(220) 借金 と 「モラル・ハザード」

 (220) 借金と「モラル・ハザード」

 昨年の安全管理で「モラル・ハザード1) について語りました。今日、また 同じような話をするのは「借金のお化け」が私たちの身の回りに出没し始めたからです。

♣ 昔から「借金したら、元金と利息の耳を揃えて期日までに返す」というのがモラルです。そのモラルを心に誓って 人々はお金を借りました。ところが「借りたお金は戻せない」のが人々の悩みなのです。古くは、800年前(1274年)、蒙古のフビライが大軍を率いて日本を襲撃した時——有名な「文永・弘安の役」です。日本は「神風」(台風)のお陰で元(げん)の襲撃を撃退できたのですが、困ったことが一つ残りました。

♣ つまり、従来の戦争は「勝った方が負けたほうの土地・財産・人」を召し取り、味方陣営の褒美としたのですが、この元寇(げんこう)の役では、敵の土地・財産・人を奪うことができなかったのです。鎌倉幕府は 戦争で命を落とし 借金をした日本の武者たちに褒美を上げる事ができず、武士たちは生活に困窮し、自分の土地・財産を担保に入れて「金貸し」からお金を借りました。でも、武士たちは富(とみ)を生産しないので お金を返すことができず、ムザムザと担保の土地・財産を取られる始末。困った鎌倉政府は伝家の宝刀を抜きました:徳政令(とくせいれい)の発布です——つまり「借金の棒引き令」です。これで武士たちは一息つきましたが、怒ったのは裕福な「金貸したち」です。以後、武士に金を貸さなくなりました。当然のこととして 社会は乱れ、60年後の1333年、鎌倉幕府は滅亡します。

♣ 借りた金を返さなければ 大変なことが起こるのは、世の常ですね。シェークスピアの「ベニスの商人」では、アントニオが 自分の胸の肉 1ポンドを担保として差し出し、ユダヤ人シャイロックにお金を借り、戻せなくて あわやのことで、胸の肉を切り取られる . . . それを婚約中の妻ポーシャが助ける . . . その緊迫感をクライマックスにした劇でした。

♣ さて、モラル・ハザードについては前に御話しましたが1) 、おさらいしましょう。モラルとは「倫理」、ハザードとは 「迫りくる危険」という意味、あわせて「倫理の欠如」と訳されます。「子供の給食費を払わない親」を例として出しましたが、今の日本では もっと深刻です。 「ペイオフ」という横文字を使って、人から預かったお金を預金者に戻さない銀行、火災保険に入った後、詐欺的な火事を起こして「焼け太り」する契約者、さらに自己負担額が少ないため 些細な体調の変化でも高度の医療を求める患者、これらは皆 モラル・ハザードです。最近の例ですが、超高齢者が転倒・骨折して 治療・リハに650万円の支払いを求めた、これも同じくです

♣ 話が変わりますが、皆さん方は現在の「ギリシャ問題」をどう捉えていますか?介護に関係ないって?とんでもない、これは EU の借金システムが悪いから発生したモラル・ハザードで、日本に大きな影響があります。ギリシャは文明の先祖としてヨーロッパ諸国の尊敬を集めていますが、現在のギリシャは 富(とみ)の生産密度の小さい国です。それが、なんと EU に加盟させてもらえ、ドイツやフランスと同格の経済資格を認定され、「借金」もドイツ並みに出来る。

♣ ギリシャ人は明るく陽気な民族ですから、従来 ドラクマ(ギリシャのお金)で出来なかった贅沢を ユーロ借金ならできる。たとえば公務員の数は総雇用の25%(日本は5%); そのうえ給与は民間の5割増し(公務員天国);祝日は一年70日(日本は15日)、年金は20年勤務で終身OK;その給付額は現役時のナント96% !! (日本は同48%、G7加盟国で36%——日経 11.10.28)。でも贅沢のあげく 借金の利子が払えなくなり、国家は債務不履行(デフォルト)寸前でしたが、幸い、11.10.26 債務は半額に棒引きの合意 (5割引の徳政令)、崩壊は延期されました。

♣ さて日本の福祉も安閑としてはいられません。ギリシャが巨額の赤字を出した理由は 分(ぶん)不相応な「年金・医療・介護」、硬直した労働習慣の関与があります。サルコジ仏首相は「ギリシャを EU に加入させたのは、僕らの過ちであった」という始末。それでもギリシャ国民はストライキを打って 既得権を手放そうとはしません。つまりEU 諸国は「徳政令」で大損をした揚句 蟻のように働き続ける. . . この勝負、EU の泣き寝入りで終わるでしょうか?

♣ ここで学ぶ大事なことは、お金がかかる仕事をする場合 「必ず返すという 確かな姿勢」を実行することですね。いま 一千兆円の95%を 日本の大人たちは日本の子供たちから「お化け借金」しています。大人は戻す気がないのだから、これは ひどいモラル・ハザードであり、日本の子供たちはストライキをすべきなのです。そもそも医療や介護の借金は善意に基づくのかも知れませんが、結局 苦しむのは 元利合計を戻さねばならない子供たちです。

私は「入るを図って 出づるを制す」の信奉者であり、「ペイゴー精神」は必須 2~3) と考えます。甘い介護計画は長続きしません。皆さん、目を開いて世界の状況を見つめましょう。
 
  参考: パールの安全管理  1) # 197 : モラル・ハザード。 2) # 107 : ペイゴー。 3) # 216 : 介護保険制度の動向。

職員の声

声1: 給食費を払わない、銀行はペイオフを平気でする . . . これは個人も国もモラル・ハザードに励んでいる証拠だ。

声2: 老人に過剰な医療をしないって、趣旨はわかるけれど、誰が「過剰かどうかの判断」をするんですか?係り:みんなが悪役になりたくなく、医療費は膨大、誰のための医療・福祉システムなのかを考えてしまいますね。

声3: 多くのご利用者は1割の経費を払って、福祉システムに対する感謝の念は希薄です(係り:わずかな負担で高度のサービスを求めるのは典型的なモラル・ハザードです;システムは滅びてしまいます;料金体系を再考すべし)。

声4: 次世代の子供たちに「借金のツケ」を回すのは 大人のモラル・ハザードではないか ! (係り:子供には選挙権で拒否する権利がないしね)。

声5: 借金を戻さない社会はなんて恐ろしいことだろう ! ギリシャ問題でも、彼らの年金額が現役時代の96%と聞くと 誰だって早く定年生活を迎えたいだろう(係り:日本でも、稼がない老人が増え、働く若者が減って行きます)。

声6: お金が無いから借金する訳で、だから返せない事態になるのだと思う(係り:つまり、人はむやみにお金を貸しては罪つくりと言うことです)。

声7: 借りたお金を返すのはとても難しいことです、安易に貸さないで下さい係り:確かに、分相応な暮らし をするのがbest、遊んで楽、はダメ ! )。

☛ 「職員の声」を聞くと、何と健全な事だろう ! と思います。国際社会も 医療・福祉システムも こうあるべきですね。
 
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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