(495) 不 老 不 死

  (495) 不 老 「不 死」  
      
明治の作家 ・ 徳富蘆花 (とくとみ・ろか) の作品 「不如帰」 (ほととぎす) では、新婚 間もない 相思相愛の浪子と武男 の会話がある . . . 浪子は はたち前で、進行した結核のために余命 幾ばくもなかった。彼女は夫にすがり付くように語る: ―― 「私 きっと 治りますわ、きっと —— あ あ あ、人間はなぜ死ぬのでしょう ! 生きたいわ ! 千年も万年も生きたいわ ! 」。

♣ K.L.さん の母親は 98歳 で、特養に入所中だ。母親は 老人性廃疾で、目も耳もご不自由 ・ 歯は総入れ歯 ・ 大腿骨は左右とも骨折 しており、その上 体格指数 (BM I)は 12 に近づき 1) 、満身創痍(まんしん そうい)で 余命幾ばくもない。K.L.さんは 毎日のように母親を看病に来られ 涙ながらにおっしゃる : 親戚は “もう十分に生きた” と言うけれど、私は母に長く生きて欲しい、千年も万年も生きて欲しいわ . . . ”。

♣ 私は 時代の変遷をつくづく感じる: ―― 昔の 「千年・万年」 は 主に本人の望みであった . . . 近年の 「千年・万年」 は子が老親を想う願いとなった。私は先々月、この欄で ‘不老 長寿’ について意見を述べたが 2) 、いまや’長寿’ではすまず、 ‘不死’ を語らなければ務めが果たせなくなった。

♣ 私がこの問題に直面するとき、いつも頭から離れない問題がある . . . それは、その ‘おねだりの主’ は 「本人 ・ 家族 ・ 国家の三つのうちのどれか」 の問題だ。冒頭に述べたように、‘千年 ・ 万年の寿命’ を望んだのは 二十歳前 の若い ‘浪子・本人’であった。若者が自分の不老不死を ’おねだり’しても 社会への実害はなく、可愛いものだ。

♣ 二番目 の例では、子の KLさん が 98歳 の母親の不老不死を望んだのだから、’願い主’ と ’願い先’ は異なる ーーつまり子自身が自分の不老不死を望んだのではなく、それを他人である親孝行として 願った訳だ。親孝行は日本の美徳であるが、重い認知症の親は 「死」 を理解することができない。そんな親の不老不死を ‘他人の税金’ ( = 介護保険)で 実現しようとするのは 他人様迷惑ではないだろうか?

♣ では、三番目の 「国」 が 果たして老人の不老不死を望むか? 介護保険の目的には ‘天寿’ を全うするための 「尊厳と自立」 と書いてあるが 3) 、その中に 「延寿」 という項目はナイ ! ところが、現場では 介護を受ける老人側の義務項目である 「自立」 は無視され、それどころか 保険目的には記載されていない 「延寿・不死」 が願われている。 国は この項目に関しては 口を閉ざしている。仮に 老人の不老不死が可能で、社会も それによって繁栄するのなら、人口の過半数を占める老人票の 「多数決政治」 で その達成への研究は盛んになるだろうが、残念ながら 今の日本は 「老人オーナス現象」 4) によって 国家は 衰弱状態に近づいているのだ。
不老不死

♣ その有様を で観察しよう。図の横軸 は年月・縦軸は 総人口に占める百分率。「老」 は老人の、「幼」 は 14歳 未満人口の比率だ。左下の「老」 から読むのをスタートする。老人は 1930年 (昭和5年) 以前には総人口の 4 % をキープ;日本のバブル期の始まり 1970年 とともに増え始めた ―― これは戦後の 「死期猶予30年」 に一致する 5) 。それからというもの、老人数の増加は勢いを増して ‘鰻登り’ 、図の右端では 40 % に達している。もし家族の希望通りに不老不死が実現されれば 老人の増加は 40 % にとどまらず 100 % に近づくかも知れない ―― はて、その時、老人たちを養うのは誰だろう?

♣ 次に 「幼」 のカーブを見る。社会には 37 % 程度の幼児がいたものだが、社会の繁栄とともに順調に減る運命をたどり、図の右端では10 % に落ち着く。子供(中学生まで)が総人口の 1割 程度で済むものなら、(ガキは少なくて)養育費もそんなに掛からず、大人にとっては とても楽(らく)だ。

♣ 次に 「計」 のカーブを見る。「計」 とは、従属人口 (老人+幼児の合計) の比率であり、戦前は 41 % 、戦後に幼児が減り始めると “見事に” 従属人口の総数は減って 30 % 台に落ちた。つまり、1965年 から 1995年 の 30年間 は 従属人口が少なくて、この時期は日本の著しい発展期(バブル)に一致する。だが 好事魔多し、老人が増えて(死ななくなって)日本はデフレの失われた 20年期 に落ち込み、図の右端の 「計」 をみれば歴然とするように、総人口の半数は 「稼ぎのない従属人口」 に成り下がってしまうのだ。

