(15) 死因の推移

「ヒトはなぜ死ぬか?」と同じように問題なのは「ヒトはどのように死ぬか?」の問題です。今日は後者に焦点を合わせてお話ししましょう。

♣ 私は子供の頃(1940年前後)を振り返って思い出すのですが、私の小学生の記憶では、出征兵士があれば、名誉の戦死も同じだけありました。周りの赤ちゃんが沢山死にましたし、兄弟や仲間の子供たちも栄養失調や伝染病で死にました。また同年齢の仲間のうち、祖父・祖母のいない人のほうが多かったようです。つまりヒトは長生きせず、老人は少なかったのです。死はいたるところにありました。主な死因は栄養失調・伝染病・なかんずく「結核」は日本人の死因のトップでした。

♣ 第二次大戦が終わった1945年後のベイビーブームについては ご存知の方が多いと思います(団塊の世代)。私が大学を卒業した頃(1955年)は、戦後10年、栄養・衛生・医療の向上により、まず赤ちゃんが死ななくなりました。続いて、結核が減り、大人が死ななくなりました。その結果、戦後の人口7千万人が、やがて1億人に、さらに1億2千万人の高値安定になりました。日本は好景気に沸きあがり、税金も増え、「人の死」は話題から消えてしまいました。

♣ そんな中、私たちは「福祉元年」を迎えます(1973年)。つまり老人医療はタダ、健康保険の本人負担分もタダとなったのです。病院の待合室は中高年の男女でいっぱい、診療の後に予定されている「買い物・ゴルフ・芝居・音楽会」の待合所になり、新聞・テレビの報道をにぎわせたものです。この同じ1973年に「有吉佐和子の恍惚の人」が出版されていました!! 私はこの本を読みましたが、まさか、この悲惨なストーリーがパールの設立と ご縁があるなど、想像さえしませんでした。その頃の社会福祉費はGDPの約6%でした。

♣ さて日本の社会保障費は、その後 徐々に膨れ上がり14%に達した頃、歴史のいたずらか、1989年にはベルリンの壁が崩壊、翌年に日本のバブルも破裂しました。しかも その時、日本は世界有数の老人大国になっていました。有吉の予告通りに、親孝行の国・日本は未曽有(みぞうう)の経験 — 親の痴呆 ― と闘う日々が訪れてきたのです。さあ、日本の社会と政府の台所は大変です:緊縮財政を余儀なくされ、社会保障改革が始まり、医療費はカット、年金問題の不始末も暴露され、その騒ぎは今日に流れ込んでいます。いまや社会保障費の対GNP割合は30%に達し、ご存知、政府は「若者の将来を担保金として、つけを若者に回す借金」に奔走している状態です。

♣ そこで今日の本番:いまヒトはどのように死んでいるのか? つまり死亡原因の概要を話します。まず世間にあふれている常識、死因別死亡数の割合は:ガン 31%、心疾患 15%、脳卒中 13%、肺炎 9%、この四つがこの順に並ぶのが有名です。このあと、不慮の事故 4%、自殺 3%、老衰 2%と続きます。不慮の事故(主に水・火と交通事故)と自殺は医療の問題からはずれますね。だから問題は初めの四つの病気にあります。

♣ 私が子供の頃、ガンや心臓で死んだという話は 記憶にありません。つまり、これらは人口の老化と関係があります。脳卒中は「中風」(ちゅうぶう)と呼ばれ、なってしまえば、余命がいくばくもありませんでした。第4位の「肺炎」、これは主に子供の病気でした。つまり、今 四大死亡原因と呼ばれているものは、私が子供の頃には存在しなかったものです。

♣ 老人が増えると、死亡診断書の病名も微妙に変わります。「老衰」というのは非科学的であるゆえ否定され、代わって「心不全」が使われるようになり、これが統計上の「心疾患死」の不当な増加を招きました(実際の心臓死は多くない)。

♣ ガンは いずれ征服される日が来るでしょう。だから 終局的な死の実態は「食べる力がなくなって、ムリに食べて、誤嚥性肺炎で死ぬ」というのが真実であり、これが高齢者の死因の第一位になるでしょう。私どもがケアをする場合、もし誤嚥性肺炎の結末となれば、これもって十分な人生であった、と判定できる時代に近づいた;これが現在です。つまり、高齢者の死因のトップは「誤嚥性肺炎」、これこそ 成熟社会の終点ではないでしょうか?

職員の声

声1: 私は日本人の死は 多い順に「ガン」「心臓病」「脳卒中」と聞いていましたが、心臓病のうち、老衰・誤嚥性肺炎が心不全の主体であることを知り、驚きました。

声2: GDP(国内総生産額)のうち社会保障費が 時と共に増えるのはやむを得ないと思いますが、総生産の3割に達するのは行き過ぎと感じます(係り: 近年の医療は よく「コンビニ・医療」と揶揄されます;つまり 病院へふらりと訪れやすいのです;最近ではスイスでさえ、年寄りや若者が“病院に行く回数が増えている”と報告され、その経費は増税で賄われます)。

声3: ガンが征服されれば、ヒトは一つの病気=誤嚥性肺炎で死ぬ、この言葉には強い説得力があります。

声4: 愛情いっぱいのご家族が ちゃんと誤嚥性肺炎の理屈を理解できるでしょうか?愛情を優先すると 体格指数(BMI)はどんどん低下します(答え:夏目漱石はこう言っています:智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ . . . とかくこの世は住みにくい、と;昔も今も基本的には変わっていません)。

声5: 高齢社会では Cure (治癒)は期待されず、Care(看護)が全面に出て、Console(慰め)も主力になります;三つの “C”、それが高齢社会を生き抜く「鍵」です、その通りです。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR