FC2ブログ

(458) 笑ってみよう

  (458) 笑ってみよう  

  元気な心は元気な体に宿る。でも これは簡単なようで難しい。笑う門( かど )には福来たる !  あ、これならいい !

♣‘箸が転んでも笑いこける’のは うら若い女性特有の現象であり、高齢者では、そうそう たやすく 笑顔を見せて頂けないようだ。パール・特養のサロンは3階と2階に分かれていて、3階のほうは要介護度の進んだ方々が過ごしておられるが、テレビをご覧になっていても 声を出すことなく 大変静か である。これに対して、2階のほうは要介護度の軽い方々が過ごしておられ、笑顔が多く、テレビを見ても 声を出して どよめく雰囲気が見られ、3階とは対比的である。2階も3階も、平均年齢は86~87歳であって、有意の年齢差はないが、認知症のレベルには明らかな差がある。

「笑い」は、喜びの感情と繋がっている“副交感神経反射”によって起こる。人間の脳は‘二階建て’になっており、一階部分は「動物脳」、二階部分は「人間脳」だ。「笑い」は「動物脳」がリラックスし、 「人間脳」が‘おかしさ’を感じた時に発生する。認知症になると、「人間脳」で‘おかしさ’を感じることができなくなり、 「笑い」が分からなくなる

♣ 猿や犬・猫は‘喜び’を感じるようだが“声を出して笑う”ことはない。まして“鳥や蛙”は笑わない。つまり、「笑い」とは、人間のように発達した大脳の所産なのである。

♣ 皆さん方、日常のケアを通じ、ご利用者が「どの程度 お笑になるか」を観察すると「動物脳人間脳のバランス」が理解できるので、ひとつ 注意を向けて見られると良い。

♣ 「笑い」は「ストレス解放、免疫強化」などの理由で健康増進に効く とされる。ならば、高齢者介護で「笑い」を誘うような行動をもっと取り入れたらどうか、とさえ思う。しかし 同じ笑いであっても「空笑い (からわらい)では意味がないとも言われる。空笑いとは、笑う内容がないのに、顔だけが笑っている状態であり、統合 失調 (分裂病) の特徴でもある。そこで ナゼ認知症で‘おかしさ’が分からなくなるか、の理由を考えてみよう。

① 記憶の喪失: 落語 (らくご) を思い起こして欲しい ―― ちょっと前に耳で聞いた事と 今聞いた事が矛盾すると 人はハテナ?と思い 笑いが誘われる膨らんだ「期待と関心」が裏目に出ると 思わず「笑っちゃう」のだろう。もし記憶のない人の心なら そもそも 心の中に“矛盾”なんて存在せず、ただ平坦な「無」があるだけ で「笑い」の存在する理由は全くなく、仮面状の無表情が続く のみだ。

② 時・所・人の喪失: 認知症に“時”の概念はない ―― 夏と冬の意味は分からず、8月に冬服を着て汗を流しているが、本人はちっともおかしくない。 “場所”の感覚が薄い ので、トイレではない場所で排便しても、“変だ?”とは思わない。 “人物”の区別がつかなくなる ので、自分の息子に“あなたは どなたでしたかのう?”と語って平気でいる。

♣ 要するに 「笑う」とは高度な感情 であり、人間は大脳皮質の発達により、辻褄 (つじつま)の合わない現象に出合うと「思わず笑ってしまう」ようになった。逆に 大脳細胞数が減少・欠如 し、所定の脳細胞の協力機能がなくなる認知症では、笑う内容が脳の中に発生しなくなる のだ。老人のケアを続けている皆さん方の中で、この1~2年で 「笑い」 が消え、ハテナ?と思った症例 をお持ちの方もあるのではないか?

ある高名な病院の院長先生、75歳。その年の忘年会で、若者たちが披露する「お笑い劇」を 一番前の席で見ていて 苦虫を噛み潰したような顔でおっしゃる ―― 「皆はこの劇を見て笑うが、私には何がおかしいのか、さっぱり分からない」と。案の定、半年後には「正常圧水頭症」のために職を辞されてしまった。この病気は 脳細胞数が減少し、“ボケ・あひる足歩き、おもらし”の特徴を示すことが知られている。

♣ 別な例で 女性104歳のY.T.様 ―― いつも怒りっぽくて機嫌の悪い方だったが、「お化粧の会」に参加して綺麗にしてもらったところ、カメラの前で 満面の笑み を一同に披露され、周りの人たちを唖然 (あぜん)とさせた。つまり高齢者は一般に笑わなくなる、とは言うものの、問題は単に“高齢”だけが原因なのではなく“認知機能の強弱”で「笑い」の存続が決まる のである。 

結論:  気分にムラのある高齢者でも、介護者が笑うと相手もつられて笑うことがある。90歳でも100歳でも、笑ってもらえるようなケアができれば この上なく楽しい。“笑うとボケない;笑う門 (かど) に福来たるなど、介護にとって「笑い」は とても大事な雰囲気要素 ではないだろうか?

 参考  Jim Holt: Why Laughing Matters. Discover 7: 67, 2008.

  職員の声

  声1: 認知症で笑いが減ることに気づかされた;利用者に笑って頂くと 自分のボケ防止に役立つ係り機嫌の悪い人だな?と思うと、案外に それが認知レベルの問題だったことに気づく)。

声2: 安心感がないと笑えない;笑いが減ったら要注意だ ―― なるほど納得のいくお話だった。

声3: ツボを得て 笑いを提供するケアこそ 私らの最大の遣り甲斐でもある(係り: 一般に 真面目過ぎる講義より 笑い声のある講義のほうが受け入れてもらいやすい . . . 名人は所を得て聴衆を笑わせる)。

声4: デイ・サービスのリーダー業務を担当するとき、どれだけ笑ってもらえたかが‘適役の判定基準’になる;笑いの絶えないサービスを心掛ける。

声5: ご利用者は いつも笑っている人・怒っている人、様々だ;笑いが大脳機能によることを学んだが、私の観察では 笑っている利用者よりも 表情の硬い利用者のほうが多い、ナゼ? 係り: よく気づいた ! 精神科一般でも 笑う人より怒る人のほうが ずっと多い . . . 攻撃・防御が生命維持に大切だからだろう)。

声6: 私は5年前 顔面神経痛を患い Drに相談 ―― 「とにかく いっぱい笑いなさい」と指示され安心感を頂いた。

声7: 認知症の進行とともに「笑顔・表情」が乏しくなるが、良い刺激があれば 笑顔は戻ってくる係り鬼の表情が恵比寿さま になるひと時が よくある ! その機を見逃さないで会話を進めよう)。→ ’声9’カナリアを参照。

声8: 認知症進行と笑いの欠如は 相互に因果関係にあるのだろうが、介護者がおおらかに笑顔で接すれば、相手も同じように笑ってくださる係り: 赤ちゃんと同じ だね)。

声9: 2階サロンでお過ごしの軽症ご利用者たちは、3階サロンの重症認知症の人たちと違って、人と会い テレビを見て よくお笑いになる ―― 笑える今のうちに 命をどっさり楽しんで頂きたい係り: 子供たちの美しい空想や優しい情緒を表した 童謡作家の西条八十( やそ )の歌を連想させる ―― 歌を忘れたカナリアは 後ろの庭に捨てましょか?いえいえ それは可哀そう . . . 歌を忘れたカナリアは 象牙の舟に銀の櫂( かい )月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す ―― 認知症のお年寄りは 歌を忘れたカナリアなのかも知れないなー)。
プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR