(298) 人間脳 と 動物脳

 (298) 人間脳 と 動物脳  

 デイ・サービスの認知症クラスのY.K.様(86F アルツハイマー認知症 要介護1)は、何かの拍子に 不穏・帰宅願望が出ます。自宅にいても不穏や昼夜逆転、居眠り後には まったく別人になったような挙動の断絶変化があります。認知症で「帰宅願望や不穏」になるのはナゼでしょうか?

♣ このような不審な様子は 介護保険の対象者のほぼ全てに関係する「重要問題」です。精神科の嘱託医・O 先生のご意見を伺いました。

O 先生> 認知症のお年寄りでは、帰宅願望は ごくごく普通に見られる。それを制止しても止むことはなく、また願望を叶えて ご自宅に案内しても“ここはワシの家ではない”などの発言もある。ここで 私の一経験例を示す:その方の帰宅願望は人並み以上であった。よくよく聞きだす”と、帰りたい先の家は今の家ではなく、自分が育った 昔の家だ、と言う。そこで、昔の家 = 伊豆の大島、波浮港 (はぶのみなと) の丘の上まで同道 してみた。しかし彼女は“ここではない ! ここは違う ! ”とおっしゃる。本人の希望を聞いて 遠くまで同道してみたものの結局 彼女の希望は満たされず、変な経験をしただけに終わった。

♣ 「帰宅願望」は「帰巣本能」の一形態であると説明され、動物一般に認められるものである。人間は ふだん 大脳の作用によって自分の「帰巣本能」を他人に洩らすことはないが、大脳細胞が萎縮する認知症では、「帰巣本能」を抑えきれず 表に出してしまう。また、居眠りの後に「変な挙動をする」とのことだが、ご自分は居眠りしたことを記憶していず、居眠り前後の「不連続感」に何かの違和感を持ち、それが不穏に繋がるのだと思われる。

♣ ここで 振り返って人の脳のつくりを復習してみよう。人の脳は、脳底部にある「動物脳」と、その上にかぶさる「人間脳」より成る 1) 動物脳は生命維持に必須であり、食事・排泄・恐怖などを司る(古皮質とも呼ばれる)。他方、人間脳は、進化の後に付け加えられた脳、つまり新皮質とも呼ばれ、 「人の知恵」を司る大事な機能を持つ;ただし「もろく 壊れやすい ! 」。

アルツハイマー認知症で壊れる部分は、この新皮質であり 古皮質は無傷である ! その結果、人の行動は だんだん動物脳で支配されるようになる。帰宅願望や不穏は、そのせいだと考えられている。これに関して、当のご本人に尋ねても 理由を説明できない から、私たちは推測するのみであるが、アルツハイマー認知症は 治ることのない病気であるゆえ、いくら尋ねても、正しい答えは返って来ない。真面目にその方の人権を尊重すると、 波浮港 (はぶのみなと) の丘の上 にまで同道することになる。

参考: パールの安全管理 1) # 231 : ど忘れ。

職員の声

声1: この方は街で徘徊・転倒 されましたが、ケガにもかかわらず、みごとに帰宅されました;帰巣本能のおかげ でした。

声2: 「帰宅願望・不穏」等の行動は「人間脳の萎縮」によると言いますが、やはり精神上の「きっかけ」があるように思いますが(係り:その「きっかけ」は大脳で発生します;大脳が故障すれば「きっかけ」も発生しません)。

声3: 動物園に海外からつれてこられた動物たちが 故郷を思い出して鳴く姿、これがご利用者の姿と重なりあいます(係り:帰巣本能が満たされない、という状況はあるのでしょうが、「故郷」という概念は 動物にはありません)。

声4: 脳は大事な臓器です;崩れて欲しくないですが、逆に「天才」になる崩れ方はないものでしょうか?(係り:熱力学的には“ある”そうです;ただし、その確率は100億分の一くらい——地球人口が今70億人ですから、事実上 “ない”と言えます)。

声5: 病気になると 脳底の「動物脳」が その人の人物を支配するようになる のですね;だから予測もできない認知症の行動が起こるのですね(係り:わずかに残っている大脳が 少々人らしさの味付け をするでしょうが、それは その人によります)。

声6: 体の他の部分の病気なら「部品の故障」に過ぎませんが、「大脳の故障」は「人間の尊厳」に関わります;私は ケアを通じて、認知症であればこそ、ご本人の尊厳を守りたいです。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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