(487) 所 変われば 品 変わる

   (487) 所 変われば 品 変わる

 所 変われば 品 変わる、という格言がある。私が一番びっくりしたのは 今を去る 70年 前のこと。

♣ その頃 英語は 「敵性語」 と呼ばれ、敵を憎むあまり 敵の言葉を社会から無くする運動が盛んであった。例えば、ベースボールは (野球) へ、ストライク 3 (良し三つ) 、ボール (駄目)、鉛筆のHB (中庸)、ピアノ (洋琴)、パーマ (電髪)、サイダー (噴出水) などである。

♣ 笑いの頂点は 「ビー動詞の廃絶」 であった。御存知の英語 : ―― I am a boy ( amデスの意味)、You are a girl. ( areデスの意味)、He is my father .( isデスの意味) . . . 「デス」 を いちいち am, are, is の三つに分けるのは愚かだ . . .わが日本語は 「デス」 一本槍で簡単明瞭、I am a boy.は “I デス a boy. You デス a girl . .etc .” にするほうが合理的である、と主張された。 ⇒ 所 変われば 品 変わる、を地 (じ) で行くような気分だった。

♣ 同じ意味の言葉が いろんな現実を演出する . . . その例を「福祉の世界」で見てみよう。 「鶴の恩返し」 という物語がある。苦難を助けられた鶴が 助けた男に恩返しをする、という粗筋 ( あらすじ ) であるが、英語で 「恩返し」 とはどう言うか?日本語で言う 「恩」 は英語の一文字ではナイ ! 強いていえば、「借金、負債、恩恵、感謝」 などの文字を使う。「恩に着るよ」 などは 「あなたに負債があるよ」 を翻訳しなければならない。まあそうかもしれないが、つい簡単にThank you !で済ませたいところである。でも 「鶴は男にサンキューと言った」 では サマにならない なー。
所変われば品変わる

♣ 「介護 も複雑怪奇である ! 「介護」 は日本の新語である ! 英語では 「ケア」 と言うが、それは日本人の 「片想い」 である。その証拠に ”Care” を辞書でひいてみたまえ ―― 心配、気がかり、不安 . . . などから 意味は 20 も 30 も書いてあり、その末のほうに 「介護」 が出ている。だが、私がスエーデンの老人施設を見学したとき、そこの看板に 「CARE」 と英語が使われていた。CARE は英語でありながら世界語でもあるらしい。

♣ さて、あなた 「老後」 って英語でどう言うか想像できますか? “ After old” なんて言うと、腹を抱えて笑われますぞ ! 英語に限らず、「老後」 なんて、日本語でさえ不明瞭な言葉だ。 「老後に備えて貯金しておきます」 と言ったのは、双子の キンさん ・ ギンさん が100歳 のお祝いの金一封を貰った時にテレビで答えた有名な言葉だ。100歳 の人の 「老後」 って何だろうか、テレビ放送を 見ていた国民は大笑い をして拍手したという。正しい老後の英語は単に 「Old (age)」 だけ。何となく頼りないなーって感じだが、あちらでは 「オールド」 という言葉が好まれない ――好まれるのは 「オールド・パー」 (超高級ウイスキー) くらいか?

♣ 「食介」 に移ろう。 御存知、ショッカイ とは 「食事介助」 をつづめた言葉であって、日本では これ無 くして介護施設は成り立たない。ところが私がスエーデンで見学したところ、点滴もなければ食介もない。尋ねてみると答えが返ってきた ―― 「私たちはお年寄りの枕元にパンとスープを置きます . . . それを自分で食べられなければ、その方の人生は終わり なのです」、と。そんな カッコいいことで施設が成り立つのか? 実際、食介を英語にすると 「餌をあげる」 になる。鳥や獣は子に餌を与えるが、子は親に餌を与えない。だから老人への食介行為は 老人の尊厳を著しく傷つける . . . そんな感じなのだ。

徘徊 ( はいかい ) もそうだね。元来それは ‘詩人山谷をさまよって風流な詩作をすること’ だった。今の徘徊は老人にほぼ限定されて用いられる。しかし、実態は人騒がせな行為なのに、なぜか風流でユーモラスな語感があって なかなか良い。この言葉も 対応する英語は無く、 「さまよう、散歩する、遁走( とんそう )する」 で表現しなければならず、翻訳すると 誠に味気ない。 

結論: 英語にあって日本語にないもの、それは明治初期の工夫によって ほとんど片付けられた . . . 例えば、会社 ・ 社会 ・ 哲学 ・ 科学 など。これらの言葉は 江戸時代には存在しなかった。しかし、日本語にあって英語にないものも どっさりあって、その例は、恩 ・ 介護 ・ 老後 ・ 食介 などである。まあ、1 対 1 に対応しない概念だからこそ異文化なのであろうか? 福祉の世界でも 「対応するものがない」 ことを発見すると、あっち と こっち の 福祉の良否が よく見えるような気がするけど、あなたはどう思いますか? 1907字

  職員の声

声1:鶴の恩返し」 に見られるように、日本では 「国体 ・ 先祖 と個人の繋がりを “恩” と解釈」 し、「 とは過剰に お返しするもの」 という社会的了解があるようだ ―― それが日本の介護保険のあり方を支配しているのではないか?(係り: 「恩」 を英語に翻訳しにくい理由は そこにあるのかもね ―― 逆の立場で見れば、 「恩は過剰に 売られている」 のかも知れない、だから 介護予算 が膨れ上がる のかもね)。

声2: ご利用者で 90歳 の女性が英字新聞を読んでいるのでお尋ねしたら、学生の頃から津田塾で 「敵性語」 の英語に慣れているし、異なる意見にも理がある事を知るべき だし、とおっしゃっていた(係り: 京都の 「ぶぶ漬け」 と東京の 「お茶漬け」 ; 少しは違いうらしい中に 大事な意味が隠されている)。

声3: 介護業界の日本語は分かりにくい ―― 介護人 (ヘルパー) 、介護計画書企画事業所 (ケアプランセンター) などの 聞いて分かる言葉に したい(係り: 日本語には “漢字” があるから 漢字表記を求める官僚が多い; 自国語では表現できない国々のほうが多いらしい)。

声4: 海外で食介をしないというけれど、家庭で一緒に住んでいる親が、自力で食べられなくなっても、食介をしないのだろうか?不思議である(係り: 家庭で出来る範囲のことなら “食介” と呼ばないだろう . . . 乳幼児に feed = 餌をあげる’ と言うように)。

声5: スエーデンでは食介をしないというが、もしスエーデンの王様が自分で食べられなくなっても食介をしないのだろうか?(係り: 尊い方々の ‘しきたり’ は庶民には測り知れない ―― ちょうど ソロモン大王 ’ の介護 が 「若い女性の体温を活用」 した故事のように )。

声6: 日本語と外国語で 11 に対応する言葉がないものがある (例 ・ 老後、食介など) ―― その中で、良い福祉の受け止め方にヒントが得られるのか?(係り:透析」 は全世界共通語だけれど、イギリスでは 1980年 以降 老人透析はしない、「延命胃瘻」 についても同じくだ; それが福祉の幸福に繋がるという認識なのだが、日本の意見とは ずいぶん 異なる)。

声7: 同 じ介護でも、家族介護なら 「愛情はあっても知識は不足」 であろうし、施設介護なら 「知識は豊富であっても愛情は二の次」 になるかも知れず、介護における 「所」 と 「品 」は “様々” だ(係り: その昔、 “看護” がそうだったらしい ―― 150年前のクリミア戦争当時の戦病者の扱いは、敵味方は当然 差別 したし、環境は僧院ふうであって科学衛生とは ほど遠かった . . . それを改めたのがナイチンゲールであった: 近代的な “介護” も その始まりはせいぜい 30年 ほど前に過ぎない . . . 所も時代も品も みんな変わりつつある)。

声8: 外国人が行わない介護を日本人が行うのは 「文化と精神の相違」 の現れで当然のことだが、それ故に経費が掛かるとなると困る係り: つまり親孝行、食介に始まる もろもろの延命処置は日本独特であり、その基本は文化の違いよりも 経済的な裕福さにある のかな?)。

声9: 長寿化と引き換えに 「ガン患者国家」 「認知症国家」 が出現した;私は 日本 ・ 世界 に通用する 「本当に役立つケアのあり方」 を研究したい(係り: 死の原因なら、昔は結核、次にガン、そして最期は痴呆 . . . 高齢化と共に この疾病変遷の流れは、仮に予想できたとしても 変更することは出来なかった; だって所詮 ヒトはいつかは死ぬものだし、死の形態がイヤだから産まれて来たくナイ、と言っても産むのは私ではなく親だし . . . きっと一番 自然で役立つアイディアは “更年期で惜しまれて死ぬ” 戦前のパターンだろうなー、でも老人は これを激しく拒否するだろうし . . . 人間、頭が良すぎて 動物のように ‘仲良しグルーミング’ だけでは気が済まず、徹底 して 「ケア」 に励むもんなー . . . 役立つ言葉は “妥協” または “没法子=メイファーズ ” か? → )。
所変われば品変わる

参考:  新谷冨士雄・弘子:ソロモン大王の介護:福祉における安全管理 #4 ソロモン大王の介護、2010.
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Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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