FC2ブログ

(436) カレンちゃんの 鉄の肺

  (436) カレンちゃんの鉄の肺

 皆さん方は「鉄の肺」って 聞いたことがあるだろうか?

♣ 20世紀の初めには「小児麻痺」という病気がはやって、多くの小児が死の転帰をたどった。この病気は小児麻痺ウイルスが子供の脊髄に感染し、呼吸筋を麻痺させて窒息・死亡に至る 怖い病気である。なぜか、アメリカに多く発生し、同国の大きな社会問題になった。

♣ これの治療に用いられた装置が 1928年に発明された「鉄の肺」であった。体をすっぽり覆う鉄製の円筒がそれであり、患者をその鉄製の円筒の中に入れ、首から先だけを円筒から外に出す。鉄の肺は、モーターの働きによって内部の空気を2秒ほど陰圧にし、3~4秒ほどで 元の空気圧に戻す。これを一分に16~20回 繰り返す。装置が陰圧になっている間 患者の肺に鼻から空気が流れ込み「呼吸」ができ、窒息を免れることができた

♣ どれくらいの期間 これを利用するか? 記録によると62年の長きに亙って使った例があるが、多くの場合、病気の急性期だけに用い、呼吸筋の麻痺回復に伴って生活は自立できる

♣ 長い間 鉄の肺の中に住んでいて 食事や“おしも”の世話、着替えなど はどうするか?(係り: 鉄の肺には「扉」があって、それを開き、急いで体のお世話をする。30秒程度なら呼吸困難には陥らないから大丈夫だ。

♣ 私がこの鉄の肺に入った子供を見たのは 1958年 東大小児科で だった。鉄の肺は日本ではまだ珍しく 多くの研修医たちがそれを観察していて、それぞれが いろんな将来像を頭に描いていた。その理由は「カレンちゃんの鉄の肺」の物語である。

♣ カレンちゃんはアメリカの少女で 確か8歳だったと思う。小児麻痺に罹り 鉄の肺に入って順調な経過であった。しかし彼女も女の子だ ―― 4年も経つと初潮が訪れ、やがて乳房もふくらんできて立派な女性となった。鉄の肺から飛び出た顔は穏やかで美しく、会話もウイットに富み、鉄の肺生活も数年に及び、呼吸筋の麻痺もやがてとれるのではないか、と予想されていた。

♣ しかし、ある朝 彼女は冷たい体になって 死んでいた ! 鉄の肺の電気スイッチは切られていたのだ ! それは停電や事故ではなく、明らかに人の手で切られていたのだ。いったい 誰がカレンちゃんの電気スイッチを切ったのか ! いろんな捜索が行われたが、スイッチの切られた真相ははっきりしなかった。消耗して小さくなった家族に 病院の責任者はひたすらお詫びするばかりだった。

♣ これがカレンちゃんの「鉄の肺物語」である。これは何を教えるか? つまり、人の命がわずか一つのスイッチだけに依存するリスキーな治療方法の採用可否であろう。普通は一つの方法が主役を演じても、フォールス・セイフのやり方で 万一の過誤が発生しても安全に補われる。まあ、あの時代には まだフォールス・セイフという余裕ある考え方はなかったのであろう。

♣ 現代では、陰圧式鉄の肺は用いられていない。代わりに、「陽圧式呼吸器」が使われ、はるかに安全で 普通のベットに普通の生活ができる態勢で、スイッチの問題はありえないようになった。

♣ そこに、子供ではなく 老人に新しい問題が発生してきた ―― それは「延命点滴」と「延命胃瘻」である。点滴は寿命を3ヶ月程度、胃瘻は 普通1~2年、最高数年程度延ばすことが期待される。こちらの治療法は高齢老人の あくまで「延命法」である。しかし危険の本質は鉄の肺と同じく存在する ―― なぜなら、老人の場合 会話ができる意識はなく 不時の困難な事態の発生の予測も対応も何もできないからだ。その結末は 生命の終焉( しゅうえん )である。管理者は慢性的に気が抜けない。

♣ 私は思う: ―― 小児麻痺の場合は 将来の夢があり 笑顔で仕事に従事できたであろう。だが、意識のない老人の延命療法の場合、冷たい緊張だけは一人前にあっても 笑顔は ないに等しい。万一 事故があった時、悪者や犯人探しは誠に気が重いのだ。新聞やテレビで時に事故が報道されることがあるが、皆さん方はどう思われるか?  

結論: なろうことなら、意識のない老人の場合、カレンちゃんのスイッチ問題のようなクリティカル事態が起こらないよう、正しい治療法の適応を求めていきたい。
 
  職員の声

  声1: 私は「鉄の肺」を初めて聞いた;それはロボットなのかと思ったが その中に収容されると小児麻痺が治ると聞きビックリだ;でもスイッチ一つの間違いで死ぬこともあるのは怖い。

声2: 医療・介護での事故は 受益者もリスクについて認識が必要だ、特に自己判断のできない老人の場合、ご家族がその任に当たって欲しい。

声3: 私はナースなのに 鉄の肺を初めて聞く、一度実物を見てみたい;お風呂はどうするの?小児と老人では治療の目標が違うが、ご家族の思いを大切にしたい(係り:バスタブに浸かる入浴はムリ、清拭ですます)。

声4: 鉄の肺と聞くと“怖い ! 尊厳はあるのか?疑問を持つ係り:フランスの作家 アンドレ・ジュマが描いた小説「鉄仮面」は実話を元にした小説で、罪人に「鉄製の仮面」をかぶせ 34年に亙って残酷に放置した . . . これに対して>" 「鉄の肺」は尊厳に満ちた明るい治療法だ;呼吸困難に陥った子供たちを 茶筒型の箱の中にスッポリ入れて呼吸の支持をするものだ。講堂ほどの広い場所に50台ほどの鉄の肺が置かれ、集中的に治療が行なわれる ―― 趣旨は違うが 現代の 新生児・未熟児用のプラスチックの酸素箱のようなものだ)。

声5: それは必要な救命法だったのか?(係り:鉄の肺は1928年の発明というから、昭和の初期の物語だ;呼吸困難で死んでいく子供たちを救う唯一の方法であり、急性期を通り越せば、鉄の肺から出ることができ、未来への人生が始まる ―― 奇跡とでも言うべき当時の最新鋭の治療法だったのだろう。

声6: 老人について ご家族の希望とあれば何でもできる、というのは見直すべき だと思う(係り:これから将来のある子供と、人生が終わった老人とでは、 「尊厳」という文字の意味が異なるのは自然ではないだろうか?  )。

声7: 最近 契約した訪問看護利用者の方は「蘇生法適応除外」を申し出られ、心肺蘇生を行わないと確認;私は正しく選択された治療に従って進みたい。

声8: 延命の目的は「社会復帰の可能性」に限って考えたい ――「鉄の肺」は その目的にキチンと沿っている。植物人間や脳死の問題に医療がどこまで関与すべきなのか疑問だ。子供・老人に限らず「治る」ことを念頭において判断して欲しい係り: 「尊厳」という言葉の煙幕の中で しばしば 無理が通って道理が引っ込む。ご家族の「倫理観」に頼れない場合、「延命は私費にて行う」とすれば 問題はずいぶん解決するだろう)。
 
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR