(215) 曾-祖父母の進化

  (215) 曾・祖父母の進化 
     
 私が子供の頃、一人暮らしの高齢者を見たことがありません。また、町内に40世帯くらいがありましたが、祖父母と同居の世帯は 私の家と あと3世帯くらい;今 思い起こしてみると、要するに 街中で「お爺さん・お婆さんの存在は珍しかった」のです。まあ、平均年齢45歳の時代だったから、当然だったかも知れません。

♣ 先月「祖父母の進化1) という本を読みました。祖父母とは 進化するものなのか?と不審の念で読むと、人類の過去が見えてきました。300万年から現在に至るまで、人類の「化石の大臼歯」の分析結果です。歯は±1年の精度で年齢が分かります。3万年前の「ネアンデルタール人」は15歳で親になり多くは20歳台で死亡30歳以上の歯は見つかりませんでした。つまり 人は子を産んだころ、自分の親は もう生存していない訳です;子にとってみれば、父母は居るけれど 祖父母は存在しかった訳です。大古(たいこ)の人類は短命でした。ところが1万年くらい前から、30歳を越える人の歯が見つかり出しました。これは狩猟採取の時代から農耕放牧の時代への変換期にほぼ一致します;つまり「祖父母が進化した」のです。

♣ そこで、人類全体の寿命を調べてみると、日本の縄文・弥生時代(1万年前から奈良時代まで) 平均寿命は14.6歳だと推定されています(平均値とは こういうことです —— 30歳一人と0歳一人が死んだら平均値は15歳ですよね)。つまり新生児・幼児死亡が多かった時代の平均年齢は現代のそれとは意味がずいぶん異なります)。千年前の平安時代で 15歳、500年前の戦国時代で20歳、そして江戸時代に入ってやっと30歳に届きました。昭和に入って40歳戦後の昭和25年ころ50歳。つまり、“いわゆる文明生活の到来”とともに 平均年齢は伸びました。欧米・インドなどでも50歳を越えたのは20世紀になってからのことです2) 。こと こうなると、祖父母の存在はごくありふれた社会現象となります。

♣ 日本で珍しい「事件」が1960年に起こりました。岩手県沢内村という所で、「老人医療の無料化」が始まったのです。パールの理事のお一人である 坂巻ヒロムさん は そのころから新聞記者として歴史的な取材をされています。時代の流れだったのでしょうか、それとも バブルによる所得向上が原因だったのでしょうか、1973年に日本は「老人医療の無料化」を全国的に始めました。全国の病院の待合室は老人たちのサロンと化し、同時に平均年齢は飛躍的に延びました。この「無料化」は やはり背伸びした制度であったため、9年後の1982年には中止、有料化されて現在に至っています。しかし、いったん医療を利用する習慣がつくと、平均寿命の伸びは留まる事を知らず、日本女性は世界一の高齢を24年この方続けています

♣ もう一つ 珍しいことが日本で起こりました。それは2000年に始まった「介護保険」です。「制度に問題はつき物」とは言いますが、これは世界に類を見ない「至れり尽くせり」の内容を誇るもので、日本の歴史始まって以来の、いや世界の歴史始まって以来の 「手厚い高齢者待遇」ではないでしょうか。これにより、日本人の平均年齢は 世界一位を連続保持、ついに「曾・祖父母の存在は当たり前」の時代に突入しました。

♣ あなたは “お爺さんや お婆さんの、もう一つ上のご両親”の記憶がありますか?まだ歴史は浅いので「ヒー爺さん、ヒー婆さん」と言っても耳に馴染まないですね。あなたは「ヒー孫」ですよ。パールでも特養ご入所・108歳のI.M.さんの来訪ご家族は「お孫さんとヒー孫さん」でしたが、なんと「ヤシャゴさん」は中学生でした。時代はすっかり変わってしまいました。

♣ この変化の元をただせば、「老人医療の無料化」でしょうか?私は この意味で 無料の効果は歴然としていると思います。医療の無料化がそんなにも有効であるのなら、私は その恩恵を「老人に限らず国民の全てに、とくに子供に解放してあげたい」と思うようになりました。祖父母は一万年前にもう進化しているので、今回の目標は「曾・祖父母の進化」です。皆さん方は こんな視点でケアに携わることがありますか? ご意見を寄せて下さい。

