(331) 認知症 の 社会背景

(331) 認知症の社会背景  

「慣れる」とは不思議なもの、今 私たちは「認知症」と聞いても、一群の病気の人たちをピタリと想像し何の狂いもなく仕事に励む ことができます。でも「認知症」という言葉は、まだ世に出て7年目の新しい言葉 です。

2005年に厚労省が この名前を制定しました。それ以前は「痴呆(ちほう) ;さすがに「痴呆」は差別的な臭いが濃厚だったでしょうね(= 精神的にうつろなさま;ばか、あほ、まぬけ)。日本で「介護保険法」が実施されたのが2000年ですから、介護業務スタート初期の頃の該当者は「痴呆」と言われていたのです —— 今となっては信じられませんが。

♣ また、この名称を受け止める医師・介護者側のほうで、実は異論がありました。だって「認知症」だけでは「認知亢進か 認知不全か」が不明瞭です。名称委員会でも揉めたでしょうが、結局「認知症」で納まりました。

♣ この裏には、難しい病気の種類が増えてきた現実があると思います。先輩格の病名としては、「腎症」(透析が必要ならまとめて)、「肝症」・「脳症」・「心筋症」(原因未定でも手当てが必要)などがあります。

♣ 近年の日本の歴史では、有吉佐和子1972年(昭和47年)に「恍惚(こうこつ) の人」という作品を世に出し、世間はショックを受けました 1) 。じゃ、それ以前には何と呼んでいたか?気違い、狂い、年寄りボケ」などでした。実は、認知症は700年まえの兼好法師(徒然草)の記載にもあった病気で 1) 、高齢者が少なかった時代には目立たなかっただけです。

認知症の正しい定義: ― 「いったん正常に獲得された人の知的能力が 再び失われて行く状態」です。でも、いろんな症例報告が増えるにつれ、その正体が見え始めました。まだ手探り状態の初期、オーストラリアの46歳の“クリスティーン・ブライデン”という女性の物語が有名です。立派な公務員でありながら、認知症と診断され、「自分らしく生きることができる」と訴えて、ご自分の精神症状日誌を発表され、好感が持たれました。

♣ 日本でも湘南病院の院長先生が ご自分の様子を詩にしてご発表でした。そのあらましは:- お願い:私が医者だったことを まず忘れてください;蛇がいる などヘンなことを言うでしょうが 怒鳴らないで 怒らないで下さい;食べたばかりの朝ご飯を まだ貰っていないと言うでしょう;昼夜が分からず 怖くて騒ぐかもしれません;そんな時 私の好きだった歌を聞かせてください . . .

♣ アメリカのレーガン元大統領は辞任4年後に認知症、骨折、続いて肺炎で亡くなりました —— 絵で見るように“典型的な”認知症の経過です。同時代のイギリス元首相サッチャーも 辞任10年後に認知症で 夫の死を知らず、まだご存命です。身の周りで知った人の認知症が増えるにつれ、社会の人々は 「人間についての理解」 を深めて行きます。

認知症の名前が定着して今年で7年、今では 病気として、また生活としての 認知症の方々は「正当な扱いと介護を受けてお過ごし」です。

認知症になった人、これからなる人、そのお世話をする人、みんなが正しい知識と笑顔で対応 できるようになった今日この頃を見渡すと、わずか十年余の介護保険時代ですが、日本の社会は深みを増し、成熟してきたことを思わずにはいられません。

参考: パールの安全管理  1) # 2 : 痴呆以前。

職員の声

声1: 私は自分や親が「老いる」なんて、考えもしなかった です;介護職に入って 初めて それを実感しました。

声2: 私は「認知症」という呼び方に違和感を覚え、馴れにくかったです;どうして名称を変更したのですか?(係り:1972年の「恍惚や痴呆」という言葉の差別感をいつまでも放任できなかったからでしょう;同時期に名称を変更されたものに「統合失調症」があります;以前は「分裂病」でした —— これに関しては 今でも異論があって、「“分裂”のほうが 優しく聞こえる」と言います)。

声3: 最近は「認知症」の言葉に慣れてきたご家族が増えましたが、「うちのお婆ちゃまの 認知が進んできた . . . 」などの表現をよく聞きます(係り:文字通りに理解すると、それは「賢くなった」という日本語ですよね;確かに介護保険後13年、認知症の自然進行のありさまが手に取るように経験される時代になり —— つづめて「認知が進む」という新しい日本語ができつつあります)。

声4: 認知症はナゼ子供が罹らない のですか?(係り:認知症の考え方、つまり 少なくとも、いったん正常に獲得された知能が ふたたび失われる、という経過を重視するから、やはり大人の病気なのです;先天的な知能障害は別な病気です)。

声5: 認知症は「一つの病気」なのですか?(係り:人間の脳は ① チクワの形をした「脳幹部分」と、その上を覆う キャベツの形をした「大脳部分」があります 2) :① は呼吸・循環・性・食などの生命脳です、② は人間だけにある知恵の脳。① は長命です; ② は50年を越えると あちこち虫食いが発生し、やられた場所ごとに症状が違います。つまり 知能低下を示す「一つの病気」でありながら、症状は千差万別です)。

声6: これから増えていく認知症;死亡前に対応法を家族内で話し合っておく ことが必要ではありませんか?(係り:パールでは お一人だけ自筆の「延命不希望書」の例がありました——ただし、本人はとうの昔に忘れているので、倫理上の問題は他の人と同じでした)。

声7: 私は自分が将来 認知症になるかどうか、不安です(係り:認知症の共通特徴”は「時・所・人」の認識を この順で失う ことです;まず「時」を失えば 過去・現在・将来の区別が消えます3) ——つまり、死の不安や将来の不安もなくなります:その意味では「ボケ勝ち」であり、本人はきっと幸せなのでしょう)。

   参考: パールの安全管理  2) # 150 : 蛙の痴呆。 3) # 30 : ボケ勝ち。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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