(355) 救急車を 20回 呼ぶ

 (355) 救急車を 20回 呼ぶ   

 皆さん方は、高齢者の突飛 (とっぴ) で実力行使的な行動を目前に、唖然 (あぜん) として手を拱 (こまぬ) いた経験は有りませんか? 手を拱いた理由として「この方にも 私と同じように人間としての尊厳があり、この行為は十分考えた上で、理由があってのことであり、それは尊重すべきである」という人間尊重の姿勢だっただろうと思います。今日は そのような症例を一つご紹介します。

症例 S.H.様(91M、要介護1)は独居。妻は30年前に他界、子供はなく、同居の姉は半年前に他界。その頃から急に情緒不安定となる。その症状は、便秘が進み トイレとベットの間を往復、不安気分で睡眠障害があり、抑えきれず 自分で救急車を呼び、夜間に病院を受診。診察・検査で異常がないと言われれば、都心の もっと大きい病院を救急受診し、やはり入院治療は適応とならない。これを半年の間に 20回 繰り返す。たまたま、パールのショート・ステイの話が進み、12.8.4 入所。診ると、ナース・コールを押しっぱなし。トイレの誘導・また誘導の重なる希望・浣腸の希望・自分の傍から離れないで欲しい・腰を押して欲しい . . . その状況を観察すれば、おのずと問題の何かが見えて来た。施設は 夜間 職員一人で20床の対応であり、トラブルの前兆が見えてきた。至急、ご親戚に連絡、そのご希望により退所となった。他日、専門の老人ホームに移られた。

♣ この状況を 精神科嘱託医のK.M.先生にお伺いしました。ご意見は:―― ① 年齢を聞かないで 症状だけを知れば「強迫神経症」かも知れない。② 強迫神経症は 若年脳の病 (やまい) である。しかし この方が 91歳であることを知れば、この病名は消える。つまり 90歳の脳は 90年の人生を経験した「人間の脳」のハズだ。その脳が理 (ことわり) ある説明や助言を無視し、救急車を呼び、これを繰り返し、学ぶことを知らない ―― この状態は 脳の理解力レベルの低下、つまり「認知症の進行」と見るのが適当である。③ 治療は 抗不安薬のスタートであろう。④ 救急車は一回 ¥45,000 経費が掛かる。これをタクシー代わりに利用すると、莫大な費用の乱用になるが、現実には止めようがない。

♣ 皆さん方の経験の中にも、お年寄りの 実力行使的な「困ったちゃん」があるだろうと思います。教科書で学ぶ認知症の症状は「他人迷惑」について詳しくありません。そこで、皆さん方の感想を述べて頂きたいと思います。

職員の声

声1: 事の顛末 (てんまつ) の解説を受けると、ナルホドと思います―― 「91歳」が鍵だった のですね、覚えておきます(係り: “レベルの低下”は科学的な表現ですが、「ボケたガンコ」と言い換えれば、さらに分かり易くなります)。

声2: デイ・サービスにも よく似た高齢のご婦人があります:トイレに行って 2~3分後にまたトイレを希望 ! 排尿はほとんどありません、それが午前中 続きます . . . その間、私はトイレに付き添い、他の仕事はできません . . . 高齢者の「聞く耳を持たない不安」を取り除くのは困難至極です(係り:救急車を20回呼ぶのと同根 (どうこん) の認知症現象ですね ―― トイレでの転倒・骨折の危険は避けねばならず、心痛なことです)。

声3: 強迫神経症の方は 自分で状況が分かっていても 止められないのでしょう?(係り:90歳のガンコな人の場合「自分でそれが分かる」なんてムリ !

声4: つまり「他人迷惑」している自覚がないのですか?(係り:認知症では「他人への感謝・迷惑・社会貢献 . . . そういう抽象観念」は消失しています)。

声5: ガンコなお年寄りって、認知症のこととは知りませんでした ―― 認知症とは もっと高級な病気だと思っていましたが係り: 「病気の脳」でも、「そこに実在する脳」なら 治療法の開発余地がありますが、「そこに存在しない脳」(認知症 = 脳細胞の脱落)の治療は困難です)。

声6: 救急車出動一回の経費が ¥45,000と聞き、ビックリです;この方は運搬費だけで90万円 ! でも無料なのですね。

声7: その経費は 私たちの税金で賄われます;まず有料にし、後の審査の上で 払い戻す、としてはいけないのですか? 係り:案として度々出ますが、実現しません)。


解説: みんな 認知症を「高級で上品な病気だ」と信じているようだが、必ずしも そうではない ! ここで 認知症の解剖学を復習しよう*)

☛ 脳は頭蓋骨の中にあるが、その底にある「チクワ形の部分」と、その上に覆いかぶさる「キャベツ形の部分」より成る。「チクワ部分」は「脳幹(のうかん)と呼ばれ、全動物に共通な機能を持ち、それは「呼吸・循環・体温・食欲・性欲」などの「生命維持の基本」を司る。自分を守るために、腕力や牙をもって 他を攻撃したり、餌や繁殖の争いをするのが任務 である。

☛ 他方「キャベツ部分」は、人間を人間らしくする「大脳」であり、その役目は ①「自分と他人の平和的共存」を按配する、② 「チクワ」部位分の 粗野で発作的な自己主張を 滑らかに制御すること、である。人間は頭脳で優劣が決まる;つまり 頭脳を武器にして自己防衛に走る のは動物としてまともであろう。ところが、認知症では ① が壊れると他人のことを慮る (おもんばかる) 知恵が出てこない。② が壊れると社会生活が困難な野蛮人になる。① ② が合わさって壊れた状態が「人格の崩壊」であり、大脳がない状態、つまり「蛙のような状態」に近づく。

「チクワ部分」は 丈夫で壊れない が、「キャベツ部分」は脳卒中・認知症で容易に壊れる。「救急車を20回も呼ぶ」という行為は人格の崩壊以外の何物でもない。

☛ 91歳とは言え、立派な大人なのだから . . . と遠慮する気持ちは貴いが、 ① ② が壊れている人を 正常脳の人と対等・平等な扱いをするのは「間違い」である。たとえ「ワシを気違い扱いにするのか ! 」とわめかれても、おびえてはならない。きちんと精神科医に相談するのが正しい。

☛ 重ねて申し添える:認知症の人に親切心を期待してもムリだ !  また、その逆も真である。つまり、親切のできない高齢者を見たら 認知症を疑うことを忘れてはならない。 

 参考: パールの安全管理
  *) # 150 : 蛙の認知症。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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