転倒する、② 80歳を越えた女性は「お皿のようなもの」、こけたら 割れる !もし割れたら 誠意をもって対処すること !  あなたの人格が見えてきます !!

 参考: 1) パールの安全管理 # 19:天国と地獄。 2) # 62 : 過失と責任、とくに骨折。 3) # 84 : ミスの秘密。 4) # 155 : 想定内と想定外。5) 原田敦(国立療養所 中部病院):高齢者の転倒障害、(ネット)。6) # 50 : 六つの「べからず」。

職員の声

声1: 10 10 が「転倒予防の日」とは初めて知りました;お話の中の「地獄論」ですが、特に納得したのは“親が長生きで苦労する”でした;でも 親に長生きして欲しいです——ジレンマだと知っていますけど(係り:この問題は「赤の他人の介護7) で検討しました。なお、「曾・祖父母の進化8) も参考にして下さい)。

声2: 私はご利用者とよく話し合います、つまり「骨折したら、もう人生は楽しめないわよね」、と。

声3: 私も将来骨折するだろうが、直前まで“自分だけは骨折しない”と言い張る と思う。

声4: 高齢者のご家族に転倒・骨折のリスクについて口を酸っぱくして説明・納得されますが、いざとなると、補償を請求される方が多いです(係り:たぶん、飛行機の墜落などを念頭に置かれるのでしょうか? ぜんぜん違うのに?)。

声5: 駝鳥は二足歩行だけど転んだという話を聞きません;人も骨と筋肉の強化訓練をしたらどうでしょうか?(係り:駝鳥も追われるとコケます;でも駝鳥は80歳ではないから、骨折しません——問題は“年齢”です)。

声6: コケないように “六つのべからず”から学びます(係り:この“べからず”はパールの「ヒヤリハット集」から得たものです)。

声7: 二足歩行は転倒する;転倒したら骨は皿のように割れる;解決法として①「割れない皿をつくる」、②「コケない方法を開発する」;どちらが低コストでしょうか?(係り: ①は不可能;だって骨の遺伝子年齢は50歳用です;昔のように人生50年ならば問題解決)。②は1対1の介護を実行すれば良い、ただし予算は毎月100万円余必要です)。

声8: 転倒→骨折→訴訟→一千万円と聞けば、転倒=大事故とみなすべきです;転倒の背景を分析したい(係り:簡単ですよ——二足歩行+女性+高齢の人を歩かすべきではない !)。

声9: 骨折に至ったら「誠意ある対応が必須」です;しかしモンスターがのさばる当節、性善説に頼るのは困難です;そこで 私案 ①:介護職に「強制力」を与える;それによって一人でトイレに行こうとする人に “No !”と言える強制力です;現状では私の意見を聞き入れてもらうのは困難です。私案 ②:骨折等の保守契約をする——現代では手術をする医師から 驚くほどのリスクの説明があり、有無を言わさずサインをさせられる時代です、サインをしなければ手術をしてもらえない;介護でもリスクのある女性高齢者には この方法を見習うべきだと思います(係り:骨折は生命の自然経過の一つにすぎない、として 補償に取り合わない施設もある、と聞きます)。

追記:原稿の一カ月前に トイレの中で転倒・骨折した90歳の女性。参考のために費用の相場をお知らせします。入院=2ヵ月で \654万円(内 手術代 1割、リハ代 1割)。負担率は10%。実際にはパールが障害保険に加入しているため、パールの負担金はゼロ。お見舞い金は別途。

 ☛ こと骨折となると、熱のこもった討論となりました。大腿骨骨頭骨折は いずれ 国家補償の対象になる日が きっと 来るでしょう

参考:パールの安全管理 :7) # 100 : 赤の他人の介護。 8) # 215 : 曾・祖父母の進化。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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