♣ 計算してみればすぐわかることだが、幼児は 減 37 % → 10 % 、老人は 増 7 % → 40 % ;つまり、問題は 「少子化」 よりも 「多々老」 であることが歴然としている。人々が この統計的事実を知っての上で 「不老不死」 を切望するのであれば、それは正気の沙汰とは言えない。

♣ たまたま、最近の 8年間 、日本女性の平均年齢は 86歳 で ‘頭打ち’ になっている6) 。私は思う : 天寿の延長はおめでたい事とは言え、近年の 「老人オーナス」 の厄災も事実であることから、“老人よ、働こう ! ” と叫びたい。そうして、人の世話にならないで 生きさえすれば、千年・万年と言わず、とやかく言われる筋合いはないのだ ; つまり ‘老人とその家族’ は完全な ‘不老不死の自由’ を獲得できるのである !!

 結論:   不老不死を若者が望むのなら 問題は起こらないが、他人の懐(ふところ)を当て込んで 不老不死を 老人が望むのは 他人迷惑である。 図で分かるように、現状で放置すれば 日本は老人で いっぱいになる ―― 誰が彼らを養う計画か? 介護保険の目的は 「老人の自立」 であり、この義務さえ達成すれば、不老不死は彼らのものとなる。

参考: 1) 新谷冨士雄・弘子 : 「体格指数 (B.M.I.) ≒ 12 は 「天寿の指標」 、福祉における安全管理 # 489, 2015. 2) 新谷:「不老長寿」、ibido # 492、2015. 3) 新谷:「本当の介護とは?」、ibido # 494, 2015. 4) 新谷:「良質で効率的な介護」、ibido # 493, 2015. 5 ) 新谷:「老人福祉とオーナス現象」、ibido # 499, 2015. 6)  新谷:「平均寿命ーー三つの驚き」、ibido # 496, 2015.

  職員の声

声1: 今時の人は あまり不老不死を望まなくなったと感じる ―― その理由は身近な死を知らないからだと思う . . . 死はもっぱら病院か施設で片づけられるし(係り: もう一つの大きな理由は、不死に掛かる経費が介護保険で賄われ、自己負担が僅少だからだ . . . 私費なら最低 一年 に 500万円 かかることを自覚しない能天気だ ! )。

声2: 人も物も時とともに劣化するのが当たり前 . . . 介護保険の手を借りて生き残ろうとするなんてトンデもない . . . 私は死ぬまで働いて すなおに消えて行く(係り: 保険は有難いけれど、運命の理 (ことわり) を曲げさせる難点がある)。

声3: 老人が不老不死を望めば、納税者からの税金がその経費にあてがわれ、福祉予算は窮乏するのみ(係り: 老人が自立して自前で長生きするのなら 何の問題も発生しない ―― 15年前 まではそうしていたよ)。

声4: 介護予算は泉のように湧き出るのではないから、不老不死の願望はほどほどにしたい(係り: 欧州の先進国は ‘植民地’ からそれを調達した、だから結局 不幸な戦争で終結した)。

声5: 親はいつまでも元気でいて欲しい ―― でも心身の衰えは隠すべくもない . . . そんな母は そこそこに天国に召されるのが幸せなのだと思う。

声6: 一休( いっきゅう) 禅師は死ぬ間際に 「もっと生きたい」 と言ったとか . . . もし脳と身体がポンコツなら 生きて頂くのは不幸というべきだ(係り: ‘生きたい’ と願う人は まず 命が宿る器 (うつわ) の体をキチンと整備しておくべきだね)。

声7: 老人を支援するためには 子育て環境を安定させなければ . . . (係り: 育てる前に “産まなきゃ” 話は進まない . . . 今は初産が 30歳 の時代だよ、37歳 にはもう枯れてしまうし . . . 男に熱意があれば、女を 30歳 まで放置してはおかないハズだ ! )。

声8: ヒトは 一人前 になるのに 20年 の長い期間を要する; そこに 多数の老人が 「おんぶ に だっこ」 とぶらさがってきたのでは、働き盛りは ひたすら痩せ細るのみ ! 老人たちは介護を受けて当然顔をしないで、支えてくれる若者たちをねぎらって欲しい(係り: 多くの彼らは認知症だから ねぎらうことを知らない ーー ボケ得現象である ! )。

声9: 「長生き」 をテーマにした TV番組 はたくさんあるが、「自立」 をテーマにした番組なんて ついぞ見かけたことがない; 福祉でも 「自立」 を問題にすべきではないか?(係り: 我が国では “福祉 イクオル 無料依存” という構図で、「自立」 への期待は薄い ―― しかし 北欧の福祉は 「延命医療や無益な胃瘻など」 をせず、運命の理 (ことわり) を受け入れ 自立の範囲内で幸せを得ている ―― 日本も 15年前 まではそうだった . . . 心がけて 昔に戻れば、老人も家族も ともに 世界並みの幸せが 再び得られるのではないだろうか?)。
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ふじひろパール

Author:ふじひろパール
「ふじ」=新谷冨士雄
「ひろ」=新谷弘子

社会福祉法人 パール
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