(451) 延寿 の 一服論

   (451) 延寿 の 一服 論 (いっぷくろん)

「貨幣 ( かへい ) 」には 表と裏が同時に両立する。人には男女二つの区別があり、意見には賛成・反対がある。そこで今日の話題は「延寿の支持論と一服論」とする。

♣ まず 福祉支持論は、① 戦後69年間、戦死者をゼロにした(先進国の中で日本だけ)、② 国民の平均寿命の世界一を25年間もキープしている、等がある。逆に福祉一服論は、③ 生活力のない依存老人の数が世界一多数 . . いま24% . . 近かじか40% ―― 総人口の半数に迫る、④ 年金・医療費・介護費の総計は 110兆円 ―― 税収45兆円の2.5倍に及ぶ。

♣ つまり社会福祉と言えども “支持” と ”一服” は貨幣の裏表だ、と理解されると思う。結局、有害な要素を削ぎ落とす人知の技量が天国への道となる。そもそも “福祉のもたらす「延寿」は、人々を天国に導く”という暗黙の信念に基づくものだろうが、今のところ それに決定的な 証拠はない 1)

♣ お年寄りに聞くと、 「長生き」 と 「幸せ」はまったく別物である、と言う。長生きすることは 幸せなことと思われるが その喜びは 案外に薄く、片や 弊害としての認知症・多愁訴・多病・骨折・誤嚥性肺炎などの悲惨は重くのしかかってくる。人間の遺伝子は、更年期までの健康を保証する が、子を産まなくなった古い体に発生する不具合は、 遺伝子の修復能力を遥かに越える。壊れた体の臓器修理はうまく行かず 新品に取り替えるしか手がない。そして新品( = 孫)はもう十分に育っていて、取り替えの準備は用意万端だ。これを 他人から見れば “順調な世代交代”に見えるが、当の老人にとってみれば 自分が孫に置き換えられることは “ほろ苦く悲しい現実”である。

パール・特養入所者の実態を示すと:―― 認知症は100% 大腿骨骨頭骨折は約半数の48% ―― その頻度は70代< 80代< 90代と進み、 左右の重複骨折例は全部90歳代だ ―― つまり‘長期使用’で思わぬ‘骨折’というのが現実であり、延寿による骨の寿命切れ が示唆される。

♣ 加えて、死亡原因の80%は 誤嚥性肺炎 だ ―― その理由は数種類の“喉神経の損耗”であり、工夫を重ねても その老化を補完することはできない。仮に そのまま「長生き」するとしたら、人々は 遠からず “痴呆の進行+骨折+誤嚥+他界” という道をたどる。

♣ パール発足以来、入居者の最高年齢は 108歳であったが、15年の努力の元であっても グループの平均寿命は、87~88歳を 少しも越えない。この事実は日本全体の人口動態にそっくり である:つまり日本の平均寿命=86歳、その最大寿命≒110歳前後 2) 。この実情は どの施設でもほぼ共通なのでは?と思われる。つまり 医療や介護の進歩は もう限界に来ているのだろう 3)

♣ この不都合を根本的に解決する“幸せの方法” ? ―― それは (A) 人類の遺伝子を ガン遺伝子のように“不死”に改良する、(B) みんなで長生きを自粛 ( じしゅく )する;これ以外の方法があるだろうか?(A)は「山中伸弥博士のiPS細胞のヒト受精卵への応用を待たねばならないし、(B)は 結局 「延寿も一服 ( いっぷく ) 」という実務的な結論に妥協せざるを得ないようだ。

♣ この不安を避けるためには 「保険」という手があるが、延寿の保険は ‘命の保証’ではなく、“子孫繁栄” である。西暦元年、世界人口は1億人であった。あれから天災・飢饉・戦争の困難が続いたにも拘わらず、人類は今70億人の繁栄である。 人類は個人の都合ではなく、集団的に発展していく のだ。こうすることで「命」の継承・繁栄は正しく行われていく。

♣ つまり 「命」とは 一人の個人が安楽に延寿を享楽することではない、汗とともに生き、仲間を助け、みんなで子孫繁栄を行なうことなのである。個人的な「不老長寿」 「不老不死」の願いは その中に凝縮されているのではないか。 

