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(23) シャニダールと福祉

「心って何ですか?」と聞かれると 返事に困りますね。この問題を軽くするために「私の心」と限定すると、たぶん 乳幼児の頃から 心はあったと思います。では「人類の心は どれ位昔からあったのだろうか?」との問いに対しては 再び 難しくて返事をしにくい。ヒトは500万年ほど前、アフリカで生まれたと言われますが、その頃 たぶん 心を持っていなかったでしょう。それは 蛙や羊・猫に心が無いだろうと思うのと同じです。養老孟司さん(元東大解剖学教授)に尋ねると「心と大脳は同じものの二つの側面である」とおっしゃいます。「脳の表面には電気が走り回っている;大脳はいろんな情報を集めて「心」を紡いでいる」とのこと;つまり 心 = 大脳の電気でしょうか。問題は 小さな動物の脳ではなくて、ヒトの持つ「大脳」であり、したがって 心は人類だけが持つもののようです。

♣ イラクとイランの北部に「シャニダール」という地域があります。150年まえの19世紀、考古学者たちが そこの洞窟を発掘していると、ヒトの骨が見つかりました。推定時代は約6万年まえ。その時代なら 現在のヒトではなく、ネアンデルタール人の骨です。よく見ると、骨の間に「花の花粉」がいっぱい 化石となって散っていました。その花粉の花は現在でも周辺に見られるといいます。つまり、ヒトの先祖であるネアンデルタール人は「死者を悼み、花を捧げる習慣があった」と解釈されます。このことから、ヒトの心は 「少なくとも 6万年まえからあった」と結論づけられます。

♣ おまけに、さらに調べると、その周辺から「歯のない老人の顎の骨」が 多数見つかりました。もし猿なら 歯が無くなると 死にます。つまり、歯が無くても生きて歳をとることができたことから、ネアンデルタール人は弱いヒトを援ける心、つまり「福祉の原型がそのころにあった」と言えるでしょう。考古学者とは いい事を教えてくれますね。

♣ さて同じ19世紀で特筆すべきことは チャールズ・ダーウィンが「進化論」を発表したことです。いまだに「進化論」を否定するグループがありますが、進化論を煎じつめて表せば、「適者生存」の一言に尽きます。ヒトは どのような信念を持とうとも、「自然の法則」「進化の原理」の中でしか生きられません。

♣ 「 自然の法則」とは、ヒトが手を加えない限り、状況は一番深い無秩序状態に陥る、と言うものです。言ってみれば、お月さまや火星の表面のように、これ以上どうしょうもないほどに無秩序になる(エントロピーが最大ともいいます)。道路や家があるのは、ヒトが手を加えたからであり、ほって置くと元の土に戻ります。

♣「 進化の原則」というのは、“子を産まない歳になったら動物は死ぬ”という遺伝子の運命、また生命で“永久不変”というものはなく、絶えず 少しずつ“適者生存”の原理に従って子孫が変化して行く、というものです。だから、ネアンデルタール人は今いません;少々進化したヒトがいるのみです。にもかかわらず、「心の始まり」は 変わらずに受け継がれています。「死者に花を捧げる」とか、「歯の無い他人を援ける」などの行為は「自然の法則」「進化の原理」に違反しているように思われます。

♣ そこで「福祉」に立ち戻って考えてみましょう。年金・医療・福祉は 財務省から あたかも「敵」のような扱いを受けます。もちろんお金がかかるからです。でも歴史を振り返ってみれば、6万年まえから ヒトは 死者を悼む心、弱者を援ける気持ちを持っていたのです。財務省が敵視しようが、「自然の法則」「進化の原理」と矛盾しようが、ヒトは別格で やさしく強く生きているのです。自然の原理・原則などは ごく最近の学者のアイディアに過ぎません。

♣ ヒト以外の動物は たぶん 心を持たず、私どもから見れば「訳の分からない一生」を送るのでしょう。しかし、ヒトには「6万年の歴史を背景にした福祉の心」があるのです。皆さん、仕事の中で、もし疑念が自分の胸の中に生じることがあれば、福祉の心はシャニダールの昔からあった、と思い出しましょう。

職員の声

声1: 6万年まえのシャニダール地方、想像もできませんが、その頃に「人の死を悼む心」があったのは感動的です。

声2: 歯のない顎の骨がでてきた、つまり、老人を援けていた;解釈すれば、弱者を援助する気持ちがあったのですね、福祉の原型だと思います。

声3:花一輪を捧げる心は、6万年まえから現在に連綿と繋がっています。

声4: 動物の子育ての場合、親の優しい心があるように見えますけど(係り:でも子が育ったあと、親は子を他者として攻撃します;自立を促すため、とも考えられますが、子育ては「遺伝子」に組み込まれているのでしょうか?

声5:本当に動物には心がないのでしょうか?(答え:心は大脳の神経細胞を行き交う電気の総称である、と定義すれば、心は人間にしかありません)。

声6: 歳をとって、自分の気持ちを表現できなくなると「心は死ぬ」のでしょうか?(答え:考えてみてください:赤ちゃんに心が根付くのは何歳ころですか?また、認知症が進行して意思の疎通ができない老人の場合、あなたの観察で、心はある としますか?全部失われているのではなく、半分くらい?それとも?)。

声7: 人間の「脳死」の場合、臓器移植のまえに 大脳は死んでいるのですか?(答え:心が存在していないことを確認します;しかし自律神経系の脳は生きています;心と死との関係は なかなか難しいですね)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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