(240) 栄養不足を どう補う?

 (240) 栄養不足をどう補う? 

 今日は、不足した栄養素を どのようにして補うのが正しいのか を考えます。

♣ 私たちは 中年を越えると 身体検査で100点満点の人は稀です。ましてや 平均年齢90歳のパール特養のご利用者で 100点を見つけることは望み薄。みんな欠点がありながら 現実と妥協しながら生きています。そのためには、衣食住のうち、まず調理・摂食状況・食べ残しなどをキチンと把握せねばなりません。次に、栄養を三つの視点から見みましょう。

♣ 第一に ①「痩せ」の問題は 目視で観察され、記録的には 体格指数(B.M.I.)の経過で検討されます1, 2) 。B.M.I.が 徐々に「12」に近づくと、生存が困難となる現実があります。

②「貧血」はどうか? 私たちの細胞数は、脂肪貯留を別として、年齢と共に減少します。血の赤さ(血色素・けっしきそ・ヘモグロビン)の減少は その典型です。つまり、歳をとると貧血に傾く のです。25歳男子の正常値は 血液100cc中 血色素15グラムですが、老人なら12グラムはザラ、8グラムまでは 要注意ですが 手を出しにくい。30年前、老人の人口が増え始めたころ、日本の老人は みな輸血の対象になるのか、という極論もあったほどで、貧血を数値で見ると不気味に見えました(15→12→8 ! など)。現在では、病気との関連がない限り、数値をいじることをしません

③「血液の蛋白」はどうでしょう?人の体は、「蛋白質が骨に支えられている状態」と言っても過言ではありません。生命体の宿る基本物質は蛋白質なのです。血液中の蛋白は 主に「アルブミン」と「グロブリン」より成り立ちます。とくにアルブミンは生命の源みなもと)であり、もし それが少なくなれば、命そのものが少なくなっているとみられ、重大な病気の存在も示唆されます。血液アルブミンの正常値は血液100ccあたり4.5グラム(3.8~5.1)ですが、やはり これも 年齢とともに減少します ので、栄養管理の上で 特別に注目されます。

♣ ここで モデルとしてパール特養に入所中の N.M.様89歳女性・認知症・要介護5の方の登場です。体格指数(BMI)は22.3、肌つやは良く立派な正常。血色素は9.5グラム、まあまあでしょう。問題のアルブミンは3.1グラム;低いけれど89歳だから目をつむりましょう。しかし 栄養計画で問題が出ました。一日蛋白摂取量は 目標が50グラムであるのに対し35グラムしか実現していないのです(15グラム不足)。不足が明瞭であるのなら補うべきとなります。氏の現状では 食事量を増やすことは困難であるため、安価で味の良い蛋白補強材の補充が考えられました。

♣ ここで根本的な問題を三つ挙げます。 ○I 栄養の必要量は性・年齢によって厚生省基準があり、それに従って食事の質・量が定められるのです。しかし、その基準表は70歳代までしか記載がなく、“70歳代以上は ひとくくり”なのです。つまり、目標量は70歳でも100歳でも同じとなります。89歳のN.M.様の場合、目標値を50グラムと設定するのは正しいでしょうか?

○II 次に、もし本当に不足分を補充することが「善」であるのかどうか の問題があります。我々は生きものですから、数値で表すと バラツキがあります。たとえば、わずかな貧血でも輸血の適応があるかと問われれば、病的でない貧血を輸血で治すことはありません。また、仮に補充したとすれば、それが有効であったかどうかを判定せねば ならないでしょう。貧血の場合は血色素量を検査、アルブミンの場合も同じくです。でもそうなると、これは「治療」です。困りましたね、家庭や福祉施設は治療に適した場所ではありません

○Ⅲ 次の問題点として、 「蛋白質補充剤」以外の補充方法 はできないものでしょうか?薬物や補充剤(サプリ)を使用するからこそ、客観的な効果を確かめたくなります。サプリでなく 普通の食品であれば、厳格な確認は不要でしょう。

♣ 私は50年まえの 日本がまだ貧乏だったころ のことを思い出します。あるネフローゼの患者さん、アルブミンの低下が激しかったため、食事処方箋で「高蛋白食」を処方 しました。なるほど高蛋白食が用意されましたが、貧乏な時代背景と高価な食肉不足のため、出てきた高蛋白食とは 多量の「鮫の肉」でした。一日食べたら もう食べられません。つまり、机の上だけで理想論を描いても、現実を、その人を よく観察しなければ「絵に描いた餅」の計画になります。したがって、症例・89歳のN.M.様への対応は、現在でもpendingです。

♣ 以上のことから、教訓 として言える事は ○A 数字面すうじづら)の多少を論じる場合、必ず 当の本人の様子を観察してから判断すること、 ○B 高齢者 がこんなに増えた御代なのに、標準値の表が わずか70歳代で打ち切り、というのは古すぎて情けない;今は 生まれた子は 日本であれ フランスやアメリカであれ、百歳まで生きられる時代です3) 。標準値の表を、70歳代・80歳代・90歳代・100歳代まで 早く改訂 して頂きたい。そうしないと、食生活での議論が不毛になってしまいます。

♣ なお、栄養問題だけに限らず、「不足を補う姿勢」は、人生のあらゆる面で 「メリット・デメリットの“せめぎ合い”」であることを よく認識しましょう。

参考: 1) 新谷冨士雄・新谷弘子:体格指数(B.M.I.)から見る生と死の狭間:老人ケア研究 第33号 2010年1月 : p12~23.  2) パールの安全管理: # 33 : 天寿の終点は B.M.I. ≒ 12。 3) This Baby May Well Live to 100. In National Geographic 11: 38, 2011.

職員の声

声1: 数字を見ると、つい不足分を補いたい気分になるが、お年寄りに無理強いは禁物だと思う — 枯れて行く様子を見るのは寂しいことだが。

声2: 太っていて アルブミン値の低い利用者は沢山いらっしゃる ! 数値上だけの判断によるケアは方向性を誤りそうです;治療と日常生活とは分けて考えたい

声3: 高齢者の食は 本人の様子を見て「胃袋に聞く」という姿勢が必要です。

声4: 胃瘻栄養などの場合でも、親切心で所定のカロリーをあげると かえって命を縮めることだってあります係り:その“所定”とは 多くの場合、机上の計算のようです)。

声5: 計算した栄養目標に それを受け付ける体力のない体の老人は、QOLの点で その計算を再考する必要があります —— 自然態であるべきと思う。

声6: 人は年齢に関係なく、自然食品を口から摂るのがベスト、薬やサプリは避けたい

声7: 「不足を補う姿勢は 人生のあらゆる面で「メリット・デメリットの“せめぎあい”である」と言うのは本当に同感です(係り:病気による不足をかばうのは治療;しかし年齢をサプリで治すことはできません;行動は 正しい見通しの下で行いましょう)。
 
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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