結論: 人間の種 ( しゅ )特異性からみて、延寿の まともな限界は すでに達成されているように見える 。それゆえ 社会構造を転覆させるような新しい介護保険の延寿企画は もう諦めよう。我々は「延寿の一服論」に着目、老人を ふしあわせ に長生きさせる策を練るのではなく、現状を受け止め、現実的な平和路線で進むのが 老人にとって一番 優しい道ではないかと思う。

参考: 1) 新谷冨士雄・弘子:各国の寿命、五つのハテナ?:安全管理 #439, 2014.  2) 最大寿命と平均寿命、安全管理 #436, 2014. 3) 認知症の増大に歯止め?:安全管理 #442, 2014.

 職員の声

  声1: このところ、 「もっと長生きしたい」 とか 「長命=幸福」と考える老人は少なくなった ―― 理由は年金・医療介護費が減らされ、生き辛くなったから、とのこと (係り: 老人環境は、一昔 前 20人に一人、今 4人に一人、やがて2人に一人という多数派の勢い;こんなに多数の老人を どうしたら扶養できるのだろう? )。

声2: お金と労力をかけても、寿命は延びないのか? お金がなかったら寿命は短くなるのか?(係り: 誤解のないように ! お金をかけないと、短命の人は短命で終わる;しかし お金をかけても平均寿命は86歳で頭打ち 2) 昔 お金持ちの王様・女王様の寿命もこれ以下だった . . 人には天寿があり 条件の良い時 平均寿命は86歳、最大寿命は116歳である . . ただし日本の86歳人口は70万人、116歳は2人のみ)。

声3: 「寝たきり寿命」を延す効果だけしかない医療はお断りだ;社会構造を転覆させるような延寿・介護計画は人々を不幸に導く (係り: 昔は“寝たきり”、今は“車椅子きり で 長がーい病気寿命 ! ”:福祉とは若者から召し上げた税金をドブに捨てる仕組み なのだろうか?)。

声4: 私は女性の健康寿命73歳だけで満足だ ―― その後に続く病気寿命はお断りする (係り: あなたは病気寿命のプラス13年間の権利があるが、寝たきりの90歳などに未練はないのか?)。

声5: 病気寿命は減らすべきだ係り: 現実の統計では、逆に病気寿命は ジワジワ増えている ―― それは医療と介護の進歩によるのだ . .その結果 寝たきり寿命が長引くとは 皮肉なことだ ! )。

声6: 老人は いつまでも元気で長生きして欲しい、これは私の本音である (係り: 元気 結構、長生き 結構、ただし人間の平均寿命は86歳であること、プラス その年齢の認知症率は50%であることを反発しないで受け入れて 多老社会の計画を立てよう)。

声7: 延寿の問題に関して安楽死」の導入も検討せざるを得ないだろう (係り: 「安楽死」は‘苦しさのあまりに自分が死にたい’が動機だ;これに対して 「延寿」は‘若者たちが不当な過剰課税’を受けないことを目的とし、関係者はぜんぜん違う)。

声8: 「長生きを自粛する」という掛け声が普及するとは思えない、特に家族が大反対だろう (係り: やがて国民2人のうち一人が依存老人になる . . . あなたの相棒の老人をあなたが扶養するハメになるが、あなたはその老人を背中に背負って ずっと面倒をみてあげられるか? . . 反対する家族が年間500万円を負担してくれるだろうか?もし Yes なら 良いけど)。

声9: 人間存在の最大目的を考えれば「子孫繁栄」に落ち着く;ならば お金の使い道 はどうあるべきかは 自明であろう ―― そろそろ本音で行動 したらどうか? (係り: よくぞ おっしゃった ! 人間 老年になれば子孫繁栄に直接のタッチはできない . . 言ってみれば 人類進化に関与できない‘余分な命’である . . . つまり 国は 「儀礼」 に欠かせない範囲で「養老」を行えば良い のだ;国が傾くような見栄を張った福祉は愚かなことである ! )。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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