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(242) 治験 と ゾロ

  (242) 治 験 と ゾ ロ  

 パールのデイサービスをご利用のI.S.様(77M 要介3)は、新薬の「治験」を受け ておられ、日中の眠気が強まっています。治験って何ですか?リスクを伴うのでしょうか?

♣ このテーマは 高齢者と介護者にとっては重大の意義があります。従来 部分的に話題として取り上げましたが 1~4) 、今日は これら二つについて重点的にお話しします。

治験ちけん)とは、医薬品の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために行われる「治療の臨床試験」の略です。新しい薬が開発されると、それが“動物実験ではなく、本当にヒトに効くのか、副作用はないのか . . . ”を確かめねばなりません。40年以上前まで、薬の効果は「サンタ」で決まりました 1~3) —— つまり、声の大きい人が“効く ! ”と言えば “効いた”のです。でも それでは 薬の氾濫する現代を仕切ることができず、責任の所在問題も悩ましいです。そこで“薬効”を他覚的に納得できるように「治験」が行われるようになり、厚労省は治験の結果で新薬の販売を認定します。

♣ 治験は「二重盲検法」で行われます。まず、二種類の薬を準備します。一つは「お目当ての新薬」、もう一つは それと外見・味がソックリで薬効のないもの「偽薬」です。その使用に当たって、医師も患者も どちらの薬が使われたかが分からないように設定します。何ヵ月か後に、カルテを集計し、統計手法を用いて、「偽薬は無効・本薬は有効」と判定されれば、新薬は合格です。

♣ でも、患者さんにとってみれば、今 自分が飲んでいる薬が本薬か偽薬か分かりません。だから 二重盲検法は、患者さん側のボランティア精神を前提とします。日本ではボランティア精神の点で苦手が多く、試験は遅々として進行せず、その結果、国民が新薬の恩恵に浴するのも遅れます。今 厚労省では、新薬の申し込みが9千点ほど溜っていて、治験を待っているそうです 4) 。治験を嫌がる人に訊いてみると、“ワシはモルモットじゃない;キチンと効く薬を使ってくれ ! ”とおっしゃいます。まあ、聞けば 至極 もっともですね

♣ 次に「ゾロ」の話題に入ります。上記のように 新薬は難関をくぐった後 日の目を見るわけですが、その前に もっと大きい困難があります。まず化学物質として 何百何千という候補物質の中から めぼしい新薬を抜擢し、有益かどうかの判定より前に「毒性」を検討し、動物実験に入り、同時に他社の追随を許さないための「特許」をとります。特許の有効期間は15年ですから、時間を惜しんで人体実験に入り、合格であったら 健康保険適用の審査を受け、発売となります。ここまでで、薬によりますが、たいてい数年、100億円程度の投資です。特許の有効期間はあと数年しかありません。その間に、その薬の原価償却を終えなければ、次に述べる「ゾロ」が会社を襲ってきます

♣ そこで「ゾロ」の説明に入ります。特許期間が過ぎれば、新薬を開発した会社以外の後発会社も同じ成分の薬を合法的に販売できますこの場合、新薬開発に関する経費はありませんね。だから うんと安く薬を販売できるので、そのうま味にたかる後発会社は少なくありません。たとえば、降圧薬“RV”の場合は18のゾロ会社があり、それぞれ 別名で販売しています。18もの名前を覚えられる人はいません。街の薬局も全部を棚揃えできません。

♣ これら 後発の薬は正式には「ジェネリック薬」と呼ばれますが、一つの親薬に対して「ゾロゾロ」と這いだすように出て来るので、簡単に「ゾロ」とニックネームがつけられています。親薬が仮に一錠100円とすれば、ゾロは40円~60円くらいの安値で流通します。成分はまったく同じハズですが、薬の原料・副作用・供給の安定性・薬の外見などみな違います。患者さんも厚労省も より安い薬ですから「ゾロ万歳」のハズですが、実は うまく行っていません。政府は「生活保護の患者さんにはゾロを使うべし」と試案を出しましたが、蹴られてしまいました。

♣ パールでは、ご利用者さん方がいろいろな薬を使っておられますが、同じ成分の薬なのに こっちのゾロと あっちのゾロで 姿・形が違うので、困惑することもあります。ゾロはゾロなりで お互いの過当競争があるのですね。処方箋を書くドクターも指をなめなめ 参考書を引き 汗だくです。ゾロ発売は自由競争でしょうが、せめて一つか二つ程度に交通整理してもらえれば 有難いな、と思っていますが、実現しません。

参考:パールの安全管理 1) # 17 : サンタ。 2) # 37 : ゾロのひみつ。 3) # 47 : 薬って何に効くの? 4) # 89 : 新薬承認の遅延(Drug Lag)。

職員の声

声1: 一つの薬の開発に百億円レベルの資金が必要だと知り、驚いています(係り:もし その薬が日の目を見なかったら、その百億円はドブに捨てたお金になります)。

声2: ご提示の症例 I.S.様は「日中の眠気が強くなった」ようですが、「二重盲検」のせいでしょうか?(係り:その可能性は否定できませんが、「観察者の気のせい」かも知れず、「実薬の副作用」かも知れず、その点を明らかにするために「二重盲検」をしているのです)。

声3: 本当の新薬ならば、ご家族は 「藁(わら)をも掴みたい」思いがあるでしょう?(係り:肺癌に効くと言われる「イレッサ」は そんな思いに応えて、副作用テストを早めに半年で終えて発売、その結果が裏目に出て ただ今 思いがけない副作用訴訟で厚労省は てんてこ舞い——薬の効能の裏にある「副作用」を徹底的に探すのも、二重盲検の大事な役割です)。

声4: 私は「良い値段で 治験に参加しかけましたが、副作用のリスクを想像し、断りました(係り:戦前のアメリカでさえ、薬の治験を服役中の囚人で行った時期がありました;治験に応じると刑期が短縮されたそうです)。

声5: 治験がなければ、医学・薬学の進歩もないのですか?(係り:治験がなければ“大声の広告”の言いなりの薬になります)。

声6: 「薬 九層倍」と言われますが、私たちの見えない所で経費 が掛かっているのですね?(係り:仕入れ値段を九倍にして売っている訳ではありません)。

声7: 治験薬(親薬)は高く、ゾロ(ジェネリック)は安いという理屈を初めて知りました(係り:特許が絡む のです。似た例として「味の素」があります;特許が切れたあと、グルタミンソーダは普通の調味料の値段になりました)。

声8: でも 一つの「親薬」に対して18個ものゾロがくっつけば、品質管理は大丈夫なのですか?(係り:副作用調査が長年にわたって義務付けられるのは「親薬」だけです;ゾロには手が回らないそうです)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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