(371) 忘却 の 幸せ

 (371) 忘却 の 幸せ  

 お隣の国、中国・韓国・北朝鮮でも高齢化が、特に農村・漁村の高齢化が進み、社会問題のトップを占めているそうです。

♣ 中国では「馬齢 (ばれい) を重ねる1,2,3) と言って、いたずらに歳を取ることを揶揄 (やゆ) していますが、「ムダ飯を食う馬齢」は どうも全世界の傾向のようです。私に言わせれば、人間は賢いのだから、 「ムダだ」の「馬齢だ」とからかわないで、静かにヒト本来の有り方の意味を考えてみたいと思います。

♣ 先月、私が見たテレビ・インタビユーのことです:夜の お茶ノ水の学習塾に通う一人の小学3年生への質問:キミは、ナゼ夜遅くまで勉強するの?答え:うーン . . . 「僕は豊かな老後」を過ごしたいから . . . 。私は、この“こましゃくれた答え”を聞いて 思わず半分笑い ながら、半分は深刻でした。きっと親から仕込まれた答えなのでしょうが、これが現在の世相を表すのでしょうか?

♣ 実は、先週 パールで私は「ある老後の実態」を“まざまざと”見つめたのです。歳の瀬が迫ってきた11月末、都立X商業高校のブラスバンドが デイーサービス・ホールで 音高く にぎやかに演奏し、「認知症クラス」の高齢者たちは喜んで、拍手喝采でした。音楽を楽しんだお年寄りたち、地下のホールに戻るエレベーターに乗った時は、まだ興奮冷めやらず、「素晴らしかったなー ! 」と連発でした。その わずか20秒後、 エレベーターから降りた時、私はもう一度念を押しました:「ブラスバンドは楽しかったですね?」:すると 驚いたことに 彼らは キョトンとして「何かあったのかね?何もなかったよなー? 」と一同 顔を見合わせ 声を揃えて完全な忘却の有様です !! まあ、何ということでしょう !!! これが「幸せで 豊かな老後の実態」なのでしょうか?

♣ ご存知、認知症の特徴を一言で言えば「 (とき) の記憶喪失」です。認知症では、まず「さっき」と「今」がつながりません。昨日と今日の区別もつかず、したがって明日のことも 分かりません。もちろん、自分が いつの日かには‘死ぬ’という将来の不安の念もありません。私たちは「四次元の世界」(縦・横・奥行き+時間)に住みますが、時間が一番先に頭から失われます。

♣ 人間以外の生物は、ひたすら現在の刹那 (せつな) のみを生きますが、人間だけは「将来」を理解し、それゆえ生命の有限さを自覚して、そこに「幸・不幸」という感覚が生まれる、と心理学者は述べています。ところが、直前のことを忘れ、直後の予想もしない パールのお年寄りたち ! . . . にもかかわらず「幸せの感覚」は、時 (とき) を失った人たちにも キチンと存在していました

♣ 老後の「ムダ飯」や「馬齢」の意義を 本気で問い詰めてもキリがないでしょう。でも、ヒトの生きざまとは何なのでしょうか? あなたは どんな感想をお持ちですか?「はかない」ですか? それとも「なるほど こんなものか? 」でしょうか?

♣ 私たち一般人は、85歳で半数が、110歳なら全員が「認知症」に陥るそうです。ちょうど 歳とともに白髪が混じるのと同じ現象ですね。目で見える「白髪」は みんなが知っていますが、 「認知症」も 同じようにやって来る ことは まだ知らない人が多いです。でも 近年になって 反発心なく 穏やかにそれを受け入れる時代背景が整ってきました。

♣ 「豊かな老後というイメージ」は年々変わって行くものでしょう。いや、これから変えて行かねばならない かも知れませんね。

参考:パールの安全管理 1) # 266 : 年金と介護の行方。2) # 320 : 介護期間を短縮する。3) # 353 : 在宅亭主は馬齢か?

職員の声

声1: 歳をとって“自分が誰だか分からない”老後の実態は、小学3年生には理解できないと思う(係り:理解できないでしょうし、また教える必要もない でしょう:また“年金を保証され、豊かな老後”を夢見る 中年人間の幸せ予想4) に冷や水をあびせるのもいけないでしょうね)。

声2: 彼らは出来事の記憶を失いますが、ラッパの演奏を聞いて「幸せな気持ち」を感じたのであれば その一瞬は「幸せな老後」だと思います(係り:刹那の幸せですね)。

声3: 永い宇宙の歴史からみれば、人の一生はほんの一瞬です;でも たとえ「はかない」と言われようとも 幸せな日々は貴重です。

声4: ボケないで身体障害が強い人は さぞ辛いだろうと思います;過去を忘れ 今の生活を助けて貰う認知症の方々は むしろ幸せ です(係り:これは「ボケ勝ち5) と呼ばれていますね)。

声5: 神様が認知症の方へ贈った「記憶喪失」! でも「喜怒哀楽」は残っています係り:認知症では 言葉の会話は通じなくても、body language -- "身ぶり言語” は通じますね)。

声6: 認知症の人たちは幸せだろうけど、その幸せを支える職員たちは 大変だよなー ! 係り:不思議なことに、職員たちも幸せ なのです;たぶん この仕事に向いた心の持ち主なのでしょう)。

声7: 「小3の学生」が「豊かな老後」と言っていますが、そのためには 現行システムが 将来も不変でなければならない(係り:たしかに、昔の老人は“介護保険”の恩恵にあずかれなかったし 、その点、今のお年寄りは恵まれています;だから、これから先 何十年もこのシステムを維持・発展させる必要を感じます)。

声8: あの大音量のブラスバンドの演奏を聞いたからには その記憶が体のどこかに残っているはず、いつかは思い出すのでは?(係り:あの小学3年生は、「豊かな老後のために 今勉学に励む」と言っていましたたが、パールのお年寄りたちは 確かに 今「豊かな老後」を過ごしておられます。つまり、矛盾するようですが、 忘却 とは「老後の豊かさ」の重要な成分なのだ、と納得することができますね)。

参考: パールの安全管理  4) # 364 : ゆとりある老後と年金の保証。5) # 31 : ボケ勝ち?
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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