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(257) 延寿 (えんじゅ)の騒動

 (257) 延寿の騒動  
 
 今日は在宅サービスの 三村さんの症例を提示して頂きました。95歳のご婦人で 介護に対する拒否・不潔・暴力のあげく、息子さん ともども 3人がかりで「羽交い絞め」にして訪問入浴を行う、という 現場の雰囲気が想像できましたか? 福祉の実務とは 崇高かつ旺盛 なものですね。

♣ さて今日は、人々の行いが いかに崇高かつ旺盛であるかを 歴史と現実で探って見ます。四千年前バビロンの王ハンムラビは 一本の石棒に楔形(きっけい)文字で「ハンムラビ法典」という世界最初の法典を編纂しました。中には有名な「目には目を、歯には歯を」という文言があります。「睨まれたら睨み返せ、噛み付かれたら 噛み返せ」という意味ですが、これは「復讐」(ふくしゅう)という意味ではなく、「過剰な報復を禁ずる」という意味です。その頃は、些細な理由で人々は奴隷にされたり 殺されたりしました。ハンムラビ法典は「公平・弱者救済」を呼びかけ、それを法典化したのです。

二千年年前には、キリストが現れ「右の頬を打たれたら 左の頬も出しなさい;求められたら 与えなさい」という思想を表し、世の人々をビックリさせました。ところが それから二千年後に起こった 9.11事件がでは、ブッシュ米大統領が「歯には歯を ! 」と叫んで イラクのサダム・フセイン大統領を捕まえ、絞首刑にしてしまいました。同じ「歯には歯を」ですが、その解釈の仕方は4千年前のハンムラビが 一番 優雅ですね。

♣ さて、今度は今日的な話です。南太平洋の孤独な領域に「イースター島」と言う島が浮かんでいます。渋谷駅西口の「モヤイ像」で有名な島ですね。現地の人は この島を「ラパ・ヌイ」と呼びます。研究者が40年前、島の土壌(どじょう)から有益な抗菌剤を抽出し、島の名前にちなんで「ラパマイシン」と名づけました。今日の話題:「延寿の騒動」は このラパマイシンから始まります。

♣ ラパマイシンは「抗菌作用」と「抗免疫作用」を持つことが認められました。つまり「臓器移植の成功」への途がひらけたのです。さらに3年前、ラパマイシンは「延寿作用」さえあることが発見されました1) 。まだ ヒト への実験は行われていませんが、ネズミでは 寿命を38% 延ばすそうです。しかも、老齢のネズミに使っても有効でした。研究者たちは「ヒトへの応用?」を考え、色めき立ちました。今のところ、延寿作用はネズミ、イヌ、サルのレベルで確認されています。ラパマイシンは 人のアルツハイマー、パーキンソン、2型糖尿病、骨そしょう症にも有効だそうですが、その基本作用は「細胞の寿命延長」であり、ガン細胞の寿命さえ延ばします。後者は解決すべき問題です。

♣ 一般に「延寿」作用があると認められるコトは三つあります:-① 長寿遺伝子を所有すること——親が長寿なら子も長寿、② カロリー制限(飢餓はダメ)——餌がもらえないと、いま一度 繁殖にあずかりたいと遺伝子が頑張るようです、③ ラパマイシンのような薬物——ガン作用を抑えて 長寿にあずかりたい、という製薬会社の熾烈な競争、の三つです。

♣ そこで、話が文頭に戻ります。この介護に抵抗する95歳の女性に ラパマイシンを用いて延寿作用が期待できるでしょうか? もし「ある」のなら、介護抵抗のままで寿命が延びるのでしょうか?それとも10年ほど若返って 元気になった延寿なのでしょうか? 延寿とは「健康寿命の延長」でなければ価値はないと思いたいのですが、ならば 現在行われている「健康寿命の回復は期待薄の特養入所」は無意味なのでしょうか?

♣ 死んだはずのウインストン・チャーチルもペニシリンの発見で生き返って ひと仕事をしたし、心臓移植で元気になった人も 沢山います。つまり、ヒトの行いや期待・運命は読みきるのが難しいと思います。なにしろ人が「丈夫で長生き」の延寿なら問題はありませんが、最近 増えてきた「粗暴プラス病気 で長生き」の延寿も平等に扱うこととすれば、「延寿の騒動」はまだまだ続くかも知れませんね。平等は基本原理ですが、今、その正当性を個別に考え直す時期に来ている気がしてなりません。

  参考: 1) David Stipp: A New Path to Longevity. Scientific American. Jan : 20~27, 2012.

職員の声

声1: イースター島で採れたラパマイシンの延寿(えんじゅ)作用がヒトにも応用される機運だとのことですが、それは「人の幸せに寄与する」試み なのでしょうか?(係り:ここに引用した95歳の攻撃的な認知症の女性に投与することは、問題が多過ぎ ますね)。

声2: 人生を「いかに生きるか」という情況の人の延寿ならば まだしも、「生ける屍」のような例に使うのは、むなしい試み だと思います(係り:日本人気質は「人の姿をしているもの」は、たとえ藁(わら人形であっても 捨て難いものなのです)。

声3: 私は薬漬けの延寿を拒否します(係り:がんらい長寿というものは、親が子に渡す遺伝子による結果です;だから長寿を研究する本には、秘薬を求める前に「親を選べ ! 」と書いてあります;でも子供は こればかりは選べませんね)。

声4: 「延寿」という言葉そのものがマユツバもの です;何年生きていても「足りない」と言う人なら、何年加えても「足りない」と言い張るでしょう;「これぞ 我が寿命・これにて 足れり」と思う心が幸せに繋がる。

声5: どんなに科学が進んでも、人が不老不死になることはない と思う;新しい発明があっても、必ず未知のウイルスや天災が降りかかってきます;そこそこの元気と長生きで十分ではありませんか——だって この頃「ポックリ寺」が人気なのですよ2) ;「延寿」は考え直しましょう。

声6: 延寿について、ご本人と ご家族の間の意見 は たいてい異なります、「有効な薬」が開発されたら なおさらのことです;そこで具体的な解決の提案をします:- ① ラパマイシンご本人の意思 があれば使用できる、② その場合、私費であって医療保険の適用外である、③ ご本人が判断能力を喪失したら、使用を中止する(係り:あなたは いつも具体的な解決案を示して下さるので 問題の本質が鮮明になります——つまり、今日の結論は = QOLが良好で 社会貢献ができる人なら 延寿もOK ! 3)

  参考: パールの安全管理  2) # 118 : 長生きの妙薬。 3) # 248 : 介護の将来像。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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