(33) 天寿の終点は BMI = 12.0

 人類の夢は「長寿の追求」でした。そして日本人は、ここ20年間 世界一の長寿を続けていますから、我々日本人は ついに人類の夢に到達したのだ、と言われます。でも、「夢到達の充実感」がありますか?

♣ 実は昭和27年 (1952年)に日本人の平均寿命は、昔の35歳から50歳にまで伸びました。それからわずか半世紀後の今では、平均寿命が90歳近くになります。人は60歳までは、働く方が主力ですが、60歳以後は、リタイアーする方が多いです。その隠遁した人たちが長生きし始めた訳ですから、社会の対応が大慌てとなります。

♣ 特別養護老人ホーム・パールは創設以来 12年目に入ります。ただ今 特養パールの平均寿命は89.1歳(最高108歳)です。他方、私(冨士雄)が医学を学び始めたのは昭和27年、つまり人々の平均寿命が高々50歳の集団を対象としていた時代の医学でした。すなわち、私は医学教育で学ぶことのなかった65歳以上の隠遁した人々の医療にたずさわる訳で、パールで仕事をするとき、何をしたらよいのか 慌てました。そもそも医療とは、病気の人が元気を取り戻し 元の仕事に復帰することを援助する術ではないでしょうか?つまり、世界一の寿命に達し、もうする仕事のない人々の、主に年齢に関わる不調に対して何らかの操作をするのも医療と言うのでしょうか? それが求められ、また可能なのでしょうか?

♣ パールは医療施設ではありませんので、私は医療器具や経費をかけないで、高齢者の天寿に関する何らかの意味ある指標はないものか、を研究してみました。それが「体格指数・BMI」です(Body Mass Index = 体重÷身長÷身長、正常値は 22±3)。BMIは 元来「肥満」を判定するための指数でした(25以上は肥満、30以上は高度の肥満など)。ところが、施設の高齢者を対象にBMIを毎月調べてみると、従来 報告されたことのない事実が分かって来ました。その一端を次にお示しします。(詳しくは後記文献を参照)。

♣ お年寄りも若者も、健康が安定していれば、デブはデブなりに、ヤセはヤセなりに、BMIは安定しています。代表的な一例をお示しします。症例Hさん(95F)は入所時のBMIが25、つまり肥満気味でした。5年間は 安定な経過で そのまま BMI 25、そのころ、食事中に誤嚥をされました。何度かの誤嚥により高熱を出し、入院で手当てを受ける、このようなサイクルを 何度か繰り返しました。BMIのチャートを見ると、BMIは毎年 平均2.0の割で でこぼこしながら直線的に低下し、BMIが12レベルに至ったところで他界されました。BMIチャートのおかげで、その経過が あらかじめ予測できました。

♣ 今日の安全管理では、スペースの都合上、他の多くの症例の説明は出来ませんが、私どもの結論は 次の三つに要約されました: 健康が安定していれば、BMIも安定した経過を示す(=当分 死なない)。 いったん誤嚥を発生すると、BMIは直線的に12に向かって落ち、12以下では生存が困難である。 BMIのチャートは終末期ケアにおける「生死のはざま」の判定を視覚化してくれる(予後が分かる)。

♣ パールは高度に組織された施設です。以上の成績は、私のアイディアによるものですが、それを実現するためには、特養の職員一同・施設長・理事長の協力・参加が不可欠でした。この論文は一同の喜びであります。       文献=新谷冨士雄・新谷弘子:体格指数(BMI)から見る生と死の狭間:老人ケア研究 第33号 2010年1月 p12~23.  なお、この文献は「パールのホームページ」の1頁目からリンクできます。

職員の声

声1: 私は BMIって「デブ・ヤセ」の指標としか考えていませんでした。

声2: 若い女性は BMI 17あたりを理想とします(係り:BMI 17 はファション・モデルの標準値です;しかし、その低い値を維持すると、熟年になって骨粗鬆症で苦しむでしょう)。

声3: 標準より低いBMI にも意味があるって、初めて聞きます。

声4: 老人施設で「誤嚥とBMI」が関係することを初めて知りました;人間は誤嚥性肺炎をきっかけに食べることに興味がうすれ、精神力も低下して行くようです。

声5(看護師): 多くの胃瘻の方に所定の液体食を差し上げても、BMIの回復は望めず、むしろ、栄養補給中に苦しみの呻吟(しんぎん)があり、意思の疎通もままならないことがあります;胃から喉や口のほうへ逆流して 誤嚥性肺炎の進行もみられます。

声6(栄養士): 人のエネルギーは「需要・供給関係」が大事です;そもそも厚労省の決める1,400kcalは多すぎます;経口摂取なら余分は食べ残しとなって 誤嚥の心配はありませんが、胃瘻の場合、身体の需要が少ないのに 多いカロリーをあげると、苦しむだけでなく 誤嚥もあり、かえってBMIの低下が促進されます。

声7: 欧米では 胃瘻はもうすたれています;ナゼ日本で胃瘻が栄えているのか、問題を提起したいです(答え:ご本人は力尽き果て、胃瘻を希望されることはありません、胃瘻はご家族の希望です)。

声8: 10年間の長期データを目にすると、ご利用者の「天寿」が見えてき、説得力がありました。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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