(363) 等張 (とうちょう) と 等尺 (とうしゃく) の話

(363) 等張 (とうちょう) と 等尺 (とうしゃく) の話  

 「等張、等尺」など、聞き慣れない言葉ですね。今日は、その耳にしない言葉を使って「人の行動、リハビリ、筋肉生理学」を勉強します。

♣ 今では使われなくなった「 (しゃく) 」、尺貫法 (しゃっかんほう) の長さの単位で( = 30.3cm )、6尺が「一間 (いっけん) 」;現在でも家や土地の広さを表わすのに使われる一坪」は一間平方(2畳)です。「尺を取る」とは、私たちの小指側の前腕の骨、つまり尺骨 (しゃっこつ) で 布地などの寸法を測ることです。このことから 「等尺とは長さが同じ」という意味で用いられます。/ 「 (ちょう) 」は「引っ張り」のことで、「等張とは引っ張りの力が同じ」という意味です。

♣ さて、筋肉の一端は「 (けん) 」となって骨に付着し、他の端も腱となって別な骨に付着しています。筋肉の仕事は「収縮すること」ですから、脳からの命令があり次第、収縮して、一つの骨と他の骨の間を近づけます。たとえば「肘を曲げる」ときには、上腕二頭筋が収縮して前腕骨を上腕骨に近づけ、その結果、肘が曲がります。その意味は分かりますね。

♣ 前置きが長くなりましたが、筋肉が収縮する形式には、その筋肉の「長さが短縮する」場合と「長さが変わらず 緊張するだけの」場合の二種類があります。この形式の違いによって 運動の意味が かなり異なります。その生理学的意味の違い を述べましょう。

まず等張:筋収縮によって、骨と骨の間が縮まります。「等張」という意味は、張力計で測ってみると、その筋肉の収縮に伴う張力が終始 ほぼ一定である、ということです。自動車のエンジンにたとえると、アクセルもギアも不変で 一定の出力状態で走行している、という意味です。私たちの 大部分の日常運動(歩く・走る、体操など)では、筋肉は「等張運動」をし、良い能率で使われます。つまり、 “等張”は 長続きする運動に適して います。このとき、血圧は “収縮期”が上がり、“拡張期”は下がり、脈拍・呼吸数は上昇、空中の酸素は必要なだけ取り入れられ、運動は効果的に長続きできます。よって、このような等張運動を「エロービック」と呼びます(エロ = aero = 空気あり;ビック = 形容詞語尾)。テレビなどでは「有酸素運動」とも呼ばれます。心臓への負担からみても「好ましい」と判定される運動です1)

次に等尺重量挙げ、腕相撲、おんぶ・抱っこ . . . これらの場合、筋肉は強く収縮しているにもかかわらず、その長さは変わりません。この場合、発揮される力は強く、長続きは困難で、しかもひどく疲れます。このように、収縮筋の長さが変わらない収縮を「等尺運動と呼ばれます。自動車にたとえると、アクセルを踏み込み ギアをローに落としているようなものです。こんな場合、血圧は 収縮期・拡張期ともにピンと上がり、脈拍は減少、呼吸は「息止め」に近く なります。このような等尺運動を「アネロービック」と呼びます(アネロ = anero = 空気なし;ビック = 形容詞語尾)。「無酸素運動」とも呼ばれます。これは 心臓への負担が重く、「老人にとっては 好ましくない」と判定されます。スポーツの種類によって、アネロを長年月続ける運動では、筋肉がもりもり膨れた「マッスルマン」になります(その典型が相撲の関取・重量挙げ選手)。

♣ さて、高齢者に向いた運動とは何でしょうか?言うまでもなく「エロービック」ですね。間違っても「アネロービック」を勧めてはいけません。職員の皆さん方は、「等張・等尺の原理」を踏まえ、具体的な運動の種類を選んでください。アネロービックを職業上の生業 (なりわい) にする人は、一般に寿命は長くありません。逆に、エロービックは寿命を長持ち させます2)

♣ でも、Roux(ルー)の原理3) を思い出しましょう:運動の「し過ぎ」と、次に「しな過ぎ」は「適切な運動」に ずっと劣ります。元気で長寿の方々は ほどほどにエロービック運動の生涯を過ごした方々です。

  参考:パールの安全管理 1) # 200 : 筋トレと神経。 2) # 181 : 筋トレに関する三つの誤解。 3) # 46 : ルー(Roux)と智恵。   解説:正確には「等張」は「アイソ・トーニック」、 「等尺」は「「アイソ・メトリック」と言います。アイソは「等」、トーニックは「張」、メトリックは「尺」。

職員の声  

声1: 筋肉運動に「等張」と「等尺」の二種類があることを初めて知りました;私もこの勉強を 実地に役立たせたいと思います。

声2: 「等張運動」が高齢者には適当とのこと、二種類の運動の判断ができるように気をつけます。

声3: 高齢者には 鼻からの酸素が自由に出入りできる「等張運動」(歩く・体操などのエロビック)を勧め、「息こらえ」をする等尺運動(物をかつぐ・抱える、腕相撲などのアネロービック)は不向きだと知りました。

声4: エロビックという言葉を初めて聞きました;これはエア(Air)から来た言葉で、空気を吸ったり吐いたりしながらする運動のことですね(係り:Yes, right ! )。

声5: 高齢者や高血圧の方には 等尺運動を避けるようにします。

声6: ケア先で私自身が発揮する労務筋力は 等尺運動が多い ように感じます(ご利用者を抱える、重いモノを抱えて動かすなど);その結果でしょうか、私の腕・足は太くなり、疲れがたまります;等張運動に切り替えてみたい(係り:まあ、家庭内労作でムキムキマンになるのは困難でしょうが . . . )。

声7: デイ・サービスでは、過剰な運動が健康を助ける、と考えるご利用者があります;ルーの法則にのっとって 正しい運動を指導します(係り:そういう方は 必ずおられます;自由に放置しておいても 自然に飽きて 普通の体操をなさるようになります)。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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