(38) フィリップ・モリス

 
 パールではタバコをやめられない人がまだ多数あります。今回 タバコの値上げで禁煙に走る人は思ったより「少ない」との予想ですが、今日の安全管理は「費用便益分析」という「鍵」で「儲けを確保」する たくましい業者の話をします。「和田努さん」*と「鈴木裕さん」の最近の発表文**をご紹介しながらのお話しです。

♣ ご存知、フィリップ・モリスはアメリカの煙草の大会社です。モリス社はチェコ共和国で大規模なビジネスを展開していますが、チェコ政府は喫煙による医療費増大を憂慮し、タバコ増税を検討し始めました。モリス社としては、なんとか増税を阻止したい。そこで「費用便益分析」という方法を用いる検討を外部に依頼しました*。その結果、喫煙のせいで政府が失うお金より、手に入るお金の方が上回る事が判明しました。

♣ つまり、喫煙者が生きていれば、国家予算の医療費負担が増えるが、一般に 喫煙者は「早死にする」ので、政府は医療費・年金・介護費が節約できるのです。タバコ税収と喫煙者の早死にによる公費の節約を比べれば、後者のほうが大きい訳で、喫煙者お一人につき1227ドルほど政府がトクすると計算されました。したがって「費用便益分析」によると、チェッコ政府はタバコ増税をせず、できるだけ多くのチェッコ人が煙草を吸って早く死んでもらうほうがトクとなります。ある評論家はこの事態を知ってこう書いたといいます:タバコ会社はタバコが人を殺すことを従来 否定していたものだが、いまや人を殺すことを自慢している、と。かくして、チェッコ人たちは激しい怒りと冷笑をモリス社に浴びせました。

♣ 営利会社というものは、そして政府そのものさえ、自分の儲けになるものであれば、「費用便益分析」という こ難しい権威の衣の前に、たちまち目が曇り、善悪・尊卑の判断がつかなくなるようです。同分析の「数値主義」で分かることは財政効果だけであり、人の死の悲しみ、家族の苦痛、悲嘆、不幸などは完全に捨て去られます。数値というものは、えてして人間の優しさや情念を壊し、心を麻痺させます。だって、人が早死にするという不幸さえ、国や会社の利益にカウントされているではありませんか。分析の正しさを主張するのなら、定年後 働かなくなった老人は みな片付けてしまえ、というヒットラー主義につながります。

♣ 200前、イギリスが中国(清, しん)に麻薬の「阿片」(あへん)を売って大儲けをした時代がありました。中国の皇帝は「我が国民の数は非常に多いので、少々の国民が死んでもワシは苦しゅうない」とうそぶきました。この言葉にイギリスは勢いづき、戦争に訴えてまで 恥ずべき阿片の貿易を強要しました(阿片戦争1840年)。同時代の長州藩士・高杉晋作は 隣国の阿片戦争の実態に学び、欧米列強の強欲な日本侵略を予想して 国防の充実を建白(けんぱく)し、幕末の曙を行動しました。

♣ 「生き馬の目を抜く」という諺(ことわざ)をご存知ですか? フィリップ・モリス社は「費用便益分析」で チェコ共和国という「生き馬の目」を抜こうとしたわけですが、さすがに失敗しそうです。皆さん、こういう論議には注意しましょうね。

♣ 介護の世界に、“タバコの損得”のような「怪しげな理論」が持ちこまれても、「人の心」が だまされてはなりません。介護で「費用便益分析」の数値主義に引用される例を2~3挙げてみます。① 要介護5のかたは年間予算が約500万円です;もし要介護5の方を80歳から100歳まで20年間 お世話すれば 1億円の経費が必要となります。② **胃瘻を行うと、平均1年2ヵ月生存して約900万円の費用が掛かります。胃瘻の代わりに末梢静脈点滴1,000ccを行うと、2ヵ月生存し、約100万円です。③ 現在 日本では年間7万人が経管栄養を行い、そのうち6万人が要介護高齢者です;この6万人が もし半分の3万人になると、3万人×800万円 = 2,400億円の経済効果と算出されます。

♣ 人の世の行いは、昔と今では根本的に変わりました。昔のお年寄りはニコニコ笑って経費は無料でしたが、現代では超高齢なお年寄りとの会話も格段と少なく 介護経費は高価です。文明の進化には工夫が必須です、少なくとも「長命介護の維持に伴う経費」に関して、健常者の理解に基づくご支援が頼みの綱となります。  参考 *和田努:経済しか見えない単眼構造、新医療 8:69 2010.  ** 鈴木裕:嚥下障害、 日内会誌 138:1777, 2010.

職員の声

声1: タバコを値上げすれば、その消費が抑えられ、その結果 国民の健康が守られる;という理屈を誰が信じますか?(係り:少なくとも、日本政府はそう説明しています)。

声2: その値上げを阻止すれば、タバコ消費が従来通りであり、その結果 国民は早死にし、政府は年金・医療・介護費が少なくすむので得をする;こういう「費用便益分析」を国民が了承するのですか?(係り:国民はともかく、フィリップ・モリス社の損益がかかっています)。

声3: つまり「タバコを勧めると 国民が早死にするので、政府として、お得になりますよ」、そんな分析を受け取る政府は腑抜けだ!

声4: 「要介護5」の方が20年で1億円、「胃瘻」の方が1年2カ月で900万円などと聞きましたが、それが福祉の「費用便益分析」なのですか?(係り:この場合には金銭に換算できる便益は皆無でしょう、主に ご家族の心の便益でしょうか)。

声5: 私は、お年寄りの介護に莫大なお金がかかるのを知ってビックリです;私の「年収」では傍にも寄れません;ご本人も辛いだろうし、周りも大変です;寝たきりにしない方法を考えるのが一番良い(係り: 欧米の方針がそうですね)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

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