(502) アルマアタ宣言 と 日本 の介護

    (502) アルマアタ宣言 と 日本の介護

アルマアタ (Alma Ata) は 旧ソ連邦のカザフ共和国 ()の首都の名前である。ソ連崩壊後、今はアルマティ (Almaty) と名前を変えた。今を去ること 37年 前 (1978年)、「世界保健機関 ・ WHO」 はアルマアタ市で 世界 143ヵ国 の代表を集め、プライマリ ・ ヘルス ・ ケア( 健康管理の基本) について討論をし、「アルマアタ宣言」 という当時では有名な 歴史的な宣言 を出した。

♣ アルマアタ宣言は10条 よりなり、詳しくはネットを参照あれ ; ここでは その概要と、日本にとって教訓的な内容について検討する。さて、参加の 143ヶ国 の ほとんどは 「先進国」 ではなかった。したがって、このアルマアタ宣言は 「発展途上国が分限を越えた援助を先進国に求めるべきではない」 という匂いを持っていた。と同時に、先進国といえども、自国内の福祉に 身分不相応な 大盤振舞い をすべきではない、と警告をした。
アルマアタ宣言と日本の介護
♣ 「健康管理の基本」 の概要は次の 六つ である : ① 自立の精神、 ② その国の開発の程度に応じて、③ 負担可能な費用の範囲内で、④ 社会と家族の十分な参加によって、⑤ 科学的に適正で、⑥ かつ社会的に受け入れ可能な 「手順と技術」 に基づくこと。

♣ さて、アルマアタ宣言は現在の日本の介護経済についてたいへん示唆的である ; 順を追って検討する。 ① ② ③ については 高福祉を目指す日本で、国民の 権利意識 が高まり、波乱含みのトラブルが相次ぐ。「医療」 の場合は 「治る」 という一応の限定目標があるけれど、「介護」 の場合の目標は 「終生であって、望む 長寿 を達成するとすれば、自立と費用の点で 目標は無限の彼方に遠ざかる。

♣ 私は 50年 前の家庭や病院のあり様を知っているが、それは 人生 50歳 時代にふさわしい 「質素な目標」 だった。ところが 「人生 100歳 」に近づく現在、その介護の国家負担が一般家庭では考えられない ‘億円’ に近づく例が続々と増えているのだ。国はその莫大な支払いを 安易に ‘若い世代の借金’ として振り分ける。かくして ‘認知症老人の天寿’ は底知れずの彼方に遠のく。家族も経費負担が微少な故に 億円ものコストに無関心 、国は消費予算の過大さに衰亡して行く。政治家は 老人におもねって 過大の予算を不問に付す。

♣ ④ の 「家族の参加」 の意味は すっかり変わり、家族が居ても 「独り暮らし」 、家族とは言うが 「老々家族」 、家族があっても 「施設まかせ」 が少なくない。軽い経費負担は 家族の介護関心を麻痺させている。

♣ ⑤ ‘科学的な適正さ’ も問題をはらんでいる。人間は 誰しも強欲な上、長生きに伴う身体不調は我慢できず、それを若者からの税金で逃れようとするから、経費は天井知らずだ。そもそも 「科学的に適正な老人」 という存在があるのだろうか?生命は「生病老死」のサイクルを繰り返すから、「老」 のステージだけを引き延ばそうとすれば 巨万の富 といえども 雲散霧消 (うんさんむしょう) してしまうの だ。

♣ ⑥ の 「手順と技術」 は すっかり変わってしまった。昔の 「医療」 はおとなしい 「お仕着せ」 が多かったが、今日の流行は 「自己選択とテーラーメイド」 で、格段のお金と手間が掛かり、その上 公費処理 が求められる。また 「介護」 は 権利意識の強い 「保険」 となり、その財源は 「次世代の若者たちへの{ ツケ } として処理される。老人を優遇する姿勢は評価できるが、その反動として 若者搾取 で 帳尻 を合わせれば、たちまち ‘産まれる赤ちゃんの数’ が減り、その結果 ‘多々老・少子社会’ の憂き目に合う。これが社会的に ‘受け入れられた手順’ とは 到底 思えない。

♣ さて、日本では、2008年 以後、人口が減少へと大きな流れに変わった。つまり、「子」 を産み終えた 多数派の老人は優遇されるけれど、「子」 を産み育てる真っ最中の若者たちは 老人援助の経済に虐げられて 「子」 を産むに産めず、多々老・少子現象は悪化するばかり だ。その上 2040年 には 団塊の第一世代は 100歳 、第二世代は 65歳 の多重の高齢化 ; つまりその頃には 「老人の重圧オーナスの最盛期1 ) が訪れる。現在でさえ介護経費は毎年 一兆円 以上も増えているが、 少子化の結果で 新規の財源確保は期待できない。人間、 「働かざる者 食うべからず」 は 普遍的な金言なのに、多数派の老人は 適用範囲外にされ、なんと言っても、日本の ‘働かない高齢者の重圧’ は強力なものなのだな、との実感だ。

♣ こうして見ると、アルマアタ宣言は 37年 まえの決議であるが、今日の日本へも福祉制度の維持に関して 重大な警告を発しているように思える。日本国民は、古くは 「五箇条の御誓文」 を 2 ) 、新しくは 「アルマアタ宣言」 を復習する機会を持つべきではないか? 

