(290) 五箇条のご誓文 と 胃瘻

 (290) 五箇条のご誓文 (せいもん) と 胃瘻 (いろう)  

 私は 4/12に発売された週間文春誌に「胃瘻長屋」という記述を見つけ、思わず背筋がゾクッとしました。元来、胃瘻とは 「まっとうな」 医療手技です。しかし、正しい適応へ応用されない限り、「まっとう」な手技ではなくなります

♣ わずか40年以前には、「老衰、つまり 老化による自然死」が存在しました(I.V.H.や胃瘻がなかった)。老衰によって、口から食べることができなくなり、家族に見守られながら 自宅で(畳の上で)亡くなる高齢者は 極めて自然でした。

♣ しかし、日本に胃瘻の技術が輸入され、2000年、日本の介護保険の開始とともに 高齢延命は爆発的に広がり、ご利用者の生存権の主張として、胃瘻設置が盛んです。パールでは、胃瘻を不希望のご家族は約半数、残りは 訳が分からないまま 胃瘻を付けられ 施設に戻って来られるのが実情です1) 

♣ 人は高齢になると、一般に食事中でムセルようになります。それがひどくなると、食物は胃に行かず、肺のほうに流れ、その結果 ひどい肺炎を起こします(誤嚥性(ごえんせい)肺炎)。これが何度も続くと、痩せ衰え、体格指数(B.M.I.)が最低の12 近くで自然に亡くなります2)

♣ ところが、胃瘻をつけると、死亡の延期が可能になります。効果は平均約 1.2年 、経費は 約900万円 3) 。問題は、胃瘻の延長人生が「拷問人生」であるという事実です。だって、文頭の「胃瘻長屋」にあるように、胃瘻の人たちは、安全のために一箇所に集められます。彼らは 表情も硬く 目を見開いて天井を見ていますが、 言葉もありません。シーンとした静寂の中で、胃瘻点滴のしずくの音だけがポタリ・ポタリ;そんな寝たきりの人々が 胃瘻長屋で もの音もなく 多数 並んでいます。語りかけても返事はなく、”親の胃瘻を選択したハズの 肝心のご家族の訪問も少ないまま”、月日がたちます。栄養剤は時に口へ逆流することもあり、誤嚥性肺炎の危険と同居であるため、ナースの監視は気を許せません。しかも、体格係数(B.M.I.)は、日一日 12 に近づいて行きます。初めて この風景を見る人は その おぞましい雰囲気に身の毛がよだつ でしょう。

ナゼ日本だけで胃瘻延命が好まれるのでしょうか? 欧米では、こんなことしません。しなければ、数日で死が訪れますが、そのとき、ご本人の生前に一番好きだった着物を着せて、家族とともに、その数日を過ごすと言います。

♣ 日本の法律は人間の「死の尊厳」について、何も語ってくれません。私は むしろ「生の尊厳」を、もっと こまやかに考えたいと思うのです . . . . . そこに 朗報が現れました ! !

♣ 以前 超高齢者延命に非協力的な医師は、理由は何であれ、 「お縄に」 繋がれました。ところが、先月(2012.3.22)、この「お縄の慣例」は やっと解き放たれました(“延命医療をしない医師の免責”という議員連盟のニュース)4) 私は日本人が いつまでも「胃瘻長屋」の悲劇を続けるほど愚かではなくなること知り、ホッと一息つきました。

♣ 明治元年、維新の「五箇条のご誓文せいもん)」を 私は思い出します。その第四条は 次の通りです: 「旧来の陋習(ろうしゅう)を破り、天地 (あめつち) の公道に基づくべし」 :(念のため、ドナルド・キーン氏の英訳: Evil customs of the past shall be broken off and everything based on the just laws of nature)。私たちは このご誓文によって「人間の自然な死」を巡って 建設的な意見を交わすことが きっとできるようになると思います。機は熟しました。有り難いことです。

参考: パールの安全管理 1) # 76 : 胃瘻のメリット・デメリット。 2) # 33 : 天寿の終点は BMI≒ 12。 3) 佐々木英忠:高齢者肺炎における誤嚥性肺炎の重要性、日内会誌 138:1777, 2009. 4) # 281 : 私の願いとコスト。

職員の声

声1: 私も週刊文春の「胃瘻長屋」の話を読み、背筋が凍りつきました;体温のある屍(しかばね)とは 何と悲しいことでしょう

声2: 「寿命が尽きたから食べられない」のであって、「食べないから寿命が尽きる」のではないと思います;たとえ延命胃瘻をしなくても、医師の免責が認められる時代になったのは 一歩前進ですね。

声3: 特養のご家族に「説明と同意の書」の会話をしますが、胃瘻を知らない家族が多いし、まして“胃瘻を受けた後の恐ろしい問題”を知っている人は まずいません

声4: 平均余命が 1.2年 ・経費は 約900万円 だという実態が どれほど分かっているのだろう?(係り:そのときは 寿命に打ち克つためのベストを工夫するのであって、各論に触れることは稀です)。

声5: 老衰死に対する責任を負いたくない医師は 家族に胃瘻を勧めます;家族も 同じく 親の寿命を回避するため 胃瘻に同意します;それは愚かなエゴの悪循環ではないですか?
 (係り:テレビの“水戸黄門”で、乱闘を鎮めるために“各さん”さんは こう言います: 「静まれ、静まれぃ ! この紋所が目に入らぬか !!!、一同、御老公の御前である、頭()が高い! 控えおろう!!! と一喝し、悪人一味は土下座して平伏する」 —— ここで言う“紋所とは胃瘻による延命に相当します;親を人質にとって 命の尊さを解説する「上意下達」なのですから、逆らえません土下座するのは“家族”です;この論理で胃瘻が堂々と日本の社会を渡るのです —— 親を胃瘻延命しなかったら 子は村八分にされると思う のでしょうか)。明治天皇のご誓文は このような陋習を破るために ご下賜されたのでは ないでしょうか?

声6: 大事なことは、胃瘻が天地(あめつち)の公道に沿っているか?という判断でしょう? 係り:もし沿っているのなら、全世界で延命胃瘻がまかり通るでしょう。でも、長寿のうえ 衰弱して 食べる力も失せ、意思の疎通もなくなったお年寄りを、日本の技術が発達したからと言って「親を生ける屍しかばね)にする 胃瘻の選択は 天地(あめつち)の道ではない 」と思います。超高齢者胃瘻こそ ご誓文の 「 旧来の陋習 」であり、破らねばなりません)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR