FC2ブログ

(21) タダの混乱

 もう だいぶ 昔になりますが、私(弘子)の3歳の次女が保育所で育っていた頃の話です。夜遅く、会社帰りのお父さんが幼い子供の手を引いて保育所から出てきました。髪も乱れ、暗い表情で向こうのほうへ、とぼとぼ歩いて行きました。きっと彼は疲れていたのでしょう、「子育ては国がタダで行うべきだ . . . 」とつぶやいていました。私も苦しい状況は同じでしたから、そのお父さんの気持ちは良く分かったのですが、疑問も持ちました。だって、「国が子供をタダで育てる」といえば、2500年まえのギリシャの都市国家スパルタを思い出したからです。

♣ スパルタでは、子が生まれると、国の年寄りが検査をし、肉体的に劣る子は谷に捨てます。乳児期を過ぎた子供は国が一括して「タダで」預かり、教育をほどこし、スパルタのために役立つ闘士に育て上げました。その結果、先輩格であった都市国家アテネを圧倒し、スパルタはギリシャ半島の覇権を握りました。スパルタ主義の立派な成果ですね。しかし、一世紀後には、北国トラキアのアレキサンダー大王に敗れ、以後、歴史のおもてから消えました。

♣ 「タダほど高いものはない」と、よく言われます。例をあげましょう:昭和47年(1972年)、美濃部都政が高齢者医療をタダにしました。すると本来、病院を受診する必要のない老人までもがどっと押し寄せ、病院の待合室は年寄りのサロンと化しました。このため、本当に医療が必要な患者さんの診療に大きな支障が発生しました。つまり東京都としては、サロンに来る年寄りと、病気の年寄りの両方にお金がかかるようになったのです。

♣ 最近の「小児医療無料化」の動きも同じ轍を踏むようです。現在は、昔よりさらに複雑化しています。経験的に自然治癒することが分かっている病気であっても、なにしろタダですから、親は単なる救急医では満足せず、小児科医で、かつ その病気の専門の診察を求めます:「専門の先生、休暇でいない? じゃ呼びだしてよ!」。このため、小児専門医は疲労困憊し、本来の専門分野での医療がおろそかになり、助かるべき患者が苦しみます。産科についても事情は同じようです。

♣ 「すべての医療をタダにする」―― 結構ですね、素的ですね。でも、疑ってかかりましょう。それって、競争原理が働かなくなりますよね。無駄がふえ、質も落ちます;このことは 天下りの官僚を見ていれば想像がつくでしょう。いくら医療といえども、消費税を払うんですよ、経済のワクを乗り越えることもできません。コストはみんなで負担? みんなって誰でしょうか? 所得のない人からも取るのでしょうか? 医療費をタダにすれば、コストは「無限に膨らんで行く」でしょう。「衣食住」の場合には、おのずと消費の限度がありますから、タダの要素があっても良いでしょう。しかし、「医」にタダを求めることは、命や健康が関わっているので、「王や女王のレベルの医療」を求めることに他なりません。

♣ 安全管理 (3)で私は「ソロモン大王の介護」というお話をしました。覚えている? 3000年まえ、老大王の体温が下がってきたときの介護は「若い裸の女性二人を王の両側に寝かせ、体温をお移し申し上げた」のです。「タダ」になると、万民がこのレベルの医療と介護を要求するようになります。大混乱に陥りますね。日本の厚労省は、用心深く「医療費亡国論」、「介護費亡国論」を掲げて、自分に責任が掛からないよう、煙幕を張っています。それもこれも「タダのツケ」を払わされてはかなわないと思うからでしょう。

♣ 私どもは、素朴に「タダほど高いものはナイ!!」と理解すれば、「タダの混乱」は避けられると思います。 どんなことでも、無理のないコスト意識を念頭に設定して置くことが、事物判断の本質に関わる、と私は感じます。

職員の声

声1: タダほど魅力のあるものはなく、「もらわにゃ損」と感じます。

声2: 母が申していました:老人医療費タダの時代、病院サロンで元気なはずの仲間が欠席していると「あの人、病気になったのか?」と疑いました。

声3: 「タダほど高いモノはない」といいますが、子供の医療をタダにして欲しい気持ちは切実です(係り: 大賛成、しかし100円でもいいから、支払ってください)。

声4: 政治家はタダという看板で選挙を勝ち抜きますが、それは「書類上」だけのこと、実際にタダを実行する病院のスタッフの数は不変です;労働過剰で医療の質は落ちるばかりです。

声5: タダ診療なら予約のキャンセルも勝手・無料、大混乱です。

声6: 本当に必要な患者さんを別ルートで診ればよい(係り: 「本当に必要」の判定は神様でもムリですよ)。

声7: 日本人は特別です、だって世界のタミフルの七割は日本人が消費しているのですよ、日本人の強欲は特殊なのです、だから「医療・介護 亡国論」が吹き出て来るのでしょう。

声8: 今はまだ「有料」ですが、病院の初診で「検査結果も正常」であった場合、料金口を通り抜けて帰る人たちが3割程度あるそうです(係り:日本の国民性は潔癖で正直なはずだったのに!)。

声9: 財源があってこそ タダが実現できます;日本人は「打ち出の小槌」でタダを求めているのでしょうか?
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR