(351) 幹(かん)細胞 と 永遠の命

 (351) 幹 (かん)細胞 と 永遠の命     

 今日は、高齢者と幹細胞(かんさいぼう)の関係を考えます。

私たちの体は、たえずすり減っています。皆さんがた、気付いていないでしょうが、平均して毎日1%の細胞 ( = 約6千億個)が死滅し、ほぼ同数が補充されています1) )。その補充役を演じるのが幹細胞です。幹細胞とは、「細胞分裂を経ても 同じ分化能を維持する母細胞」のことです。それが分裂するとき、自分自身と娘細胞の二個になり、自分自身は変化せずに残ります(だから幹細胞と呼ばれる)。

♣ 他方、生まれた娘細胞は日常の生活用に送り出されます。その娘細胞の運命が終わって消えるころ、幹細胞(= 母細胞)は、また分裂して、新しい娘細胞を一個こしらえ、放出します。このように、幹細胞は分裂を重ねることによって打ち出の小槌」式に 次々と娘細胞を送り出します が、無限の繰り返しではありません。体の組織の別によって、その分裂の回数は異なりますが 2) 、「平均すれば一年に一回」と見られるでしょう。その意味を四つの例で話します3)

① 肌: 皮膚細胞は下(真皮)から新しい細胞が供給され、古い細胞は「垢」 (あか)となって捨て去られます。ただし皮下の幹細胞の補給の回数は百回程度です。百歳老人の肌を知っていますね、薄くてテラテラ・ピカピカです。もう細胞の補給限度いっぱいです。化学洗剤で無闇に肌を洗うと、皮膚の大事な脂が消え去り、擦り切れます。

② 血液・臓器: 赤血球の寿命は120日、古いものは絶えず破壊され、胆汁となって腸に排出され、黄色い便の色となります。血液の補充は骨髄の中にある「血液幹細胞」の働きによります。全身の臓器も、古くなると壊され、血液のリンパ球で処理され、尿の中に、または肝臓・腸を通り 便になって捨てられます

③ 神経・筋: 神経と筋肉には、そもそも幹細胞がありません。これはヒトのみならず、哺乳類に共通の現象です。つまり、失われた神経や筋肉は補給されません。逆に考えれば、生まれた時のまま 死ぬまで同一の細胞が生きて働いているのは「神経と筋肉だけ」、その他の細胞は 全部 “入れ替わり・選手交代制 !! ”。

④ 命: 命の幹細胞は「精子と卵子」です。受精した卵子は、次の世代を創り上げます。これを繰り返すことで、動物は永遠の命を得ます。野生動物は 生殖年齢 ≒ 寿命ですが、ヒトの場合 生殖年齢は約50歳にもかかわらず、今、その2倍以上の生存が可能な時代です(延寿の実現 ! )。

復習: 古い組織は「鼻・尿・便」の 三つのルート を通って捨てられる: 使い古したエネルギーは気体(CO2)としてから捨てられる 液体になれる組織は尿に混じって捨てられる(壊れた体細胞・アンモニア・尿素など); ①②でないもの(固体)は “便” として捨てられる(便を 単に“食べ滓(かす) ”だと思ったら 大間違い ! —— 便の60%は水、20%は腸内細菌、15%は腸壁細胞などの体細胞滓(かす) タッタ5%が食物滓(かす)です)。

♣ こうして 私たちは 毎日 体重の1%相当の体組織を捨て、食事によって失った組織を補充しています。

♣ 命の存続期間は動物ごとの“繁殖期”に合わせて決められ、人間の生存は 繁殖期のおよそ2倍に近い古い細胞を 絶えず新しい細胞と入れ替え、これを子孫繁栄に繋ぎ合わせて “永遠の命”を獲得している。あなたは今日、こういう命のメカニズムを知りました。

命の源 = 幹細胞を大切に使うことが 「永遠の命の秘密」だ、と学びました。

参考: 1) 中川恵一:がんのひみつ、学士會会報 p106~118, 2010-I (No880)。 2) パールの安全管理 # 92 : ヘイフリックの回数券。 3) Stephen S. Hall : Crossing the Lines, in Discover 10: 36~41, ’07.

職員の声

声1: 肌は こすれば こするほど 新しい肌になると思っていましたが . . . (係り:確かに 新しくなりますが、細胞の補給数は有限であり、早く使えば 早く終わります)。

声2: 特養のご利用者の娘さんが“母の肌を徹底的に洗って欲しい”とおっしゃいます(係り:その方の肌は薄くなり このところ切れたり出血しやすくなりました —— 皮膚の幹細胞は残り少ない状態;化学洗剤の使用を避け、脂を落とさないように気を配っています)。

声3: 妊娠初期には 赤ちゃんの幹細胞が どんどん分裂して成長するので、母親は無暗に薬を飲んで、悪い影響を与えてはいけないと聞きました(係り:サリドマイドという睡眠薬が悪さをして“アザラシ子”が発生したことは 有名です)。

声4: スポーツによって 筋肉が増えるのも 幹細胞から筋細胞が増えるのですか?(係り:筋線維数は増えませんが、一本一本の線維が肥大します;しかし年齢を重ねるたびに、筋肉細胞・神経細胞は減って行く運命です)。

声5: 高度な身体活動をして 新陳代謝を高めると 命の終わりも早く来るのですか?係り:Yes !! ロウソクの芯を掻き立てると、灯火は明るくなり 早く消えるのが理 (ことわり) です;昔の肉体労働奴隷の歴史を見て下さい;または、長命な人が 過去にスポーツマンだったかどうかを尋ねてください;適正な身体活動が長命の秘密です)。

声6: 「永遠の命」ということは「先祖が子孫を通して命を繋ぐ」という意味ですね?(係り:ただ今、アメリカの「火星探査船・キュリオシティ」が大々的な探検中で、毎日 解像度の良い映像を送って来ます、でも 生命の徴候はまだ見つかっていません;命とは 定義により 「今を生きる・子孫を残す」 ことだそうです;生命の目標はこれに尽きるでしょう)。
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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