結論: 国民の多くは 「良質で効率の良い医療 ・ 介護」 を求めるが、‘高度の願いを 低負担で 同時に 実行する’ のは不可能であり 、身の丈に合った福祉の意味を理解すべきだろう。 アルマアタ宣言で 特に念を押したい項目は、‘高齢の実態 3) ならびに その科学的な意味 4) ’ であり、これは日本の介護界で一番 苦手で かつ 必要な認識分野 ではないだろうか?

参考: 1) 新谷冨士雄・弘子、「あすの介護と人口オーナス」 : 福祉における安全管理、# 499, 2015. 2) 新谷 : 「胃瘻 : 20 の私見を紹介、その II 」 : ibido # 378, 2012. 3) 日本女性の平均寿命 86歳 は世界一であるが、逝く前の 13年間 は病気寿命でもあり、これも世界一 長いのだ ーー 誇れるだろうか? 4)  生命の科学で言えば、長寿とは言え、ヒトの認知症の頻度は 85歳 で 50 %、100歳 で 80 % という現実から目を背ける訳にはいかぬ ーー ヒトは ラテン語で 「ホモ ・ サピエンス」、つまり 「賢き存在」 と名付けられているが、いったん 「賢さ」 が失われてしまえば ホモの形骸になってしまう。

職員の声

声1: アルマアタ宣言で印象に残ったのは ‘三つ’ 、それは ① 自立の精神、② 負担可能な範囲 & ③ 家族の参加だった: その他、国が ‘身の丈’ 不相応な大盤振舞い をすべきではない ―― つまり 「過剰福祉」 を奨めないことだ(係り:現実には ‘自立’ は苦手、経費の負担は イヤ 、家族は楽(らく)をしたい ―― 皆 アルマアタ違反だ)。

声2: アルマアタ宣言を初めて聞いた: 身の丈に合う福祉を考えることが今後の日本の課題だ(係り: 日本人女性の平均寿命は 86歳 で頭打ち ;身の丈に過ぎたる思惑(おもわく) = ‘お金を掛ければもっと長生き’ という考えはムリだと判明した)。

声3: アルマアタが特に念を押したことは 「高年齢の実態と その科学的な意味」 を考えることだ(係り: つまり 日本は 世界一の長寿 (86歳) を世界一長い介護期間 (13年) で達成していること ―― つまり ‘病気で長生きという実態: 科学的な意味は 「積み重なる生活習慣病に加えて 85歳 認知症の頻度が 50 % という知られざる悲哀」 ―― 超高齢の認知症を養老するための財源開発が急務である。

声4: 介護期間が平均 13年 の長きに及ぶ日本で、良質な介護を ‘低負担で’ 求めるなんて、それは ‘ムリ’ ではないか?

声5: ‘ムリ’ かも知れないけれど、自分が介護を受ける立場になれば、‘ムリ’ を承知で良質な介護を受けたいだろう(係り: ‘老いては子に従う’ というのが格言であったが、今のご時世では ‘老いてなお 子にたかる’ という時代になった ―― それは老人が悪いのではなく、老人の ‘数と年齢’ が飛躍的に上がったからである)。

声6: 日本では 個人が負担できない範囲を越えて介護が行われているのか?(係り: たとえば ‘要介護5’ の場合、10年間 で 5,000万円 掛かる . . . 全部 個人負担できれば ‘福祉’ とは言わない― ― 介護度の上がった老人が増え、当初の予算が 3兆円 だったものが、昨年は 10兆円 に膨らみ、養老費は国家税収の 2割 を占めるに至った)。

声7: 医療のゴールは 「治るまで」 、介護の目標は 「終生で無限 ;両者を比べれば、介護のほうにお金が掛かるのは目に見えている―― 経済バランスを保つためには 「ボランティアの参加 ・ 富豪からの寄付」 と 「身の丈に合った介護で我慢」 するしかないのでは? (係り: 老人の既得権に触る勇気を国は持って欲しいね)。

声8: 元気な高齢者が働く場所の少なさを愁える ―― 体を動かすことが健康維持に重要だ(係り: まず、定年後 75歳 までの 10年 ほどを働いてもらうと社会は明るくなる、特に女性も)。

声9: 毎年 1兆円 ずつ増える介護費用、国全体で真剣に知恵を出さねば(係り: 今は 10兆 円で済むが、団塊世代が介護対象になると 18兆円 になると予想され、他方 不景気の故に国家税収は変わらない ―― つまり我々が生まれた目的は老人を養うこと にならないように舵を取りたいが . . . 。

プロフィール

ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
安全管理 ふじひろのページ

最新記事
全ての記事一覧
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
QRコード
QR