(253) 嫁 と 物盗られ妄想

 (253) 嫁と物盗られ妄想   

 もう60年も前のことですが、戦後の作家・丹羽文雄は 「嫌がらせの年齢」という作品で こう述べています;- 「老後を子供に頼るなどは、因習的な 古臭い考えである。時代は変わった。一人一人が 自分の老後の準備をすべきである. . . . 」。私は ぼんやり覚えていますが、「嫌がらせの年齢」という言葉は、老醜を描いた その頃の流行語になっていました。でも、流行語の発端となった丹羽文雄は、その後長く生きて「アルツハイマー認知症」にかかり、自分の娘さんに面倒を見てもらって 逝かれたそうです。まあ、あの有能なレーガン米大統領(在 1981~1989)やサッチャー英首相(在 1979~1992)でさえ アルツハイマーになったんですものね、他人のことは言えません。

♣ また 現在の介護保険の導入に関係のあった 40年前の「恍惚の人」;有吉佐和子の この小説では、主人公の立花昭子は 認知症に陥った舅の繁造に 徹底的な意地悪をされました。その頃、私は これを読んで気分が悪くなりました。だって、まだ私は そんな世界を身近に持っていなかったし、認知症の実態など まるで 知らなかったからです。有吉は その本の売り上げから得た印税1億円を老人施設に寄付を申し込んだところ、多額の贈与税を課されることが分かり、ビックリしたそうです。まったく 今昔の念に耐えません。

♣ さて前置きが長くなりましたが、今日のお話は 在宅サービスの K.Y.様(85F 認知症)についての観察です。夕方になると(16~17時)「物盗られ妄想」が現れ、「嫁が盗った」と興奮されます。ナゼ「夕方」で、 ナゼ「嫁」なのでしょうか? このことをパールの元精神科嘱託医のO先生にお伺いしてみました。

♣ O先生:- 真実でないことを真実と思い込み、それに固執することを「妄想」という。妄想の中身を訊くと、およそ病気の診断ができる。被害妄想は統合失調(分裂病)の、罪業妄想はウツ病の、物盗られ妄想は認知症(痴呆)の特徴である。その他、老人の妄想には「帰宅願望」があり、一括して「たそがれ症候群」と言われ、午後3時頃から発生する。その原因は「体と気分の疲れ」から来ると言われる(幼稚園児と似る)。ナゼ「嫁」か というと、家族の中で「一番他人」であり、いじめ甲斐があるからだろう。脳の病気による現象であるから カウセリングは無効である。

♣ 上記の 丹羽文雄さんと有吉佐和子さんは 時代の古さからみて 認知症の実態を 今のあなた方ほどは経験していなかったでしょう。それでも 近年の問題として提起をなさった訳です。日本の認知症は すでに700年前の「徒然草」(つれづれぐさ)にも紹介されるほどの歴史があります 。あなた方は どういう感想をお持ちですか?

参考: パールの安全管理  # 2 : 痴呆以前。

職員の声

声1: 「嫌がらせの年齢」では、作者・丹羽文雄が啓蒙的な老人問題を提供していながら、ご自分自身が まだ未知の世界のアルツハイマーになってしまうなんて、予想できなかったのでしょうか?(係り:60年前というと、アルツハイマーの名前は ほとんど世に知られていませんでした)。

声2: テレビで素敵なアイドルを見ると、嘘だと知っていながら恋をします;これって妄想でしょうか?(係り:嘘だ、または 嘘かも知れない、と思うのなら それは健康な人の恋です、妄想の場合は病気です、嘘という気持ちは 一切 ありません)。

声3: 妄想に こんな種類があり、それぞれ特徴的な性質があるなんて、知りませんでした(係り:聞いたあと その人を観察すると 勉強になりますね)。

声4: 私はデイサービスを担当していますが、確かに お年寄りは夕方になると 不機嫌になって帰宅願望を言い張る方があります;一種の子供帰り だったんですね?(係り:子供は病人ではないから、それは正しい表現ではありませんが、認知症の“周辺症状”だと理解しましょう)。

声5: 私は K.Y.様と同じようなケースを2例持っています;いずれも溺愛した息子を嫁に盗まれた、と思っています。

声6: 認知症になっても「嫁いびり」をするなんて 怖いです(係り:認知症には“中心症状”と“周辺症状”があると知っていますよね;中心症状は「どの認知症の方にもある症状」、つまり 痴呆 です;周辺症状は 「それぞれの方ごとに異なる妄想」で、嫁いびりは その一つです)。

声7: 嫁・姑の関係は「永遠のライバル」だと思う(係り:その考えも、世の中が 三世帯生活から二世帯生活に進化するにつれ 薄くなりました)。

声8: 嫁・姑で すごく仲良く暮らしている方も多いですよ(係り:両者とも賢くなったのですね;でも しかし あなたが80歳になり、姑さんが 110歳になったら、賢さだけでは問題が解決しません。上記の「恍惚の人」の場合、嫁をいじめたのは姑ではなく 舅でした。 “妄想”を鍵 にして、これからの長命老人の福祉のあり方を よーく 考えて行きましょう)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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