参考: 1) Rachel Caspari : The Evolution of Grandparents. Scientific American 8 : 24~29, 2011. 2) 平均年齢の歴史的推移(日本と主要国):On-line, net。

職員の声

声1: 私は この会議に出席するのは今回が初めてであり、たいへん新鮮な印象を受けました;理事長がメモを見ずに話をされているのに驚きました係り:私は資料のメモを持ちますが、原稿を読むのは苦手です)。

声2: 質問です:大古の時代、人間は最高 何歳まで生きたのでしょうか?(係り: 狩猟時代のバルカン半島のネアンデルタール人、3万年前、30歳以上の大臼歯は見当たらない、つまり最高長寿は30歳未満でした。農耕時代に入っても 平均年齢は15歳前後、でもエジプトの王(ファラオ)は最高92歳、今 カイロの博物館に ラムセス2世ミイラが展示されています → 大昔でも「介護」が良かったら長生きできたことの証明です ! )。

声3: 質問です:鶴亀は千年万年生きられると言われますが、仮に 手厚い介護を加えたら どれくらい 長寿になれるでしょうか?(係り:鶴亀については資料がありません;上野の動物園のカバはふつう 20歳過ぎで 歯が摩耗・消失して死にます;しかし 歯で噛まなくてもすむ餌(介護食)を与えると数年ほど延命できる由 → 野生のサルは歯がなくなると死ぬ、つまり 歯の寿命=個体の寿命です;ヒトも 昔は貧乏で歳をとっても入れ歯がなく 穀物を噛めなくなる頃 死にました)。

声3: 福祉の進展とともに 親子四世代が同じ屋根の下に暮らせる時代になりましたが、曾・祖父母の進化が良いことなのか、私の精神力は付いて行けません係り:ネアンデルタール人は2世代世帯、我々は4世代社会、後者がbetterだと選んだのが現代人です、頑張ってください)。

声4: 私は 過度の医療介入をして 高齢者の命を伸ばすべきではないと考えます(係り:多くの人は そう考えますが、「過度」とはどの程度でしょうか?たとえば医療費が毎月20万円以上?自分で食事ができないほど老衰の時?. . . 具体性がないと議論は進みませんし、検察は 生存権に関する憲法違反を遠慮なく“検挙”しています)。

声5: 四世代生存は結構なことですが、高齢者生存費用が若者の肩にのしかかるという現状を改善しないと、社会は衰亡して行きます(係り:天然動物の親は子を育てるために命を削って死ぬ;これに反してヒトの場合 親を長生きさせるために 子が死ぬ思いの苦労をする;つまりヒトは “進化の道”を逆さ歩きしている のです3) )。

声6: 入院している祖父母に会う孫は 祖父母の手が 小さく縮んで 宇宙人のように シワクチャになっているのを見て 驚きます;曾・祖父母は入院・祖父母は特養に入所・父母は在宅、そして いずれも「寝たきり」、これでは途方に暮れます、みんな元気でいて欲しい(係り:古代エジプトのファラオのように、各家族が王宮に住み、侍医を持てば それが可能となります)。

声7: 人類は発展するたびに寿命が伸び、人口ピラミッドは果てしなく「逆三角形」になって行く運命にあるようです(係り:年寄りだけが増え、その果てに 人類絶滅ですか?——あり得るシナリオですね;推計によると4) 日本の人口は、韓国・ドイツと同じく、3,500年後にゼロ、ブラジル人口が地球最期のゼロとなるのは5,000年後だそうです——その後、「エネルギーと親に関する合理的な知恵」を持つ 別な生物が賢く生きて行くでしょう——今の人類は生物として いささか進化し過ぎたのかも)。
   
参考:パールの安全管理 3) # 100 : 赤の他人の介護。4) End of history and the last woman:The Economist.(英)On-line 2011.8.22.(西川渉:航空の現代 2011.8.24 On-line より)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR